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【エルメス】H24 オードパルファム(クリスティーヌ・ナジェル)

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©Hermès
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H24 オードパルファム

原名:H24 Eau de Parfum
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2022年
対象性別:男性
価格:30ml/11,770円、50ml/14,410円、100ml/19,580円
公式ホームページ:エルメス

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ウッディではなくボタニカルなメンズ・フレグランス

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エルメスのメンズ・フレグランスの歴史は大きく3つに分類されます。1970年の「エキパージュ」、1986年の「ベラミ」、そして、2006年の「テール ドゥ エルメス」です。

これらはすべて制作当時とんでもなく大胆な香りでした。つまり、エルメスのメンズ・フレグランスの歴史は、革新の歴史だったのです。そして、2021年、再びその時がやって来たのでした。

2014年3月にエルメスに入社し、初代専属調香師ジャン=クロード・エレナの下で二年間の引継ぎ期間を経て、2016年1月に二代目専属調香師に就任したクリスティーヌ・ナジェルにとって、エルメスの後継者として果たさないといけないことは4つありました。

ひとつは、「庭園のフレグランス」の継承、もうひとつは「エルメッセンス」の継承、更にもうひとつは新作の創造、そして、最後のひとつは、新たなるメンズ・フレグランスの創造でした。

そして、2019年末、彼女はようやく念願のメンズ・フレグランスの創造に取り掛かる決心をしました。この香りを作るために市場調査は一切行われず、アーティスティック・ディレクターのピエール=アレクシィ・デュマとパルファム・ビューティ部門のCEOであるアニエス・ドゥ・ヴィリエ、メンズ・ユニバースのアーティスティック・ディレクターのヴェロニク・ニシャニアン、そして、クリスティーヌ・ナジェルの4人の決定の下で創造されていくことになりました。

この新しいエルメスの著名となるメンズ・フレグランスを創造するために、私は従来のメンズ・フレグランスのウッディから離れ、予測することがとても難しい道を、切り開いていく必要性を感じました。

クリスティーヌ・ナジェル

そして、1年の年月を経て「H24」は誕生したのでした。それは現在のメンズ・フレグランスの80~90%を占めるウッディからの解放であり、オリエンタル、ムスク、スパイス、フローラル、アンバーウッディではないボタニカルの香りでした。

2021年2月28日に発売された「H24」の名を提案したのはピエール=アレクシィ・デュマでした。「H」とはHERMÈS、HOUR(時間)、HOMME(男性)の頭文字であり、「24」は1880年以来エルメスが第1号店を構えるパリのフォーブル・サントノーレ店の番地、24を意味しています。さらに「H24」とは、フランス語で「24時間」を意味する一般的な表現です。

そして、2022年10月1日に発売されたのがオード・パルファム・ヴァージョンとなる「H24 オードパルファム」です。

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クラリセージが生み出すハイテクフゼア

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パンタンにあるエルメスのアトリエの最上階にクリスティーヌの仕事場はあります。その一階下が、ヴェロニクのメンズウェアのアトリエです。湿ったウールの上に置かれた熱した金属の匂いがこの空間を満たしています。

それはイタリア系スイス人のクリスティーヌの忘れていた子供の頃の記憶を急速に呼び覚ましました。トラウザー専門のテーラーだった祖母の仕事場をよく訪問していたときの記憶です。

はじまりから終わりまで、スタイルを束縛されない洗練された男の躍動感と、秘めたる野心を感じさせる香りを作りたい!この香りは、明らかに、ディオールの「ソヴァージュ」や「ディオール オム」のような(メンズ・フレグランスの主流である)フレッシュフゼアを愛する男性の心を奪う目的のために生み出された香りなのです。エルメスは「H24」をハイテクフゼアと呼んでいます。

EDPヴァージョンは、オリジナルより、配合のバランスが大胆に変えられており、〝熱した鉄〟のようにシャープなスクラレンの効果を弱め、メタリックではなく、オークモスと(干し草や刈り取ったばかりの草のような)クラリセージが強く主張するバナナとパイナップルのような香りがするフルーティグリーンフゼアです。

クラリセージ(Salvia sclarea)は、カンファーが強い薬用として使用されるセージ(Salvia officinalis)よりも遥かに官能的なアンバー調の香りを放ちます。

このクラリセージはフランス産です。まろやかなマスカットのような側面と刈り取ったばかりの草の側面、さらにアンバーの側面を併せ持つように、クラリセージ・エッセンスとクラリセージ・アブソリュートがブレンドしたものが使用されています。

このスペシャルブレンドにより、クラリセージは、香りの主役として最初から最後まで存在感を放ち続けるのです。フゼア調を生み出す場合、通常使用されるラベンダーの代わりに使用されているのです。

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水仙とローズウッドがより深くたゆたう香り

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私が水仙アブソリュートをハーブの後に現れるフローラルとして選んだのは、とても儚いこの香料は、植物界の山猫であり、慎重に扱わなければならない、飼いならされていない香料のひとつだからです。

水仙は、香水の歴史において、メンズ・フレグランスに、グリーンの輝きを与えるために使用される〝男の花 “と言われてきました。しかもいつも小さな役割しか与えられませんでした。

やがて、ハーバルなクラリセージに、水仙が加わり、ウォータリーなグリーンノートの中に、しなやかな感覚を加えてゆきます。

通常の水仙よりもたくさんの水仙を使用したいと考えたクリスティーヌは、ロベルテ社と共同で、花粉を抑制するための蒸留プロセスを開発しました。それでもなお、平手打ちするようなインパクトが残るように謎の素材と一緒に共蒸留させたのでした。

さらにハーバルフローラルなピリっとした香りの中に、より一層フレッシュな感覚を与えていく素材としてローズウッドという意外な素材が追加されています。これはエルメスが支援しているペルーの生産者から調達している最高級の植物由来のローズウッド・エッセンスです。

このエッセンスが、大自然の中にいるような壮大な温かみのあるフレッシュ感で包み込んでくれるのです。

ローズウッドの主要産地であるブラジルでは約20年間禁輸処置が取られているため、最近では天然のローズウッドを使用したフレグランスを見つけることはなかなか出来ません。

そのため2019年にクリスティーヌの情報提供を受けたエルメスのバイヤーが、飛行機で10時間、バスで4時間、船で4時間、さらに徒歩で4時間かけてペルーの生産者のいる現地に赴き、独占権を獲得したのでした。

ローズウッドには、アニスの香りがするグリーンで、ユーカリのようなオイリーな香りもします。成分のひとつであるリナロールは、ベルガモットにも含まれており、シトラス特有の爽やかさをもたらします。そして、これらの香料が見事に溶け合い、肌の上をフレッシュグリーンの風が吹き抜けていくのです。

この香りの特徴は、シトラスによってではなく、ローズウッドによって、フレッシュさをもたらし、ウッディな香りが全くしないところにあります。

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〝見えざる手〟に握られたボトルデザイン

©Hermès

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「H24」は、ボトルデザインにも非常にこだわっており、ブランドのテーブルウェアやウォッチなどを担当するフィリップ・ムケによるガラス製造の技術を駆使して生み出されたデザインは、ミニマルでとても美しいデザインです。

それは空気力学的で建築的な流線型のフォルムに落とし込み、見えざる手によりボトルが握り締められているような〟男性の躍動感とエネルギーを見事に表現しています。モスグレーを基調に、ライムグリーンのラインをが入っています。

さらに、パッケージから全てがリサイクル可能な素材で作られています。

最後に、クリスティーヌ・ナジェルは、常に「フレグランスにジェンダーは必要ない」と唱えている人です。だからこそ、実はこの香りは、「私が、ヴェロニク・ニシャニアンのメンズの服を着ることが好きなように、女性の肌に乗ると、男性の肌に乗るのとはまた違った効果が生まれるように調香しています」という風にユニセックス対応なのです。

この香りは、新たなる時代のメンズ・フレグランスです。そして、女性にマニッシュなアクセントをもたらす〝メンズ・ファッションを着るようなフレグランス〟でもあるのです。

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香水データ

香水名:H24 オードパルファム
原名:H24 Eau de Parfum
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2022年
対象性別:男性
価格:30ml/11,770円、50ml/14,410円、100ml/19,580円
公式ホームページ:エルメス


シングルノート:オークモス、クラリセージ、水仙、パリサンダーローズウッド、スクラレン