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グレース・ケリー

『真昼の決闘』Vol.1|21歳のグレース・ケリーのメジャー・デビュー作

グレース・ケリー
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「私はあの保安官の妻が登場する場面以外は、何もかも大好きでした」

あれはすばらしい映画でした。私はあの保安官の妻が登場する場面以外は、何もかも大好きでした。

グレース・ケリー

この作品におけるグレース・ケリー(1929-1982)は、彼女自身が回想しているほどに、ひどい演技力ではありませんでした。

ゲイリー・クーパーが脚本を考慮する前に、彼のクエーカー教徒の妻はもう別のところで決まっていた。その役の予算は非常に少なかったし、役も要求のきついものではなかった。我々はただ見栄えがよく、骨のない感じの、これといった特徴もない、処女的なイメージを持った、感情を抑えた若い女優、典型的な西部劇のヒロインを求めていた。

フレッド・ジンネマン

「彼女は役柄に立派に似合っていたが、それは多分、演技的に準備ができてなく、そのためやや緊張気味でそっけなかったためだろう」とジンネマン監督が語るように、グレースは、求められた役柄にぴったりとフィットしていました。

この作品が、僅か10日間のリハーサルの後、28日間という短い撮影期間(ジンネマン監督は、「身の毛もよだつような製作スケジュール」と回想している)で、1シーンを1回から3回までのリテイクのみで撮影しました。

そんな驚異的な早撮りの中で、メジャー・デビュー一作目にして、グレース・ケリーがこれまでの存在感を示せたことは、素晴らしいとしか言いようがありません(しかも、撮影期間が少ない為、物語の進行順に撮影が行えなかった)。

この作品は、私たちに一つの明確なる真実を教えてくれます。それは、グレース・ケリーは、最初から、あのグレース・ケリーだったんだという真実です。

そんなグレース・ケリーとはじめて会った時のジンネマンの感想が面白いです。「我々下流階級の周辺では聞いたこともないもの、すなわち白い手袋をした彼女は私の質問のほとんどにイエスかノーで答えた。私は世間話がうまくなく、会話は間もなく途切れてしまった。」まさしく、グレースは、最初から、上流社会の人だったのでした。

当時21歳のグレース・ケリーのメジャー・デビュー作。

1951年9月5日から10月6日にかけて僅か28日間で撮影されました。

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素晴らしいテーマ曲とリー・ヴァン・クリーフ

不滅のメンズ・アイコン=リー・ヴァン・クリーフのデビュー作。

『真昼の決闘』は、21世紀の女性にこそ、相応しい作品でしょう。ジェンダーの垣根が低くなっている現代において、かつて男性が持っていたダンディズムを女性が吸収することは、とても有益なことです。

そして、ここに一人の魅力的な若者が登場します。この男の名をリー・ヴァン・クリーフ(1925-1989)と申します。後に40代にしてセルジオ・レオーネ監督の『夕陽のガンマン』(1965)『続・夕陽のガンマン』(1966)により、スターの仲間入りを果たします。

元々、ヴァン・クリーフは、本作でハーヴェイ・ベル保安官補役(ロイド・ブリッジスが演じた)を演じる予定でしたが、プロデューサーのスタンリー・クレイマーからアドバイスされた鼻の整形を拒否し、小さな役柄に変更されたのでした。しかし、この鷲鼻で、俳優人生を貫き通したことにより、彼は苦節15年の末にスターの座を勝ち取ることになるのでした。

デビュー作とは思えないほどに、堂々としたヴァン・クリーフの鋭い眼光と共に、ディミトリ・ティオムキンが作詞・作曲し、テックス・リッターが歌うテーマ曲「俺を見捨てないでくれ、ダーリン(Do Not Forsake Me)」が流れます。主題歌が挿入される映画のはしりが誕生した瞬間でした。

何よりも驚きなのは、これほどの存在感を放つヴァン・クリーフが作中一言もしゃべっていないことです。男たちが男だった時代。こういった男の原石のような男たちが、当時のハリウッドには多く存在していたからこそ、グレース・ケリーというダイヤモンドの原石が、磨き上げられ、永遠の輝きを放つことが出来たのでしょう。

現在のファッション(スタイル)・アイコンと呼ばれる女性達が、キラキラと輝いているが、イミテーションに見えるのは、本物の男たちが少なくなったからかも知れません。

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ゲイリー・クーパー、二度目のオスカー受賞。

キャリアの低迷期にあったゲイリー・クーパーは、本作で二度目のアカデミー主演男優賞を受賞し、不死鳥のように蘇ります。

主人公の年齢は30歳で設定されていた。そして、グレゴリー・ペックが主人公を演じる予定でした。

監督はクーパーの顔に刻まれた皺を生かしたかったので、ほとんどメイクが施されなかった。

ゲーリー・クーパーと一緒に仕事をしていると、何もかもとても良く分かります。彼の顔を見れば、考えていることが全部顔に出ているんですもの。でも私の顔をいくら見ても、何も分かりません。もちろん、私には自分が何を考えているか分かっているけれど、それが表情に出ないのです。私は心配になって『やはり私は大スターになれないわ。結局、私は駄目なんだわ』と生まれて初めて考えました。

グレース・ケリー

この作品が公開されるまで西部劇というものは、恐れを知らぬ、つねに勝利を得るスーパーマンの古典的な神話でした。そんな定石を破って、本作では50過ぎの初老の保安官が、孤立無援の中、4人の悪漢と立ち向かわないといけない状況に追い込まれます。

この物語には、いつの時代の人間関係に対しても置き換えることが出来るリアリズムがありました。もし、ただ一つリアリズムがないとすれば、50代の男性が21歳の女性と結婚するということだけでした。

映画が撮影された1951年と言えば、ジョセフ・マッカーシーによる赤狩りが本格化した年でした。脚本を担当したカール・フォアマン(1914-1984)自身も、撮影の途中で赤狩りにより、英国に移住することになりました。

そういった当時の、アメリカの社会情勢を反映させた、どんなに不合理なものであっても条件が整っていれば、人がとっぴな概念をいとも簡単に信じるようになっていく人間心理を、西部劇を通して描いたのでした。

私にとって、これは良心に従って決定を下さなくてはならない男の話だった。彼の町ー軟弱になった民主主義のシンボルーは、住民の生活への恐るべき脅威に直面する。・・・彼の町のドアと窓は彼をしめ出し、固く閉ざされる。これはどこでも、いつでも起こり得る話である。

フレッド・ジンネマン

『拳銃王』(1950)で似たような役柄を演じていた『ローマの休日』のグレゴリー・ペックは、主人公のオファーを断りました。しかし、そのことを「人生で最も後悔している」と告白しています。ちなみにペック自身は、赤狩りの真っ只中にあっても、絶対に屈しなかった不屈の人でした。

この役柄は、チャールトン・ヘストン、マーロン・ブランド、カーク・ダグラス、モンゴメリー・クリフト、バート・ランカスターに断られた後、ゲイリー・クーパーのもとにやって来ました(当時25万ドルのギャラを得ていたクーパーは、5万ドルで出演を快諾)。

この頃のクーパーはキャリアが落ちはじめていて、私生活においても17年間連れ添った妻ヴェロニカとは別居し、25歳のパトリシア・ニールという、息をのむような、しかし気性の荒い若い愛人との日々に疲労していました。

結果的に、本作でクーパーは、二度目のアカデミー主演男優賞を獲得し、不死鳥の如く蘇ることになりました(かくしてクーパーは『昼下りの情事』でオードリー・ヘプバーンと競演することにもなりました)。

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グレース・ケリーのメジャー・デビュー作

美女の条件。父親程の年の離れた男性の隣に座っていても、妻の風格を保てること。

レースに特長のある19世紀末のドレス。

僅か一着の衣裳しか着ないグレース。

ショットによっては彼女は平凡に映りましたが、角度と光の具合で、驚くほど、変わって見えました。それはスターの輝きでした。

フレッド・ジンネマン

グレース・ケリーが起用されたのは、プロデューサーのスタンリー・クレイマーがオフ・ブロードウェイの舞台で彼女を見たことがきっかけでした。スタンリーは彼女と面会し、週給750ドルという条件で、その場で契約しました。のちにクレイマーは無名の彼女を抜擢した理由について「他の女優たちは契約金が高すぎて払えなかったからだ」と答えています。

グレースは「その役をこなせるほどの力があるのかどうかわからないのよ。怖いわ」と、かなり緊張していました。しかし、監督のジンネマンは特に演技指導をすることなく、ただひたすらに、グレースのクローズアップを撮影していました。

私は全体がニュース映画のように見えれば良いと思ったのです」とジンネマンが告白しているのですが、撮れば撮るほどに、彼女の非現実的な美しさに圧倒されつつも、その中から、現実味のある美をジンネマンは紡ぎ出していったのでした。

彼が、フィルムをグレースのために多く消費したのは、「ニュース映画」のような体裁を壊さない平凡さをグレースから引き出すためでした。

午前10時35分から午後12時15分の100分間の物語を、84分間でほぼリアルタイムに描いているこの作品の中には、グレースの〝抑えた美〟が濃縮されています。グレースが後に、アルフレッド・ヒッチコックの映画で、ダイヤモンドのように永遠の輝きを見せることが出来たのは、ひとえに本作における〝抑えた美〟が存在したからとも言えます。

作品データ

作品名:真昼の決闘 High Noon (1952)
監督:フレッド・ジンネマン
衣装:ジョー・キング/アン・ペック
出演者:ゲイリー・クーパー/グレース・ケリー/リー・ヴァン・クリーフ/ロイド・ブリッジス/ケティ・フラド