もう一人オスカー女優が誕生した。
ハニー・ルック
- ファーコート
- ブルーのウールドレス
- ストラップハイヒールパンプス
サンディ・デニス(1937-1992)は、1963年と64年に2年連続トニー賞を受賞したアクターズ・スタジオ出身の女優です。本作で彼女はアカデミー助演女優賞を受賞し、ポーリン・ケールに「鼻水が喉に流れる」ような話し方を創造した!と絶賛されました(作中、本当に妊娠していたサンディは、流産してしまいます)。
撮影にあたり出演者4人は二週間無給でリハーサルに参加しました。監督のマイク・ニコルズは、1964年に『裸足で散歩』の演出でトニー賞を受賞しているブロードウェイの一流演出家なので、そのままブロードウェイの舞台に出ても大丈夫なレベルにまで芝居を磨き上げた上で、撮影に臨みました。
そして、ジョージ・シーガル。
ラペルがノッチド・ラペルであり、ネクタイがサンローラン並に細いジョージ・シーガル(1934-)のスーツ姿は、かなりモードです。
登場したときは、未来が揚々としている若者であるニックが、中盤に差し掛かるにつれて、それは若き日のジョージだったかも知れず、ハニーは未来のマーサかもしれないと連想させるところにこの物語の面白さがあります。
ドアが開け閉めされるたびに、当初は距離を保っていた二つの世代が融合していき、最後にマーサによって導かれた車の扉がニックにより閉められ、浮気してしまった後に、「私の夫よりも使えない男」と罵られ、そして、マーサは夫の復権を認めた瞬間に、夫に捨てられることが決定づけられたのです。その意味においては、若い男性が中年夫婦を崩壊させたのではなく、中年夫婦により、彼の若さは失われたのかもしれません(これから更に妻の尻に引かれる日々が待っている)。そして、結果的に、ジョージが若さを取り戻したのが、この作品の隠し味なのです。
ウィノナ・ライダーとマーク・ジェイコブス
2011年、ハーパース・バザー2月号。「あなたは男として十分じゃないの!ガッツがないのよ!」と罵るマーサにウィノナ・ライダーが扮し、そんな剣幕に怯えるジョージにマーク・ジェイコブスが扮する興味深いファッション・フォト。フォトグラファーはマーク・セリガーです。