シャーロット・ランプリングから学ぶ、オンナの美学
シャーロット・ランプリング(1946-)が、女性誌においてファッション・アイコンとして取り上げられるとき、どのブランドを愛用していますという観点ではなく、彼女自身の生き様に焦点が当てられます。
それは間違いなく彼女の「自然体」かつ「求道的な」演技スタイルと生き方から導き出されたものなのでしょう。彼女が出演する映画の多くは、特に2000年以降の作品は、人間にとっての普遍的なテーマを描いた作品が多いです。
女優の存在を芸術家にまでに高めうる人。それはハリウッドスター達にとって、羨望の的でしかないのです。
女優(特にハリウッド女優)は40才を越えると、男性の主人公の妻役など役柄が限られてきます。そんなハリウッドの常識から外れている人だからこそ、「シャーロットのようになりたい」という言葉が、多くのハリウッドスターから放たれるのです。
美しいことは女性にとって重要なことです。若いうちに、それを獲得したならば、それは神様の恵みとなります。それはどの部屋に入ることも許される名刺となります。しかし、あまりにも簡単に多くのものが手に入るので、虚栄心の強さと自己陶酔に溺れてしまい、自滅への扉を開くための鍵にもなります。
シャーロット・ランプリング

シャーロット・ランプリング。1968年。

シャーロット・ランプリング。1974年。
エリザベートのファッション3
ヴェール×ファー・ルック
- コーヒーブラウンのターバンハット、レース付き、ダイヤモンドブローチ
- 同色のミンクのストール
- 同色の手袋
- ベージュのコート
- パールイヤリング
- パールブレスレット
- ブラウンのショルダーバッグ

ヴェールの付いたターバン。ダイヤモンドブローチに注目。

『ルートヴィヒ』(1972)でロミー・シュナイダーが同じダイヤモンドブローチを付けています。ヴィスコンティの母の形見と言われています。

とても豪華なファーストールと印象的なハンドバッグ。

彼女のすべてのワードローブにはパールが存在します。
「退屈させる映画は大嫌い」という人が大嫌い。

貫禄のイングリッド・チューリンと共に。
私は人々を楽しませる映画が苦手です。どうしても、私の中の障害を克服しなければならない役柄に挑戦することに女優としての喜びを感じます。
屈辱を与えられ、尊厳を奪われ、むさぼり食い、時に罰を与えられることは、人間の本能を刺激します。それはセックスの大きな部分を占めます。
その非日常的な背徳の波を感じることによって、何が正常なのかを知ることが出来ます。その二面性の表現に私は夢中です。
シャーロット・ランプリング
本作のプレミア公開に併せてインタビューを受けている当時23歳のシャーロット・ランプリングのインタビューの受け答えが素敵すぎます。その表情の作り方が本当に知的で、難解な答えで返した後も、常に笑顔の表情で話し終えるという、この方と話した人はどんな人でも、大ファンになってしまうのではないだろうかと言う圧倒的な知性のオーラとチャームを感じさせます。
ちなみにインタビューの中で、すべてが生々しく表現されるのは、私の知性が侮辱されているように感じるという感想に対し、「もし誰もがすべてのことについてもっと時間をかけて考えれば、人生で最も単純なことでさえ、すべてのことにそれだけの時間がかかるようになると思う。これがヴィスコンティがやっていることだと思う。彼は自分のスタイルで物語を語っているだけです。これは私にとってとても美しいスタイルです」と答えています。
ファッションの観点から見ても、インタビュアーの典型的な60年代スタイルと、シャーロットのボヘミアン=ヒッピー・スタイルの対比がとても興味深いです。
エリザベートのファッション4
スカートスーツ
- クリーム色のスカートスーツ、ブラウンウールのアシンメトリーな襟、3つボタン、ロングスリーブ、膝下丈の美しさ
- ブラック・アンクルストラップ・ハイヒールパンプス

父親殺しの疑いをかけられた夫の弁明を行うため、ゾフィーの元を訪れたエリザベートが着ているバイカラー・スカートスーツ。

小鹿のような凛としたスタイルの良さが分かる写真。

立ち居振る舞いが美しいので、悲劇を格調高く見せてくれます。

三連のパールネックレスとエメラルドのリング。

ヘルムート・バーガーと撮影の合間に雑談するシャーロット。
エリザベートのファッション5
トレンチコート
- ブラウン×ベージュ・バイカラーのチェロキー帽
- トレンチ風ベージュ・コート。襟の意匠が変わっている
- ブラウンレザー手袋
- ブラウンレザー・クラッチ
- ブラウン×ベージュのバイカラースカーフ
- パールイヤリング

笑うとチャールズ・チャップリンのような優しい表情になるシャーロット。この写真で見ると襟の形状が独特であることがよく分かります。

持っているクラッチバッグも素敵です。

とてもエレガントな生地のコートです。
「若い男には用はない。欲しいのは本当の男」

ルキノ・ヴィスコンティ、シャーロット、ヘルムート・バーガー。

シャーロット・ランプリング。1967年。
ヴィスコンティとダーク・ボガードは、20代前半の私にとってのメンターでした。自分が進みたい道が定まった時、彼らがその道を進むために必要なことを教えてくれると確信していました。
私にとって大きな後悔は、ヴィスコンティの遺作 『イノセント 』(1976)に出演できなかったことです。彼は私のために脚本を書いてくれたのですが、私の体調が悪くて、神経が安定してなかったので参加できませんでした。
シャーロット・ランプリング
若い季節を生きる女性にとって最も重要なことは、この一点だけと言えます。それは、その季節に同世代の男性と過ごしている女性と、大人の男性と多く過ごしている女性の違いです。
シャーロット・ランプリングは、20代にしてルキノ・ヴィスコンティやダーク・ボガードという「本当の男」たちと時を過ごしました。たからこそ、彼女の中のもう一人の女性が開花しました。
「私は、同世代か、年下の男性が好きなんです」という女性に魅力的な女性はなかなか存在しません。それは男性でも同じなのですが、若さを武器に出来るからこそ、臆面もなく年長者から学べることが多いのです。
まさに、「若い女には用はない。欲しいのは本当の女」。逆もまた真なり。男性にとって、成熟した女性はいつでも憧れの的ということです。そして今、シャーロット・ランプリングがその立場にいるのです。
作品データ
作品名:地獄に堕ちた勇者ども The Damned (1969)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
衣装:ピエロ・トージ
出演者:ダーク・ボガード/イングリッド・チューリン/ヘルムート・バーガー/シャーロット・ランプリング