シャンダローム
原名:Chant d’Aromes
種類:オード・トワレ
ブランド:ゲラン
調香師:ジャン=ポール・ゲラン
発表年:1962年
対象性別:女性
価格:75ml/17,600円
ゲラン史上初の若い女性を対象にした香り
当時まだ20代半ばだったゲランの四代目調香師ジャン=ポール・ゲラン(1937-)が1962年に調香した「シャンダローム」。その名の意味は、「香りの賛歌」です。
この香りを作るきっかけは、母親がつけているゲランの香水に対して、「もしかしたら若い女性は、自分たちの香りを求めているんじゃないだろうか?」という疑問からはじまりました。その思いは、1959年に妻となる名家の出であるモニーク(1969年に離婚する)がカルヴェンのマ グリフしか使用していないという事実から確信に変わっていくのでした。
そして、〝モニークを振り向かせるために〟なんと7年の月日(つまり1955年にゲランの調香師となるためのトレーニングを開始してから)をかけ、450回もの試香を繰り返し、51種類の花の成分を選抜し生み出し、ジャン=ポールの事実上のファースト・フレグランスが誕生したのでした(工場にレシピを持っていく予定のギリギリ2日前まで改良が加えられた)。
それはまさに若妻に捧げる香りとしてのフローラルシプレの香りでした。
ちなみに、この香りが発表されたとき、すでにジャン=ポールの師匠であるジャック・ゲランは寝たきりになっていました。そして、翌年1963年5月2日、88歳のジャックがいよいよ最後の苦しみを感じ、狂ったように叫んでいる中、ジャン=ポールはジャックの最愛の妻に捧げられた香り「ルール ブルー」のムエットを差し出しました。
すると、ジャックはより怒り狂い、そのムエットを跳ね除けたのでした。そして、次にあわてて「シャンダローム」のついたムエットを彼に差し出したのでした。その瞬間、ジャックの表情は微笑むような至福の表情になり、2時間後に天に召されたのでした。
幻の〝草原の輝き〟の香り
アルデハイドとベルガモットのブレンドに、オレンジが加わる、甘さと苦味の絶妙な香りから〝若妻に対するジャン=ポール・ゲランの挑戦状〟の封は切られます。
颯爽と現れるγ-ウンデカラクトンがピーチの風を運んでくれます。その背景に広がるオリバナムとガーデニアのブレンドが、この香りがまだミニスカートが流行するほんの一瞬前に作られた香りであることを思い出させてくれます。それはシャープではなくソフトフォーカスされたソーピィーな草原の輝きの香りです。
さそして、香りがミドルノートに達すると、ハニーサックルとジャスミンを中心にクリーミーなイランイラン、チューベローズが〝花の香りの賛歌〟を歌い始めるのです。ヘリオトロープがパウダリーな優しいバックコーラスの役割を果たしています。
この香りの特色は、オークモスの存在感にあります。このオークモスがパウダリーフローラルに呪文をかけるように、ベチバーと共に香り立ちます。
さぁ、ここからゲランの第四世代の幕は切って落とされたのでした。そして、世界も若返り、〝若者のための60年代〟がはじまろうとしているのです。恐らくこの香りがはじめてゲランが生み出した〝若者のための香り〟です。
そして、60年代の若者たちも、年を取っていくのです。ボトル・デザインはロベール・グラネによるものです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「軽やかなパウダリーピーチの香りは、新たな出発や美しく若い女性を思わせる。あたかも若きゲランが愛を見つけ、過去を清算するのに成功したようだ。」
「愛おしむような優しさのある香りはいいが、90年代の初め頃に変わった。特徴のないフローラルなアルデヒド調は好みではない。そしてまた香りが変わったが、オリジナルに半分だけ戻ったような印象で、かつての香水をすばらしいものにしていた、豊潤なピーチの芳香にはあと一歩足りない。ずっとよくなったが、まだ物怖じしている。君たち、もう一踏ん張りだ!」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:シャンダローム
原名:Chant d’Aromes
種類:オード・トワレ
ブランド:ゲラン
調香師:ジャン=ポール・ゲラン
発表年:1962年
対象性別:女性
価格:75ml/17,600円
トップノート:アルデハイド、マンダリン、ベルガモット、ピーチ、ガーデニア、プラム
ミドルノート:ハニーサックル、ジャスミン、イランイラン、チューベローズ、クローブ
ラストノート:ベチバー、ヘリオトロープ、オリバナム、サンダルウッド、ベンゾイン、バニラ、トンカビーン、オークモス