ボディ
原名:Body
種類:オード・パルファム
ブランド:バーバリー
調香師:ミシェル・アルメラック
発表年:2011年
対象性別:女性
価格:35ml/7,245円、60ml/10,620円、85ml/16,236円
トレンチコートを着るようにまとう香り
私がトム・フォードから学んだこと、それは直感を信じることです。
クリストファー・ベイリー
1856年にトーマス・バーバリーにより、大英帝国で創立されたバーバリーが、(1989年にユニリーバに買収される)ベスコ・フレグランス社と提携し、最初のフレグランスを発売したのは1981年のことでした。しかし、この頃から1990年代にかけて、バーバリーのブランド力は落ちてゆき、存亡の危機に立たされていました。
そんな中、ミレニアムを越えて、2001年に、バーバリー帝国復興の使命を帯びて、クリエイティブ・ディレクターに就任したのが若干29歳のクリストファー・ベイリー(1971-)でした。彼は、1994年にダナ・キャランにより見出され、1996年にトム・フォード王朝下のグッチでレディース部門のシニアデザイナーに抜擢され頭角を現した人でした。
1990年代以降、バーバリーは、インターパルファムとライセンス契約し香水を作っていました。ベイリーは積極的に協力し、香水の開発にも積極的に取り組んでいきました。
2011年9月1日(日本では9月28日)にバーバリーは、ウィメンズ・フレグランスの新作「ボディ」を150カ国で同時販売しました。シプレフルーティの香りはミシェル・アルメラックにより調香されました。
ベイリー率いるバーバリーは、2001年に4億2,500万ポンド(約6億200万ドル)だった売上を、この香水発表時の2011年には、15億ポンド(約24億ドル)にまで回復させたのでした。つまり僅か10年で4倍の売上に拡大したのでした。
そんな飛ぶ鳥を落とす勢いのベイリーが、バーバリー空前のフレグランス・キャンペーンと共に発表したのが「ボディ」だったのです。キャンペーン・モデルには『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011)のロージー・ハンティントン=ホワイトリーが起用され(ベイリーは、「彼女の強さ以上に、弱さと温かさに惹かれたという」)、マリオ・テスティーノにより撮影されました。
「ボディ」は、〝全裸にトレンチコートをはおる絶世の美女〟というイメージと共に、ベイリー王朝のバーバリーが標榜する〝美しいクラフトワークと少し崩れたバランス感覚〟を投影した香りでもあります。
スキンパルファムのように〝ボディ〟と一体化する。
当時そのような呼び方が無かったであろう〝スキンパルファム〟のように優しく肌に蕩けていくドライなピーチに、苦味の効いたグリーンなアブサンが、魔法の一吹きのように吹きかけられこの香りははじまります。
フェミニンだけど、甘ったるいピーチに包まれた可愛い香りではなく、かと言ってラグジュアリーで堅苦しい香りでもない、〝全裸にトレンチコートをはおる絶世の美女〟というイメージよりは、〝ピーチにトレンチコートを羽織らせた〟知的でエレガントな女性のキラキラした眼差しをそっと伺うような香りです。
この香りが「ボディ」と呼ばれる所以、それはフローラルな要素や、フルーティな要素よりも、最初からベースのカシュメランやムスク、バニラが柔らかく人肌のようななめらかさを感じさせるところにあります。この香りには、通常使用されるムスクよりも遥かに多くの量のムスクが使用されています。
そんな人肌に馴染むムスキーな香りの中から、ゆっくりと新鮮なフリージアとピュアなローズが花を咲かせてゆきます。そして、クリーミーなサンダルウッドとパウダリーなアイリスにより、花々はより人肌に溶け込むように香り立ちます。
フレッシュなローズとフリージアを温かく包み込む、凛としたアイリスのコントラストが、エフォートレスな感覚を与えてくれます。それはまるで若々しい女性が、バーバリーのトレンチコートを着ることにより、大人の女性の洗練を手にする〝魔法のひと時〟のようです。
ローズゴールドのキャップがあしらわれたベージュ色の棒状の、『スーパーマン』のクリスタルのようなボトル・デザインもとても洗練されています。
クロエEDP vs ボディEDP
最後にこの香りの発売当時、ブルーベルでチーフをつとめておられたカイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様に、当時の「ボディEDP」を取り巻く環境と、同じ調香師により生み出され、絶大なる人気を誇っていた「クロエ オードパルファム(以下クロエEDP)」(2008年)と「ラブクロエ オードパルファム(以下ラブクロエEDP)」(2010年)の比較をして頂きました。以下彼女のお言葉です。
「ボディEDP」が出るまではバーバリーの中では、甘い「ブリット」がベストセラーでした。後は「ウィークエンド」を愛用されているお客様がおられる感じでした。
この香りは、当時の〝ばっちりメイクを決めた女性像から、ナチュラルメイクでも美しく女性らしさを感じるようなエフォートレスな女性像へ移り変わる〟時代の流れに乗った香りだと、私は感じていました。
グッチやブルガリの香りは、お堅いイメージだけど、この香りだったらナチュラルにつけられそうというイメージをお客様に与えていたように思えます。
「クロエEDP」と「ボディEDP」を比較してみると、2008年に発売されたクロエ旋風がまだまだ全盛の中、「ボディEDP」は〝トレンチコートを着るように纏う香り〟として打ち出されました。
まだ〝ギャルブーム〟の名残りがあった梨花さんが、〝ガーリーでフェミニン〟〝レースモチーフ〟の中に〝フレンチシック(=ジェーン・バーキン風)〟を取り入れてゆき、当時の日本で、ファッション・アイコンとして絶大なる支持を得ていた時代でした(他に平子理沙さんも)。
その〝フレンチシック〟+〝日本的なギャル文化の名残り〟が「クロエEDP」の香りと世界観にマッチしていたのです。メーキャップにおいてまだアイラインぐるっと囲み目、まつげバサバサが良しとされていた時代ですね。
「クロエEDP」は、蕾から段々花が開いていく〝クラシックローズ〟のシャビーシックを思わせる香りで、実際に梨花さんや平子理沙さんも愛用されていたのが、爆発的人気に繋がったのだと思います。
クロエEDP & ラブクロエEDP vs ボディEDP
そして、2年後(2010年10月)に発売された「ラブクロエEDP」の世界観は、ぐっと大人になり、「えっ?急にマックスマーラみたいな雰囲気やん!」と個人的に思ってしまったんです。
それまでの「クロエEDP」のカルト的人気(本当に誰も彼もが皆「クロエEDP」でした)から、〝しなやかな大人の女性の美しさ〟を打ち出したイメージは、「ラブクロエEDP」ローンチ当時はなかなか受け入れられなかったので、『どういう風にお客様にご紹介していこうか?』かと頭を捻らせました。
「ラブクロエEDP」は、アイリスやライラック、ウィステリア(藤の花)の紫色のフローラルブーケなので、一つのお花のイメージというよりは、『紫色』が持つ色のイメージのように、〝繊細さと気品〟〝ミステリアスで落ち着いた印象〟〝パウダリーで上品なお姉さんな印象〟が香りにも映し出されていると思います。
そこに颯爽と登場したのが、ロンドンからやって来たバーバリーの「ボディEDP」でした。この香りにより〝日本的なギャル文化の名残り〟は完全に払拭され、エフォートレスな女性像の時代が到来したのでした。
「ボディEDP」は、「ラブクロエEDP」のように紫色の香りなのですが、〝重なり合うような紫〟ではなく、ローズやムスクでほのかな紫の色調のように、香りもより控えめでした。
つまり広告イメージ=ヴィクシーエンジェルとは対極の、あくまで上品かつオーラを感じるような大人の美しい女性のための香りのイメージだったのです。
当時特にクロエEDP & ラブクロエEDP vs ボディ EDPという図式があった訳ではないのですが、今敢えてこの三つの香りにフォーカスして当時を思い返すと興味深いなと思いました(さらにブルガリの「オムニア クリスタリンEDP」を加えてみると面白いかもしれません)。
この時期、『パウダリーでセンシュアル、大人の女性』そんな綺麗なお姉さんの素肌を思わせる、いやらしさは無いのにドキっとさせるような香りが一つのブームだったのです。
その延長線上にあるのが、ナルシソ・ロドリゲスの「ナルシソEDP」だと思います。
そして、忘れてはならないのが、ボトルのインパクトです!その上重量感もあって、お客様の反応は、悪くなかった気がします。見た目に反して香りは優しい香りでしたしバランスが良かったのかも知れません。
21万円のバカラのクリスタルボトル
2012年11月1日よりバーバリー表参道店限定でバカラのクリスタルボトルの限定パルファムが発売されました。「バーバリー ボディ バカラ」は45mlで税込210,000円(2,800ドル)の価格で、バーバリーの156年間の歴史にちなんで、1から156までのシリアルナンバーが刻印され、世界で156本だけ発売されました。
多面のクリスタルボトルとキャップはクリストファー・ベイリーがデザインを手がけ、バカラ社によってのハンドメイドで作られました。
香水データ
香水名:ボディ
原名:Body
種類:オード・パルファム
ブランド:バーバリー
調香師:ミシェル・アルメラック
発表年:2011年
対象性別:女性
価格:35ml/7,245円、60ml/10,620円、85ml/16,236円
トップノート:ピーチ、グリーンアブサン、フリージア
ミドルノート:ローズ、サンダルウッド、アイリス
ラストノート:ムスク、カシュメラン・ウッド、バニラ、アンバー