究極のフレグランスガイド!各ブランドの聖典ページ一覧にすすむ
オードリー・ヘプバーン

『マイ・フェア・レディ』Vol.1|オードリーとハリウッドのユベール・ド・ジバンシィ

オードリー・ヘプバーン
この記事は約9分で読めます。

ハリウッドのユベール・ド・ジバンシィ

1963年5月23日、ニューヨークの高級ホテル・ウォルドルフ=アストリアで、ジョン・F・ケネディ大統領の46歳のバースデイ・パーティが行われました。

その時、JFKのたっての願いでハッピー・バースデイを歌ったのがオードリー・ヘプバーンでした。ちなみに、その前年に、JFKのバースデイ・パーティにてマリリン・モンローが伝説の「ハッピー・バースデイ・ミスター・プレジデント」を歌っていました(1962年8月5日マリリン死去、そして、63年11月22日にケネディ大統領がダラスで暗殺されました)。

その6日後の5月29日に、オードリーはロサンゼルス・バーバンクにあるワーナー・ブラザーズのスタジオに、『マイ・フェア・レディ』の出演が決まって以来初めて訪れました。

あんなに素晴らしい光景を見たことはありませんでした。何マイルもあるような大きな部屋の中で何百人もの女性たちが衣裳を縫っていました。刺繍をしている女性もいました。美しい羽根を飾り付けている女性もいました。たくさんのベルベットやリボンが部屋中に溢れていました。この風景を見ただけで、もうこの映画出演は価値があると確信したんです。

と、その時の興奮を、パリのユベール・ド・ジバンシィに手紙に綴って送ったほどでした。

オードリーからの手紙を受け取り、9月にハリウッドを訪れたジバンシィは、その壮大なる撮影風景を前にして、ただ一言「何ということだ!これだけでコレクションが6回は開けるぞ!」と圧倒されたのでした。オードリー・ヘプバーンは、この作品の存在によって、ただ映画の中だけでなく、ミュージカルの世界においても神話となったのでした。

オードリー・ヘプバーンとユベール・ド・ジバンシィ。ワーナー・ブラザーズ・バーバンク・スタジオ、1963年9月。

スポンサーリンク

『汚れた顔の天使』になったオードリー

いちばん最初にオードリーが登場する衣装は、小汚い花売り娘の衣装からです。

であっても、何気にテーラードジャケットを着ており……

ちゃんと見てみるととてもオシャレな衣装です。

オードリーはすばらしく魅力的に演じてくれた。はじめのほうのシーンはひょっとしたら・・・まぁ、どんな女優にとってもむつかしいところではあるがね。

ジョージ・キューカー

『マイ・フェア・レディ』の舞台設定は、エドワード7世が崩御した直後ではあるが、大英帝国の黄金時代にあたる、エドワード朝時代末期の1912年の英国・ロンドンです。

“醜さが美しさへと転換していく”イライザ・ドゥーリトル役は、女優ならば誰もが一度はやってみたいと願う、舞台劇史上最高の役のひとつです。そんな大役を当時34歳のオードリーが、演じることになりました。

何よりも、この役柄の難しさは、冒頭、みすぼらしい花売り娘として登場するイライザを、スター女優が演じると非常にあざとくなってしまう所にあります。そして、そのボタンを掛け違えると、ドレスアップした時に女神のように大変身するイライザに対し、観客は感情移入出来なくなるのです。

だからこそ、本作撮影中に、オードリーはこれまでになく神経質になり、時に自信を喪失したりしたのでした。

わたしにはジュリー(ジュリー・アンドリュース)をブロードウェイで見た人たちの失望が理解できました。だから最初映画の話がきた時、引き受けたくなかったのです。でも、わたしが断ればほかの映画女優(エリザベス・テイラー)に行くと聞いて引き受けたのです。

オードリー・ヘプバーン

結果的には、この花売り娘に扮するオードリーのファッションは、無理やり汚して、「サカイ(Sacai)」のようなラグジュアリー・ファッションの衣装を身に着けている女性に見えます。

グリーンのロングジャケットとロングスカートとスカーフのアンサンブルは、1966年の『おしゃれ泥棒』において世界一高価な衣装(ジバンシィ)を着る掃除婦に変装した時の、ちぐはぐな印象を与えるスタイリングと非常によく似ています。

スポンサーリンク

イライザ・ドゥーリトルのファッション1

フラワー・ガール
  • グリーンのテーラードロングジャケット
  • 何気にかなりオシャレな、ベージュ色のボーダーのボタンダウンシャツ
  • エプロン
  • グレーのグラフチェックのロングスカート
  • バーガンディーのマフラー
  • 黒の麦藁帽子
  • 黒のレースアップフラットシューズ

本作の振り付けはフレッド・アステアの振付師でもあるハーミズ・パン

どこかチャップリンを彷彿させる衣装です。

コヴェント・ガーデンで花売りをしている下町の太陽イライザ。

このストローハットがとてもキュートです。

明らかにチャップリンを意識している写真。

このロングジャケットがとてもきちっとしています。

ポロコートを着用するヒギンズ教授のファッションも実に魅力的です。

エドワード朝時代(1901-1910)がいかに「帽子の時代」であったかが分かります。

イライザの父親を演じるスタンリー・ホロウェイ(1890-1982)は、ブロードウェイでも同じ役を演じていました。

レックス・ハリソン、オードリー・ヘプバーン、ジョージ・キューカー。

本作で唯一のオスカーを獲得した巨匠ジョージ・キューカー。

ワードローブテスト写真。

同じくワードローブテスト写真。

スポンサーリンク

ブロードウェイ初演でもヒギンズ教授を演じたレックス・ハリソン

ヒギンズ教授のウールのカーディガンのシルエットがとても美しい。

エドワード朝時代の東洋趣味の反映されたチャイナボタンのジャケット。

ちょっと可愛いハンドバッグです。

オードリーは当時34歳。一方、レックス・ハリソンは当時55歳でした。

この作品の違いは、レックス・ハリソンが存在するか否かである。彼はヒギンズ教授のエキセントリックな、音声学にとりつかれてほかのことは眼中にないという側面を見事に表出した。彼のヒギンズがほかには類もなく、見るものを打つのはそのためだ。また彼は、人に語りかける口調そのままを歌にしたようなユニークな歌いぶりも考案した(それ以来さかんに模倣されている)。

ジョージ・キューカー

スポンサーリンク

イライザ・ドゥーリトルのファッション2

奇妙な帽子
  • オレンジとレッドのフリンジつき黒のツバ広帽子
  • 茶色のコットンベルベットのジャケット、ストロングショルダー、チャイナボタン
  • カラシ色のスカーフ
  • 白の前掛け
  • 茶色のロングスカート
  • ハンドバッグ

「レディになりたければ、袖とハンカチを混同するな。」

このシーンに登場するハンドバッグがなかなか素敵です。

すごい帽子です。

とんでもなくアンバランスな組み合わせです。

セシル・ビートンのデザイン画。

作品データ

作品名:マイ・フェア・レディ My Fair Lady (1964)
監督:ジョージ・キューカー
衣装:セシル・ビートン
出演者:オードリー・ヘプバーン/レックス・ハリソン/ウィルフリッド・ハイド=ホワイト