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オードリー・ヘプバーン

『シャレード』Vol.1|オードリー・ヘプバーンとルイ・ヴィトンとエルメス

オードリー・ヘプバーン
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オープニング・タイトルからとてもお洒落な『シャレード』

ティファニーで朝食を』(1961年)に続く、オードリー・ヘプバーンのファッション・ムービーとして生み出されたのが『シャレード』でした。

モーリス・ビンダーによるポップでハイセンスなオープニング・タイトル。彼は同時期に007のタイトルも手がけていました。音楽は『ティファニーで朝食を』と同じくヘンリー・マンシーニでした。更にオードリーの衣装は、ユベール・ド・ジバンシィによるものでした。

ファッション・ムービーの五大要素とは何か?

  1. 一人のファッション・デザイナー
  2. 一人のファッション・アイコン
  3. オシャレなロケーション
  4. オシャレなバックミュージック
  5. 大人の男性

オードリーが最も洗練されていた30代前半に、その全ての要素が揃ったのが『シャレード』です。その上、ファッション・ムービーとしては奇跡的なことに、魅力的な脇役と、ストーリーというおまけつきです。これほど贅沢な映画はありません。

3回は見たい映画です。1度目は何も考えずに、2度目は60年代を意識して、3度目はただオードリーだけを見る。そして、何かするときに、ただ流しているだけで心が休まる〝環境ムービー〟として、音楽のように、映像が目に届かなくても、ただそのサウンドを感じるだけで良い映画。

非の打ち所のないメイクアップ、髪型、ジバンシィの衣装が冒険の間じゅう一切乱れない、そんなオードリー・ヘプバーンに包まれる2時間。メイクをするときでも、バスタイムにでも、ただ流れているだけで、安らぐ映画。それが、ファッション・ムービーなのです。

実際は1964年に公開された『パリで一緒に』の撮影が先に行われていました。そしてその撮影終了日の翌日(1962年10月22日)から『シャレード』の撮影がはじまったのでした。

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耳を出さないのが「シャレード・グラス」

オードリーが映画の中でただ一度だけ披露したスキー・ルック。

横から見ると後ろに尖っているミンクのスキー帽。

とにかく洗練されている『シャレード』のオードリー。30代から40代の女性にとって、60年代当時でも今でも、たとえいつの時代であっても定番の〝うつくしさの教科書〟と言えます。

オードリーが登場するファースト・ルックは、スキー・ルックです。オードリーという存在の面白いところ、それは常にファッションを超えてしまうところにあります。

オードリー・ヘプバーンとファッションと言えば、必ず出てくるのが、サングラスです。彼女はプライベートにおいても、100個以上のサングラスをコレクトしていました。この作品で使用されたサングラスは、オリバー・ゴールドスミスの「HEP」です。これは当時「シャレード・グラス」と呼ばれました。

オードリーは、オリバーのサングラスを、耳を出さずにつけています。それは後のトレンチコートとオリバーの組み合わせにおいても同じです。彼女のスタイリングの面白さは、『ローマの休日』から一貫しているのですが、小技を利かせるところにあります。そして、その数々の小技が、ファッション・デザイナーやファッション・モデルが憧れるファッション・アイコンへと彼女を押し上げたのでした。

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レジーナ・ランパートのファッション1

スキー・ルック
  • デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
  • ジバンシィのオールイン・ワンのフード付きジャンプスーツ。ブラウンのつやのあるニット地。シルバーメタルのベルト。同素材のグローブ
  • ジバンシィのミンクのプルオーバー(コーヒーブラウン)、ボトルネック
  • ジバンシィのスキー帽。プルオーバーと同じミンク
  • ジバンシィ・バイ・レネ・マンシーニのコーヒーブラウンのスエードブーツ。62/63AW
  • サングラスはオリバー・ゴールドスミスHEP(1962年8月デザイン)

オードリーのこのものがたりは、ムジェーヴのモン・ダルボワからはじまります。

顔だけが露出するファッション。60年代にリゾートファッションはひとつの頂点に達します。

ミンクのプルオーバーを脱いだ写真(作中では脱ぎません)。

うっとりするほど素敵な横顔のシルエット。

スキー・ルックの全身ショット。

1958年に休暇中に撮影されたブリジット・バルドーのスキーウェアの雰囲気が似ています。

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バッグはルイ・ヴィトンとエルメス

ルイ・ヴィトンのスティーマー・バッグを持つオードリー。

ルイ・ヴィトンのスティーマー・バッグ

ジバンシィとエルメスとルイ・ヴィトン

エルメスのハンドバッグ

アルプスで優雅な休暇を過ごし、パリに戻ってきたオードリーが持っているバッグが、ルイ・ヴィトンスティーマー・バッグです。そして、手にはエルメスのハンドバッグを持っています。

オードリーがはじめて映画の中でルイ・ヴィトンのバッグを持った瞬間です。

ニューヨークの五番街であろうともパリであろうとも、オードリーらしさとはラグジュアリー・ブランドで武装しているようなスタイルに見えない所にあります。彼女がブランドミックスしても、これ見よがしなところはありません。

ジバンシィをオードリーが着ているのではなく、オードリーが着ている服がジバンシィだった〟という言葉こそ相応しいでしょう。ラグジュアリー・ブランドで構成された女性=女優の陳腐さとは対極に位置する、〝この人に愛されることによって価値が生まれる〟という格の違いなのかもしれません。

オードリーの映画の中のジバンシィは生きています。やがて、手袋を取り、チョコを食べ、ハットを脱ぎ、ボタンを外し、タバコを吸う。その動作の中でコートが生き生きと呼吸しているようです。

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ジャクリーン・ケネディとオレグ・カッシーニとホルストン

アメリカ大統領就任式のJFKとジャクリーン夫人、1961年1月20日。

1963年11月22日。運命の日の二人。シャネルスーツを着たジャクリーン夫人。

『シャレード』のファッションは、1960年代前半に大旋風を巻き起こしていたジョン・F・ケネディ大統領夫人のジャクリーンのファッション=ジャッキースタイルをユベール・ド・ジバンシィが、オードリーに合うようにパリ・モードに寄せたスタイルです。

元々のジャッキースタイルはグレース・ケリーを生み出した男オレグ・カッシーニを、お抱えのファッション・デザイナーにしたことにより生み出されました。特に1961年1月20日のケネディ大統領就任式におけるジャクリーン夫人のピルボックスハットは、一瞬で世界中の女性たちのハートを鷲掴みにしました。

このピルボックスハットは、当時バーグドルフ・グッドマンの帽子部門のデザイナーだったロイ・ホルストン・フローウィックにより制作されたものでした。ホルストンは、後にスタジオ54時代の象徴とも言えるロングドレスを流行させました。

オードリーとジバンシィによるジャッキースタイルはより洗練されています。

ちなみに1963年5月29日に行われたジョン・F・ケネディ大統領の46歳のバースデイパーティがニューヨークのホテルで開催され、オードリーが出席し、前年のマリリン・モンローに引き続いて「ハッピーバースデイ、ディア・ジャック」と歌ったという話がよく出てくるのですが、それは真実ではありません。

実際は、デヴィッド・ニーブンやピーター・ローフォードを招いたごく内輪の大統領専用ヨットで行われたサプライズ・パーティであり、オードリーは出席していませんでした。

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レジーナ・ランパートのファッション2

プリンセスコート
  • デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
  • ライトベージュのプリンセスラインのウールコート。シングル。ジバンシィらしい大きめのボタン。3/4スリーブ。ナローカラー。ひざ丈の長さ。ジバンシィ62/63AW
  • シルクのスリーブレスドレス。ジュエル・ネックライン。ストレートライン。ジバンシィ62/63AW
  • コートと同じ色のフェルト(羊毛)のピルボックスハット。少し大きめ。ジバンシィ62/63AW
  • パールのイヤリング
  • ホワイトシルクコットン・スカーフ。ジバンシィ62/63AW
  • レネ・マンシーニのシューズ。ボウ付き黒レザーキトゥンヒール。61/62AW
  • 白のエルメスのレザー手袋
  • 1901年から販売されているルイ・ヴィトンのスティーマー・バッグ
  • 四つ角がラウンドになっているルイ・ヴィトンのスーツケース。モノグラムで4つ底とフラップを閉じるレザーストラップが、通常より明るい黄土色
  • エルメスの黒パテントのクロコダイルレザーのハンドバッグ(ヘプバーンが61年に購入した私物)

細身のシルエットでありながら、柔らかい素材感が伝わるところがジバンシィの真骨頂なのです。

膝が見えない丈感が生み出す圧倒的なエレガンス。

ウールコートの柔らかい素材が、ドラマティックな展開の中で生き生きとしています。

ピルボックスハットとコートのアンサンブル

ジバンシィがジャクリーン・ケネディに提案したアンサンブルに似た雰囲気。

オードリーの首の長さと姿勢の良さ。

1967年の『昼顔』のセブリーヌルックと比較したくなります。

『シャレード』は、コートコーデの宝箱です。

ヘアスタイル、メイクアップ、タバコを持つ指先、フェイスシャドウ、コートの見せ方、すべてがパーフェクトです。

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レジーナ・ランパートのファッション3

喪服
  • デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
  • ブラックウールコート。シングル。ブラックレザーでカバーされたボタン。少しスタンドカラー。ラグランスリーブ。ミニマル感覚の縫い目の見えないポケット2つ。長さは膝丈。ジバンシィ62/63AW
  • ジャクリーン・ケネディを思わせるブラック・ファーの「コーンハット」。ジバンシィ63/64AW。黒ヴェール
  • パールのイヤリング
  • ブラックレザー手袋。ジバンシィ62/63AW
  • レネ・マンシーニのシューズ。ボウ付き黒レザーキトゥンヒール

ヴェールとの相性が抜群なアルベルト・デ・ロッシのメイクアップ。

このコートの全体の雰囲気が唯一つかめるショット。

喪服にブラックレザーグローブの組み合わせがクールです。

コートのボタンはこのような感じです。

作品データ

作品名:シャレード Charade(1963)
監督:スタンリー・ドーネン
衣装:ユベール・ド・ジバンシィ
出演者:オードリー・ヘプバーン/ケーリー・グラント/ウォルター・マッソー/ジェームズ・コバーン/ジョージ・ケネディ