プラダを着たボンドガール
当初、パーティ・シーンにおけるカミーユのファッションは、メンズライクなパンツスーツ・スタイルが考えられていました。しかし、南米のボリビアのような暖かい国でパンツスーツを履くのはナンセンスだということで、イブニングドレスを着ることに変更されました。
そこで持ち上がった問題が、ダニエル=ボンドのトム・フォードのスーツの隣に佇んでもひけを取らないドレス・メーカーはどこかということでした。その答えがプラダだったのです。そして、ミウッチャ・プラダにドレスの制作を依頼したところ、一週間で20着ものドレスを作ってくれたのでした。
特に、その中でも、リトルブラックドレスは、トム・フォード・スーツとの相性がぴったりで、圧倒的な存在感を放っていました。
そのドレスに合わせるシューズとして、最初はマノロ・ブラニクで確定していました。しかし、最終的には、GINAが選ばれました。GINAとは、1954年にキプロス生まれのトルコ系イギリス人メフメト・クルダッシュ(1924-2010)によってロンドンで創立されたシューズ・ブランドです。そのブランド名の由来は、デザイナー自身がイタリア人女優ジーナ・ロロブリジーダに履いてもらいたいと考えるシューズを作っていたことからでした。
プラダのドレスとGINAのシューズを履いたオール・ブラックのカミーユは、ゴージャスではあるが、エレガントとは言い難い南米のナイトパーティに現れ、墜落する飛行機の脱出行を経て、ボンドと二人で砂漠を歩くことになります。こうしてこの作品は、新たなるプラダ・イメージの創造に一役買ったのでした。
「ボンドガールは、強さと独立心を持つ女性でなければなりません。でありながら、チャーミングで官能的なのです。全く相反する価値を持つからこそ、ボンドガールなのです。強くなければならない、しかし、同時に女性的でなければならないのです」と言うオルガ。ニュー・ボンドガールは、プラダのドレスによってその扉を開かれたのでした。
カミーユのファッション2
リトルブラックドレス
- 無駄なアクセサリーは一切なし!
- プラダのリトルブラックドレス
- GINAのブラック・ハイヒールパンプス
タンクトップとカーゴパンツが似合うボンドガール
そして、最後に、今までのボンドガールが着なかったスタイルで彼女は登場します。21世紀の前半を象徴するかのようなラグジュアリー・ストリートです。
それは体型を矯正するためのファッションという役割ではなく、ストリート・スタイルの機能美を贅沢な生地で再構築していくという、均整の取れたボディラインを作り上げたものだけに許されるストリートの現実を反映させたサバイバル・ファッションの魅力に満ち溢れています。
白のタンクトップにカーゴパンツ姿で駆け抜けるヒロインは、まさに現代のボンドガール像にぴったりであり、戦うボンドガールそのものなのです(なぜかビキニを着ていたり、変に胸の谷間を強調したりもしない)。
プラダのLBD姿で戦ったボンドガールは、最後には、ラグジュアリー・ストリートで埃まみれになって戦い、新時代の女性のクールネスを世に示したのでした。
「私は13歳までボロを着て生きてきました」というオルガだからこそ、説得力のある野性味がそこにありました。貧困の記憶が、オードリー・ヘプバーンと同じように、女性のエレガンスの中に、愁いを与えてゆくのです。
カミーユのファッション3
カーゴパンツ
- 白のボタンダウンシャツ
- 白のタンクトップ
- ダークグレーのカーゴパンツ
- ブラック・スニーカー
タンクトップ姿の女性の健康美が持て囃されるようになったのは、世紀末のスパイス・ガールズのメラニー・Cやマドンナからでした。
作品データ
作品名:007 慰めの報酬 Quantum of Solace(2008)
監督:マーク・フォースター
衣装:ルイーズ・フログリー
出演者:ダニエル・クレイグ/オルガ・キュリレンコ/ジェマ・アータートン/マチュー・アマルリック