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ボンド・ナンバーナイン

【ボンド ナンバーナイン】セント オブ ピース(ミシェル・アルメラック)

ボンド・ナンバーナイン
©Bond No. 9 New York
この記事は約10分で読めます。

セント オブ ピース

【特別監修】カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様

原名:The Scent Of Peace
種類:オード・パルファム
ブランド:ボンド・ナンバーナイン
調香師:ミシェル・アルメラック
発表年:2006年
対象性別:女性
価格:100ml/67,760円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム

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ボンド・ナンバーナインの素敵な8つのこだわり

©Bond No. 9 New York

2001年9月11日に勃発したアメリカ同時多発テロ事件の後に、この香りの構想ははじまりました。当時ニューヨークで化粧品にまつわる仕事に従事していたローリス・ラメ女史は、9.11を目の当たりにし、一瞬にしてニューヨーク全体が暗く埃っぽい空気になってしまったことにショックを受けました。

何とかして今までのニューヨークらしさを取り戻したいという想いから〝香りで元気を出してもらい、かつての素敵なニューヨークを取り戻そう!”と、2003年にボンド・ナンバーナインを創立したのでした。

ブランドを代表する香り「セント オブ ピース」をよりよく理解するためには、まずボンド・ナンバーナインというブランドにある〝ニューヨークらしさ〟や〝ニューヨーカーに捧げられた〟こだわりについて知っておくと良いでしょう。そうするとこの香りの存在意義がより深く見えてくるはずです。以下、ボンド・ナンバーナインの8つのこだわりについて挙げてゆきます。

1.まず何よりも、ボンドの香りは、賦香率が高く一日持続するように創られています。それはニューヨーカーにとって『忙しい』ことがステイタスであり、そんな〝多忙なニューヨーカーが何度も付け直しをしなくて済むように〟という意味があります。

2.ボトルの形は、人種の坩堝(るつぼ)と呼ばれるニューヨークだからこそ人と人との繋がりを大切にし、ボトルを並べていくと人と人とが手を取り合っているように見えるような〝人の形〟からデザインされています(このボトルの形を造るのがとても難しいそうです)。

3.ボンド・ナンバーナインの丸の中にNYCと書かれたロゴは、昔地下鉄に乗る時に使用していた〝トークン〟から来ています。

4.ボックスは大切に一つ一つ手作業で作られています。そして、フレグランスボトルを取り出した後もアクセサリー等を入れられるようになっています。

5.(一部そうでないものもありますが)ボトルのプリントはハンドプリンティングで20以上の工程が施されています。

6.さまざまなニューヨークの〝エリア〟を香りで表現しています。

7.調香師にラメ女史が、〝このエリアのイメージを〟と伝えた後は、各々の感性に任せて創ってもらっています。彼女はベテラン調香師だけでなく若い調香師たちの未来の可能性も信じて採用していいます。

8.ボンド・ナンバーナインというブランド名はニューヨークのボンドストリート9番地に本店がある事に由来しています。

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「平和」には勝利も敗北も存在しない。

©Bond No. 9 New York

鳩とパブロ・ピカソ=セント・オブ・ピカソ。

『ゲルニカ』パブロ・ピカソ(1937年)

「世界平和なくしてこの街(ニューヨーク)の未来はない」という信念のもと、「セント オブ ピース」という名のフルーティ・フローラルの香りは、5年の年月を費やし、ミシェル・アルメラックの調香により、2006年に誕生したのでした。当初、一本売れるたびにユニセフに2ドル寄付されていました。

ボトルに描かれた鳩がこの香りについて、全てを物語っています。それは幸せや自由の象徴であり、香りのネーミング、ボンドのブランドの核となり、全てを背負い、世界平和を願う香りなのです。

「平和」には勝利も敗北も存在しない。そんな偉大なるテーマのこの香りにおいて最初から最後まで統一しているトーンは「安らぎをもたらす」香りであるということです。

それは、1937年に芸術を通じて、平和の大切さを訴えたパブロ・ピカソの『ゲルニカ』の精神に共通する部分がある、崇高な思いで生み出された〝香りの芸術〟です。

1937年6月4日に完成した『ゲルニカ』は、スペインの画家パブロ・ピカソによって描かれました。スペイン市民戦争に介入したナチスドイツ空軍が、スペイン・バスク地方にある村ゲルニカを無差別爆撃した出来事を主題としています。戦争がもたらす悲劇は、どれほど勇ましくも美しい言葉を列ねようとも決して正当化できないという〝意志の勝利〟を表明した作品です。

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カシスとスズランの真ん中で、平和を呼ぶムスク

©Bond No. 9 New York

空のラッパがみんな鳴り響いて、鳩達がやって来るように、溌溂としたグレープフルーツに導かれ、ブラックカラント(カシス)がフレッシュかつジューシーな香りを運んでくれます。

すぐにブラックカラントにスズランが添えられ、静粛なる空気に包まれてゆきます。フルーティなベリーの香りが、涼しげなスズランに包まれ、ヘディオンとブレンドされ、雲ひとつない澄んだ青空に向かって鳩達が元気よく飛び立っていくような、清清しさと愛らしさ(この愛らしさがアルメラック調香の秘密)を生み出してゆきます。

そして、私たちは幸せを象徴する花=スズランがこの香りで使用されている意味を心と肌で理解するようになるのです。世界平和を願う花。スズランとは永遠に心の中に咲かせたい花なのです。

やがて、最初から縁の下の力持ちの役割を果たしてきたシダーウッドとムスクが脚光を浴びる時間がやってくるのです。この香りの〝平和〟は、すべてこのムスクによって生み出されていると言って良いほど、スズランとブラックカラントとの相性が抜群なのです。

肌に同化するのではなく、肌に安らぎを与え、心の平安が肉体の奥深くから手繰り寄せられるような〝平和のムスク(ブラックカラントとスズランとムスクがブレンドされたもの)〟に、すれ違う人々さえも幸せな気持ちにする残り香がふんわりと解き放たれるのです。

かけがえのない瞬間に生まれた安らかな香り。それは、あなたの心の中で輝き続けるのです。

賦香率の高さに対して、うっとりするような優しい香りであり、間違いなく、ボンド・ナンバーナインというブランドの〝心臓〟となる香りです。

ドルチエ&ガッバーナの「ライトブルー」、ランバンの「エクラ ドゥ アルページュ」とよく比較される香りです(後で比較させていただきます)。

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ルイ・ヴィトンのアポジェとの比較

©LOUIS VUITTON

この記事は、カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様に特別監修いただいております。そんな彼女が〝もっとも愛するスズランの香り〟なのですが、その理由について、さらに彼女が愛するもうひとつのスズランの香り「アポジェ」との比較をしていただきました。以下、彼女の言葉となります。

私にとって「セント オブ ピース」がスズランの香りとして特別な理由は、スズランの香りにある特有の生っぽさが無いところです。その生っぽさこそがスズランらしさと捉える方もいらっしゃると思いますが、アロマ的な捉え方では無く、〝香水〟として、作品として捉えた時にスズランの持つ清らかさと優しさが引き出されており、平和を願う香りという壮大なインスピレーションから生まれた香りに相応しいスズランだと感じさせてくれるのです。

ちなみにルイ・ヴィトンのスズランの香り「アポジェ」と比較すると、こちらはどこまでも澄み渡る瑞々しく透明感溢れる〝鈴蘭〟の香りです(この香りのスズランは、漢字だと私は思います)。

やはりインスピレーションが〝生け花〟なのでそこからまた連想する〝凛とした印象〟や〝奥ゆかしさ〟朝露に濡れた鈴蘭の葉から雫が落ちて小さく揺れる様までもイメージできるような、そんな香りです。

一方、「セント オブ ピース」の場合、包み込んでくれるようなムスクが、スズラン以外に代表的なエッセンスとして挙げられます。その二つが手をつなぎあい、だんだんと霧が晴れていくような、心に清らかさや平和をもたらしてくれるような、そんな香りです。

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ライトブルーとエクラ ドゥ アルページュとの比較。

ライトブルー ©Dolce & Gabbana

ドルチエ&ガッバーナの「ライトブルー」、ランバンの「エクラ ドゥ アルページュ」は日本人に人気の高い〝フルーティフローラル〟であり、入門香水としてよく挙げられる香りです。特にジェンダーを問わず愛用いただける点が人気の秘訣です。

そして、この二つの香りと「セント オブ ピース」にある共通点は〝フルーティフローラル+清潔感のあるムスキーさ〟です。よく皆様が仰る『石鹸みたい』『シャンプーみたい』がそれです。

私はその言葉が100%ネガティブな言葉だと思いません(スタッフによっては「そんなチープな物と一緒にしないで」と思う人もおられるでしょうが…)。逆にその言葉こそが「清潔感=落ち着く、安心感がある」素晴らしい香りを意味するものなのだと思います。シャンプーや石鹸には清潔感が連想できますし、逆もまた然りです。

実は、ライトブルーがオードトワレ、エクラがオードパルファムであることに対して、SOPはパルファムの賦香率なのです。もちろんメゾンフレグランスである事や、だからこそ香料ひとつとってもこだわっていたり、香りのストーリーが確立されているというのは大きな違いはあるのですが、もっとも大きな意味において〝香りの系統〟としては同じライン上にあると思います。

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ミシェル・アルメラックのすごさ。

彼こそ「調香師界の三波春夫だ」。さぁ!香りの国からこんにちは!

クロエ オードパルファム」の調香師でもあるミシェル・アルメラックは数々の人気フレグランスを生み出しています。彼がヒットメーカーである理由は、彼ほど、プルースト効果をマーケティングと結び付けている調香師はいないからです。そして、その能力は「セント オブ ピース」においてもいかんなく発揮されています。

それは、いつも母親が買ってくれていたシャンプーを使用していた私が、はじめて自分の意思でシャンプーの香りを選んだ瞬間を思い起こさせるような「日常生活」のふとした懐かしい思い出が蘇ってくるのです。

さらに、周囲の人々(特に香りにさほどこだわりのない男性)にとって、香水らしい香りを身につけていると敷居が高くて褒めにくい(褒めるための適切な言葉が分からない)のですが、シャンプーのような香りなので、気軽に褒めやすいという効果まで考えて調香されています。

ミシェル・アルメラックの恐ろしさの真骨頂は、クロエEDPにしてもそうなのですが、フレグランスに興味がない人でも「褒めやすい香り」をグレードの高い香料を使用し(もっと恐ろしいのはグレードの低い香料でも)、生み出せるところにあります。

これは本当に一流じゃないと出来ないことで、パブロ・ピカソが、実は、誰が見ても素晴らしい写実的な絵を描くことが出来ることと同じなのです。

ボトルデザインは、ラベンダーカラーに平和の象徴である鳩(ピカソのスケッチ風)が月桂樹をくわえている姿が描かれています。

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香水データ

香水名:セント オブ ピース
原名:The Scent Of Peace
種類:オード・パルファム
ブランド:ボンド・ナンバーナイン
調香師:ミシェル・アルメラック
発表年:2006年
対象性別:女性
価格:100ml/67,760円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム


トップノート:グレープフルーツ、ブラックカラント
ミドルノート:スズラン、ヘディオン
ラストノート:ムスク、ヴァージニア・シダー