ローズ トネール/ユヌ ローズ
原名:Rose Tonnerre/Une Rose
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:エドゥアール・フレシェ
発表年:2003年、2021年
対象性別:女性
価格:10ml/10,890円、50ml/37,290円、100ml/53,130円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
情熱の真っ赤な薔薇を!
A rose is a rose is a rose is a rose.
ガートルード・スタイン
トリュフとローズは、昼と夜、嵐と朝露のようなものだ。逆説的で、二つの間には、真のコントラストが存在します。でありながら連続性があるのです。
フレデリック・マル
2000年に創業したフレデリック・マルは、2003年に「ユヌ ローズ」を発売しました。「ユヌ ローズ」とは、フランス語で「一輪の薔薇」の意味です。まるで庭に咲く一輪の薔薇を根ごと抜き出したような土っぽさのあるローズの香りは、2003年にエドゥアール・フレシェにより調香されました。
料理雑誌のために、日本で言うところの松茸並みに高価なペリゴード黒トリュフのにおいを再現しようとしていたフレシェは、その時に、ひらめいたベースノートをマルの新作のためのアイデア源としてメモに書きとめていました。
そのメモに基づき、トリュフを(ウッディやアニマルといった)ダークノートとミックスし、男性的な香りを作ろうと提案したのですが、出来上がった試作品は、全くオリジナリティのないものになってしまいました。
そのため、マルの提案により、逆転の発想で、トリュフと最も女性的な香料であるローズをミックスすることによりこの香りが誕生したのでした(そして、マルはソリフロールの香りを求めていた)。
このころ、フレシェは、天然香料の会社ヴェ・マン・フィス社に在籍しており(実に丁寧に時間をかけて)高真空状態で低温蒸留したグラース産のセンティフォリアローズDMが開発されたばかりでした。このリキュールのようなこのローズDMが使用されています。
この香りは、濃度25%というフレデリック・マルにおける最濃度の香りです。
人肌の上に咲かせる〝孤高のバラ〟
A single rose,it’s every rose.
ライナー・マリア・リルケ
バラの花束ではなく、一輪のバラを連想させる香りを作るだけでなく、人肌の上に咲く一輪のバラを生み出すために、フレシェは、アーシィーな庭園の土のような側面と、肌馴染みの良いクリーミーなアニマリックな側面を併せ持つ特製のトリュフノートを使用しました。
真紅のバラがどれほど美しかろうとも、その厳かさと完璧な美を体現した様子ゆえに人々の不安を掻き立ててなりません。そんなバラの蕾が肌の上に咲く瞬間からこの香りははじまります。
分子蒸留によって抽出された高価な香料である、センティフォリアローズのアブソリュートに(ハーバルな)ゼラニウムがアクセントとなり〝孤高の一輪のバラ〟の花びらが開いてゆきます。
太陽の下、赤ワインの雨露に祝福されながら、バラの花びらはゆっくりと開くと、ハニーが肌の上に蕩けるような甘い香りを放ちます。と同時に、トリュフノートが肌を湿った土壌へと変化させていくのです(フルーティーなローズの側面を抑制している)。
ベースのベチバーとパチョリ、カストリウムが、茎、葉、棘をより鮮烈なものにしてゆき、一輪のバラにシプレローズとしての〝完璧な〟(カイエデモードは香水に対して滅多にこの言葉を使用しない)奥行きを与えてくれます。
この香りのテーマは、「一輪の薔薇の一生」であり、その先にあるのは「女の一生」です。そして、何よりも恐ろしいのは、同じフレデリック・マルから発売された「リップスティック ローズ」と何ら共通点が存在しないローズの香りであるということです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ユヌ ローズ」を「怒れるローズ」と呼び、「ドライで、絹のようななめらかな胡椒の香りを放つ。かのプワゾンを調香したフレシェは、このもっとも洗練された原材料ローズDMを、もっとも無骨なウッディ・アンバーの香りで知られるクエスト社のカラナールと組み合わせるという、彼ならではの荒技をやってのけた。これは危険な賭けだ。」
「物怖じしないフレシェは、さらに、トリュフ・アコードと彼が呼ぶものを加えた。やわらかでクリーミーな土の香りをベースとし、この風変わりでバランスの悪いはずの調香を完成させている。結果、怒れるカルメンの猛々しい美しさを彷彿させる、力強く毅然とした、すばらしいフレグランスができあがっている。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。
2021年に発売された「ローズ トネール」について
私にとってこの香りは映画のようです。ローズは無垢で純潔を体現しています。雷がドラマを生み出します。しかし、雷は雨も含みます。雨は嵐の後、地球の匂いを運んで来るのです。
「ローズ トネール」は、ローズが溶け込んだ肌の香りです。古典的なヌード・デッサンがトリュフを加えることにより、一瞬でボードレールやヴィクトル・ユーゴーのような、緊張感、パワフル、ドラマティック、劇場型、そういった感情を生み出すのです。
それはまるで薄暗いローズ、劇場的なローズなのです。もしくは宿命のローズであり、レンブラントやティツィアーノの晩期の集大作のようです。より自由な域に達した作品。つまりはこの作品は、エドゥアール・フレシェの最後のマスターピースなのです。
フレデリック・マル
エドゥアール・フレシェの引退作となった「ユヌ ローズ」は2021年に「ローズ トネール」という名に変わりました。「ローズ トネール」とはフランス語で〝嵐の薔薇/薔薇の雷鳴〟という意味です。名前だけが変えられたということですが、真相は、ジボダン社のKaranal(カラナール)が2022年中に発売禁止になることに対応して微調整されています。
カラナールとはウッディアンバーノートを生み出す合成香料であり、百合やスイカのようなニュアンスも兼ね備えています。1987年にクエスト社が発見しました。
日本では2022年6月15日に発売された「ローズ トネール」は、ウッディアンバーとターキッシュローズが織り成す重厚感が少し失われている気もしないわけではないですが、全体的にオリジナルに忠実な香りとしてまとめられています。
ルシェルシェパルファム様の考える「ローズ トネール」
最後にこの記事の特別監修をして頂いたLe Chercheur de Parfum様に、「ユヌ ローズ」と「ローズ トネール」の違いについてお聞きしました。
私が考察する限り、ルカ・トゥリンがそう嗅ぎ取っただけであり、カラナールが本当に使われていたかどうかは分からないと考えます。
ちなみに名前を変更した理由の推測ですが、かつてフレデリック・マルは、商品を廃盤にするのは同じ香りを創れなくなった時だと言っていました。ですが「ユヌ ローズ」は、正確に言うと廃盤になった訳ではなく、「ローズ トネール」にネームチェンジされた香りです。
フレデリック・マルの場合、作品が出来た後に、その香りを表す名前をつけていく流れなので、時が過ぎる中で、「ユヌ ローズ」よりピッタリな香水名としてマルがこの名前を思いつき、それを今回の機会に変更したのかもしれません。
一応、海外のフレデリック・マルの公式サイトもフォーミュラを一切変更していないと記載されているので、私は今回のバージョンに香りの変化はないと考えます。
香水データ
香水名:ローズ トネール/ユヌ ローズ
原名:Rose Tonnerre/Une Rose
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:エドゥアール・フレシェ
発表年:2003年、2021年
対象性別:女性
価格:10ml/10,890円、50ml/37,290円、100ml/53,130円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
シングルノート:ゼラニウム、ターキッシュ・ローズ、ハニー、トリュフ、ムスク、レッド・ワイン、ベチバー、パチョリ、カストリウム