エスカル ア ポルトフィーノ
原名:Escale a Portofino
種類:オード・トワレ
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:フランソワ・ドゥマシー
発表年:2008年
対象性別:女性
価格:125ml/19,250円
かつてディオールから誕生した、幻のポルトフィーノの香り
私がディオールの中で最も楽しんで作れた香りのひとつが「エスカル ア ポルトフィーノ」でした。なぜならそれは依頼されたものではなく、それほど悪くないと思ったある香りの試作品だったからです。その雰囲気を転写させ、この香りと共に、コレクションを立ち上げることにしました。
フランソワ・ドゥマシー(2021年のインタビューより)
2003年よりエルメスから『庭園のフレグランス』という名の、エルメスの旅シリーズがスタートしました。このコレクションに触発されたクリスチャン・ディオールが、2008年に生み出したのが、世界中の寄港地(エスカル)へと誘う香りのクリーズ・コレクション『エスカル ドゥ ディオール』でした。最終的に2012年までに全4作品発売されたうちの第一弾の香りが「エスカル ア ポルトフィーノ」でした。
2007年にトム・フォードから発売された「ネロリ ポルトフィーノ」の香りの創造の源となった、地中海に面したイタリアの最高級リゾート地、ポルトフィーノをテーマにした香りです。シトラス・アロマティックな香りは、ディオールの初代専属調香師フランソワ・ドゥマシーにより調香されました。
ちなみにこの香りは、限定コレクションとして(日本でも)2023年に「ディオリビエラ」と同じ時期に再販されました。
ポルトフィーノとは、東京ディズニーシーのポルト・パラディーゾ(楽園の港)のモデルになったイタリアの最高級リゾート地です。ターコイズブルーの海に突き出た半島にある大自然のパノラマに魅了される、夢のような地中海の楽園です。元々は鄙びた漁村(現在でも住人は僅か400人のみ)だったこともあり、その名残を残す古い建物の風情と、威風堂々としたラグジュアリー・リゾートの佇まいが、カラージュエリーのように見事に調和しています。
そこにあるルイ・ヴィトン、ディオール、エルメスなどのラグジュアリー・ブランド・ブティックはこじんまりとしており、曲がりくねった道に沿ってあります。さらに地元のリグーリア料理を楽しめるシックなビストロが点在としており、日帰りの観光客が多いポルトフィーノは、夕方から夜にかけては静かに情緒溢れるムードに包まれます。
ジンフィズを軽く一杯飲んだ後の、優雅な地中海貴婦人の香り
地中海のバカンスの輝きを、アールデコ調のボトルに封印したこの香りが解き放たれると同時に、目の前に魅惑の地中海が生き生きと広がってゆきます。真の意味で活気に満ちた幕開けです。
かつて訪れたことのある人には想い出を、まだ訪れたことのない人には憧れを募らせるイタリアの太陽がいっぱいなシトロンと、海水に磨き上げられたジューシーなベルガモットが爽快に広がってゆきます。
プチグレンの緑の苦みが、地中海に沿って豊かに生息するエメラルドの森を思い出させます。すぐにこの苦みが、爽やかなオレンジ・ブロッサムとほんのり甘みがあるクリーミーなビターアーモンドとホワイトムスクの中に、円やかに溶け込んでゆくのです。
一方、天然のシトロンを使用している強みが生かされてゆきます。素肌の上で、酸っぱく合成的な匂いに傾くことなく、オレンジ・ブロッサムの中に、自然なレモンの煌めきを優しく放ち続けます。
やがて、ジンフィズを素肌に振りかけ、シダーウッドとサイプレスがオレンジ・ブロッサムと見事にブレンドされ、地中海の16種類の天然香料が互いに共鳴し合い、夏向きのすっきりした甘さを演出してくれます。特に、静かな新緑の森を連想させるサイプレスがアクセントとして効いています。
1970年代のヨーロッパの映画に出てきそうな、メイクアップを完璧に決め、大きなサングラスをかけ、大きな帽子に、白いシャツにカプリパンツで、地中海を望むバルコニーで、遅めのランチを前にアペリティフを手に取りくつろぐ女性のイメージ。
とても心地良く、楽天的で、優雅さと無邪気さに満ちた、ずっとジンフィズの軽く酔わせるムードも漂う、非日常を身にまとう、大人の余裕を感じさせる、贅沢な柑橘と森の香りです。四本のコレクションの中でも、最も人気のある香りです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「エスカル ア ポルトフィーノ」を「アーモンド・コロン」と呼び、「何十年も前に不愉快な街へと成り下がっているのに、港町サントロペやポルトフィーノは、今も伝説的なリゾート地としてもてはやされている。「ポルトフィーノに寄港」という製品名は言い得て妙だ。ポルトフィーノの混雑は今やあまりにひどく、海からでなければ街に近づくこともできないし、船でなければゆっくり眠ることもかなわない。」
「だが中身は魅力的なコロン。食欲をそそるシトラスのトップノート、苦みばしったアーモンドのハートノート、できたてのワックスのような上質のアルデハイドが、折り目正しく香るドライダウンへとつながる。」「センスのないパッケージが残念だ。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:エスカル ア ポルトフィーノ
原名:Escale a Portofino
種類:オード・トワレ
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:フランソワ・ドゥマシー
発表年:2008年
対象性別:女性
価格:125ml/19,250円
トップノート:カラブリア産ベルガモット、シチリア産プチグレン、イタリア産シトロン
ミドルノート:ビターアーモンド、オレンジ・ブロッサム、ジュニパーベリー
ラストノート:シダー、サイプレス、ガルバナム、キャラウェイ、ムスク