ルミエール ノワール プールファム
原名:Lumiere Noire Pour Femme
種類:オード・パルファム
ブランド:メゾン・フランシス・クルジャン
調香師:フランシス・クルジャン
発表年:2009年
対象性別:女性
価格:70ml/22,464円
美しい薔薇に存在する棘を、水仙の愛で燃やしてゆく…
フランシス・クルジャンが、2009年にメゾン・フランシス・クルジャンを創業した時に発表した7作品のうちの二つとしてペア・フレグランスを生み出しました。その女性用フレグランスが「ルミエール ノワール プールファム」でした。
ルミエール(光)とノワール(闇)という対極の二つの言葉をイメージして生み出された、衝撃と視覚の魔法のフレグランスです。ローズとパチョリという光と闇を結び付けるこの香りの「ルミエール ノワール プールオム」との香料の違いは、水仙が使用されているところにあります。
クルジャンは、この香りを創る前にすでにゲランの「ローズ バルバル」において、ローズとパチョリをブレンドした香りを調香していました。それは美しい薔薇に存在する棘を表現していく中で、思いかけず水仙と遭遇するという、新しいフローラルシプレの世界を描き上げています。
カトリーヌ・ドヌーヴのために作られた香り
バラの明るさとパチョリの暗さの対角線上にあるこの香りのインスピレーションは、カトリーヌ・ドヌーヴです。とてもグラマラスで、とてもシックで、まるで高嶺の花のようです。そんな彼女がオートクチュールのイブニングドレスを着て、カンヌ国際映画祭の映画祭会場レッドカーペットが敷き詰められた階段を降りようとしているのです。
マーク・チャヤ(メゾン・フランシス・クルジャンのCEO)
この香りは、元々は、カトリーヌ・ドヌーヴのために作られた香りです。
2001年にフランシス・クルジャンは、香水市場の縮小と、調香師の市場における自由度の喪失に危機感を募らせ、それまで存在しなかったオートクチュール・フレグランス事業(カイリー・ミノーグやエルトン・ジョンも顧客だった)を開始しました。
そして、この時、カトリーヌ・ドヌーヴからパレロワイヤルにあるメゾン・ジャンセンの「ラ フランベ(La Flambée)」が廃盤になったので、このポプラの香りを再現するように依頼を受けました。そして、その香りの出来があまりにも良かったため、ドヌーヴは、クルジャンに約300万円するオートクチュール・フレグランスを調香してもらいました。
この香りこそが「ルミエール ノワール プールファム」の原型であり、メゾン・フランシス・クルジャンが創立されるにあたり、クルジャンはドヌーヴから商品のラインナップに加える許可を貰ったのでした。
〝ルミエール ノワール=暗黒の閃光、暗闇への招待状、光る黒〟
1964年に『シェルブールの雨傘』で、ミシェル・ルグランの音楽とバーバリーのコートと共に彗星の如く現れた妖精、カトリーヌ・ドヌーヴが、『反撥』(1965年)でロマン・ポランスキー、『昼顔』(1967年)でルイス・ブニュエルを経て、1969年の『暗くなるまでこの恋を』と1980年の『終電車』で、フランソワ・トリュフォーにより、光と闇を併せ持つフランスの大女優へと昇華した瞬間を、気取りのない優雅さと官能美を、全身で受け止めていくことの出来る香りです。
そんな〝ルミエール ノワール=暗黒の閃光、暗闇への招待状、光る黒〟は、最初からふんわりと広がる気高きローズと、新緑の輝きを受けてきらめく水仙(とスズラン)がひとまとめになるような、新鮮な花と緑のきらびたる五彩に包まれていくようにしてはじまります。うっすらと感じさせる水仙の汚れた緑の甘やかでクリーミーな感触がアクセントになっています。
この赤い薔薇、トレンチコートを着て、ハイヒールを履き、パリの路地の石畳をコツコツと音を鳴らし歩いていく女性の後姿のような、まったく甘えのない、毅然としたローズです。
すぐにしづやかに、スモーキーなチョコレートと森と土が混ざり合ったようなパチョリと、黒衣の花嫁のようなムスクによってローズの暗黒の輝きと、稲妻のようなチリペッパーによってローズの生命の輝きのコントラストが巧みに、素肌の上に雨上がりのローズガーデンが作り上げられてゆくのです。
チリペッパーだけでなくキャラウェイ、コリアンダー、クミンなど様々なスパイスを感じることが出来る。それはまるで甘さだけの少女や、20代の女性にはない、成熟したオンナの透き通るような存在感を表現する役割を果たしているということです。そこに存在するのは、ギャップです。滑らかに引き伸ばされるオリスバターが艶やかさを付け加えてくれています。
つまりは闇の中に静かに輝く流星のイメージ、音なき閃光(=香り立つ閃光)です。何かを覚醒させる香りと言っても良いでしょう。
暗闇の中に発見した赤い薔薇の茂み。雨露が残るその花びらを見て、眩暈を感じる瞬間。緑の棘の先はまだ茶色くはなっていない。その獲物を待つ、静謐なる生命力に〝クール・ビューティー〟の真髄を知る。その真髄とは、〝赤を明るくではなく、赤を暗く〟するということなのだと。
キラキラ星降るスパイスを浴びながら、ワインのように酔わせる赤い薔薇が、水仙から流れる春風に吹かれて、素肌の上で心地よく、よろめき、ゆれうごく、温かく熟していくローズの余韻に満たされてゆきます。
カトリーヌ・ドヌーヴ様。てんびん座の女。彼女は冷たく美しく、氷のようでさえあり、その顔は内面化された欲望の完璧な仮面である。そんな仮面から、光と闇の力で解き放たれる一瞬を永遠に変える、気高く咲き、うつくしく散るばらのボトルの中のラブストーリー。
香水データ
香水名:ルミエール ノワール プールファム
原名:Lumiere Noire Pour Femme
種類:オード・パルファム
ブランド:メゾン・フランシス・クルジャン
調香師:フランシス・クルジャン
発表年:2009年
対象性別:女性
価格:70ml/22,464円
シングルノート:水仙、パチョリ、ローズ、キャラウェイ、チリペッパー