おどろおどろ
原名:Odoro Odoro
種類:オード・パルファム
ブランド:破天荒
調香師:清水 篤
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/17,600円
公式ホームページ:破天荒

妖術使い・滝夜叉姫が、あなたの中に眠る〝妖怪〟を召喚する。

©株式会社キャライノベイト

『相馬の古内裏』歌川国芳
江戸の妖しき物語を今に伝える、幽玄なる世界観。題材の元になっているのは山東京伝の読本「善知安方忠義伝」。歌川国芳の「相馬の古内裏」に描かれる不気味で美しい情景から、闇夜の冷たさと神秘を香りで表現しました。
公式サイトより
日本文化や日本の魅力を、香りを通じて世界へ発信するキャライノベイト(青山フラワーマーケットなどの人気フレグランスも創造しています)が、満を持して2025年4月14日に発表した国産フレグランス・ブランド『破天荒』。
日本人には「破天荒な性格」と誤用されやすいこの言葉の真の意味は「前人のなしえなかったことを初めてすること。また、そのさま。前代未聞。未曾有」です。
日本人の琴線に響く前人未到の香りを創造するために、日本の伝統文化を継承しながら、現代の価値観を未来へ受け継いでゆく〝新たな日本らしさ〟を表現する『破天荒』の〝お披露目フレグランス〟として、浮世絵を題材に『和の美学』を香りに投影した五作品のうちのひとつが「おどろおどろ」でした。
それは怪談という文化を香りで翻訳するという壮大なテーマをもって、総合ディレクター兼調香師の清水 篤氏により調香されました。
この香りの着想源となった浮世絵『相馬の古内裏(そうまのふるだいり)』は、江戸時代末期の弘化年間の1845年から1846年ごろに歌川国芳によって描かれました。
平将門の娘とされる伝説上の妖術使い・滝夜叉姫が、骸骨の妖怪を呼び出し、妖怪退治にやって来た源頼信の家臣・大宅太郎光国を驚かせている情景が描かれています。
この世のものとは思えない抗い難い魅力を持つ〝もののけ香水〟

©株式会社キャライノベイト
「おどろおどろ」は歌川国芳の『相馬の古内裏』に描かれた、平安時代の妖しき物語の闇夜の冷たさと神秘を香りで表現しています。ひんやり感を感じさせるメンソールが隠し味になっています。私のこの香りのイメージは、耳なし芳一の琵琶法師なんです。
清水 篤さん
田舎の畦道に生い茂る野草を刈る草刈機のガソリンと刈られた野草が交じり合う、強烈なグリーンの爆発から「おどろおどろ」ははじまります。草刈機のキュイーン、キュイーンという音まで聞こえてきそうな程、シャープなレモンとローズマリーがスイングして、弾け合い、素肌に降り注いでゆきます。
すぐに、大自然の中、暗闇が目を覚ますように、深山幽谷の地を思わせる、戦慄の緑に五感が満たされてゆきます。と同時に広がる胡椒薄荷(ペパーミント)のひんやり感が、最初から最後までこの香りに妖美さを漂わせています。
そして夜闇に呑み込まれていくように、妖しい白い花の香りが素肌の上で開花してゆきます。打ち滅ぼされた肉体が、自然に還るように…すっきりとした夏草と円やかな木の香りに満たされてゆきます。
実はこの香りの魅力は、おどろおどろしいだけでなく、茶目っ気のある妖怪たちが緑豊かな墓場で運動会しているムードを連想させる、野原で無邪気に遊んだ子供時代を思い出させるグリーンの香りに満たされてゆきます。このグリーンノートが不思議なのは、若原の輝きのような無邪気な明るさと、鬱蒼とした野草の闇深さを同時に感じさせるところにあります。
やがてレザーが静かに立ち上り、闇夜の中で何百本もの蝋燭の炎が冷たく揺らめくような、信じられないほど幽玄たるグリーンレザーとホワイトフローラルの余韻で、五感を酔わせてくれるのです。かくして、あなたのからだも心も完全にこの『物の怪(もののけ)香水』に飼い慣らされてゆくのです。
この世のものとは思えない、背筋が凍るほどの美しさが立ち上る

©株式会社キャライノベイト
「おどろおどろ」という香りの魅力は、絶叫と絶頂、恐怖と安らぎ、絶望と希望、闇と光という相反する要素を、素肌の上で感じることが出来る『劇場型香水』であるところにあります。だからこそ、最後には心地良い満足感に満たされるのでしょう。
「おどろおどろ」の香りは、情報量の多い『相馬の古内裏』の浮世絵のように、
妖術使い・滝夜叉姫=茉莉花(ジャスミン)、薔薇(ダマスクローズ)
召喚した巨大な骸骨=檸檬(レモン)、迷迭香(ローズマリー)、胡椒薄荷(ペパーミント)
対峙する大宅太郎光国=白檀(サンダルウッド)、鉛筆柏槇(シダーウッド)、革(レザー)
の構図を素肌で感じることが出来ます。まさに〝怪談を肌で受けとめていくような香り〟とも言えます。
丑三つ時に白い服を着てこの香りを纏えば、怪談の主人公になったような気分を味わえるかもしれません。〝この世のものとは思えない、背筋が凍るほどの美しさ〟を演出してくれる香りです。
「おどろおどろ」の魅力を調香師・清水 篤さんに聞いてみました。

清水 篤さん © 株式会社キャライノベイト
Q.最初の質問としてこれは間違っていたら申し訳ないのですが、「おどろおどろ」は、5つの中で、最もオープニングの第一印象が悪いのですが、30分くらい経つとうっとりするようなグリーンレザーの香りになります。この最初の違和感は意図的なものでしょうか?
A.はい、意図的です。
一般的な香水は、最初に「良い香り」と感じてもらえるように設計されます。しかし「おどろおどろ」は、その逆の発想から生まれた香りです。私が表現したかったのは、美しいものが少しずつ現実の空気に触れ、姿を変えていく感覚でした。
日本の怪談は、最初から恐ろしいわけではありません。何気ない日常の中に、ほんの少しの違和感が入り込み、その積み重ねが、いつしか恐怖へと変わっていきます。その空気を香りで表現したくて、通常のフレグランスではあまり前面に出さないグリーン系の香料をあえて多めに使い、不調和や違和感を意識的に作りました。
ローズやジャスミンも使っていますが、限りなく色が黒くなるような花の感じ。夜の花と黒い木が混ざる「和のダークフローラル」私は、綺麗な香りをそのまま綺麗には作りません。ほんの少しだけ現実の空気や違和感を混ぜることで、その場所にいた時の感情や記憶が動き始めると考えています。時間が経つにつれて、グリーンの尖った印象は少しずつ落ち着き、レザーやウッディの深みが現れ、美しい余韻へと変化していきます。
日本の怪談も最後に残るのは、恐怖だけではありません。どこか切なさや、美しさ、そして静かな余韻があります。「おどろおどろ」は、その時間の流れそのものを香りで表現した作品です。
Q.この香りの清水さんのイメージが、なぜ耳なし芳一の琵琶法師なのか教えていただければ幸いです。
A.実は、この香りが生まれるきっかけは、『破天荒』の企画が始まる前にありました。ある日、琵琶奏者と怪談師による「耳なし芳一」の公演に招待され、その世界観に強く引き込まれました。琵琶の音色と怪談が重なった瞬間、「この世界を香りで表現することはできないだろうか」と思ったことが、この作品の始まりです。
その後、実際に耳なし芳一ゆかりの地である下関の赤間神社を訪れました。「芳一はこの場所で琵琶を弾いていたのだろうか。」「どんな景色を見て、どんな空気を感じていたのだろうか。」そんなことを考えながら境内を歩き、その土地に流れる時間や空気を感じ取ろうとしました。
私は、その場所そのものを再現したかったのではありません。そこに積み重なった歴史や、人々が語り継いできた物語を、香りという言語へ翻訳したかったのです。その結果、「おどろおどろ」は怪談を表現した香りではなく、日本人が古くから大切にしてきた鎮魂や語りの文化を表現した作品になりました。
Q.怪談を香りにするという発想は、かなり天才的だと思います。その構想はかなり昔からあったのでしょうか?それともこの浮世絵を見て閃かれたのでしょうか?幽霊や物の怪や妖怪的なもの(ゲゲゲの鬼太郎も含め)が好きなのでとても興味があります。
A.きっかけは、以前お話しした「耳なし芳一」の公演でした。あの世界観に触れた時、「怪談を香りで表現できないだろうか」と考え始めました。そして、その時に思い出したのが、「おどろおどろしい」という日本語です。
子どもの頃から当たり前のように耳にしてきた言葉ですが、改めて考えてみると、この感覚をそのまま他の言語へ翻訳することはとても難しいと思いました。「怖い」とも少し違う。「不気味」とも違う。そこには、日本人ならではの曖昧な感覚や、美意識が込められています。
私は、この「おどろおどろしい」という言葉そのものが、日本独自の文化や感性を象徴しているのではないかと思いました。だからこそ、その翻訳しきれない感覚を、今度は香りという形で表現してみたいと思ったのです。
Q.私がこの「おどろおどろ」が素晴らしいと感じているのは、日本のダーク・ファンタジーを香りのテーマにしている所です。今後、同じようなテーマの香りを作られる予定はございますか?
A.はい、ぜひ挑戦していきたいと思っています。私は、怖さそのものを香らせるという表現には、まだ大きな可能性があると感じています。ただ、恐怖だけを表現したいわけではありません。
私が惹かれるのは、綺麗な香りを少しだけ汚すような調香です。ほんの少し違和感が入ることで、美しさがより際立ち、人の記憶にも深く残ります。日本の怪談や妖怪文化も同じだと思っています。怖いだけではなく、その奥に切なさや儚さ、美しさがある。その日本独特の感覚を、これからも香りという形で表現していきたいと思っています。
Q.最後に、ペパーミントが背筋がぞくっとするような感覚のスパイスだという事ですが、他にもおどろおどろ的なものの表現として、候補に挙がった香料は何かございましたでしょうか?
A.実は、「おどろおどろ」は最初からペパーミントを軸に構成しようと考えていました。怪談を聞いた時、背筋をすっと冷たい風が通り抜けるような感覚があります。その身体感覚を香りで表現するには、ペパーミントが最もふさわしいと思ったんです。
さらに、この作品だけはメントールをあえて配合しています。メントールというとガムや湿布を思い浮かべる方も多いと思いますが、肌につけると「ひやっ」と冷たく感じる特徴があります。実は、香水ではこうした冷感を積極的に演出することはほとんどありません。香りで美しさや心地よさを表現するのが一般的なので、肌が冷たく感じるような表現は、あえて避けられることが多いからです。
しかし「おどろおどろ」では、その常識をあえて外しました。香りをまとった瞬間に、一瞬「ひやっ」とする。その冷たさを、怪談を聞いた時に鳥肌が立つような身体の反応と重ねて表現したかったのです。
怖い話は、頭で怖いと理解する前に、身体が先に反応することがあります。私は、その身体感覚まで含めて香りで表現したいと思いました。香りは目には見えませんが、人の身体や記憶を動かすことができます。だから「おどろおどろ」は、怖い香りを作ったのではなく、日本人が古くから大切にしてきた怪談という文化や、そこから生まれる身体の感覚までを、香りという新しい表現へ翻訳した作品なんです。
2種の香りを重ねて、物語をひらく「聞き重ね」
日本の伝統芸道・香道では、香りを「嗅ぐ」のではなく「聞く」もの──。『破天荒』では、香道の文化にならい、2種の香りを重ねて、物語をひらく「聞き重ね」が提案されています。
それぞれの「聞き重ね」について総合ディレクター兼調香師の清水 篤さんに質問させて頂きました。
①『滅灯(めっとう)』おどろおどろ × 花火

©株式会社キャライノベイト
Q.なぜ「花火」と「おどろおどろ」を重ねようと思われたのでしょうか?
A.『滅灯』は、私自身の夏の記憶から生まれた聞き重ねです。若い頃、花火大会が終わってもすぐには帰りませんでした。友達と河川敷に残って話をしたり、怪談を始めたり、肝試しへ行ったり。
さっきまで何万人もの人で賑わっていた場所が、少しずつ静かになっていく。屋台の灯りが消え、人の笑い声が遠ざかり、昼間には気づかなかった風の音や虫の声が聞こえてくる。同じ場所なのに、まるで別の世界へ変わったような感覚がありました。
「花火」は、人が集まり、笑い合い、夜空を見上げる華やかな時間を描いた香りです。そこへ「おどろおどろ」を重ねることで、人の時間が終わり、静かな夜の時間が始まる、その境界を表現したいと思いました。
Q.『滅灯』という名前には、どのような意味が込められていますか?
A.『滅灯』とは、文字通り「灯が消える」という意味です。でも、それは終わりではありません。灯が消えることで、それまで見えなかった景色や空気が少しずつ姿を現します。
花火大会が終わり、人々が帰り、屋台の灯りも一つずつ消えていく。すると、昼間には聞こえなかった虫の声や風の音が耳に入り、誰もいないはずなのに、何かの気配を感じることがあります。私は、日本の怪談の魅力は恐怖そのものではなく、その前に流れる静けさや余白にあると思っています。
『滅灯』は、怖さを表現した名前ではありません。賑わいから静けさへ。現実から想像へ。人の時間から、もう一つの時間へ。その境界に流れる「気配」を表現した名前です。
Q.それぞれを単体で香った場合と、どのように印象が変わりますか?
A.「花火」は、夜空に咲く一瞬の美しさや高揚感を感じる香りです。「おどろおどろ」は、時間とともに少しずつ違和感が現れ、静かに心へ入り込んでいく香りです。この二つを重ねると、花火大会が終わった後の夜の空気へとゆっくり変化していきます。
最初は、火薬の余韻や夏祭りの華やかさが感じられます。しかし時間が経つにつれて、その賑わいは静かに消え、グリーンやレザーの深みが現れ、夜の気配へと姿を変えていきます。誰もいなくなった河川敷。少し冷たく感じる夜風。暗闇の向こうに何かがいるわけではないのに、何かがいそうな感覚。
私は、日本人が古くから大切にしてきた怪談文化には、見えないものを想像する豊かな感性があると思っています。『滅灯』は、花火と怪談を重ねた作品ではありません。花火が終わった後にだけ訪れる、日本の夏の「気配」を聞き重ねた作品なんです。
②『影艶(かげつや)』おどろおどろ × 魁

©株式会社キャライノベイト
Q.なぜ「おどろおどろ」と「魁」を重ねようと思われたのでしょうか?
A.「おどろおどろ」と「魁」は、一見すると対照的な香りに思えるかもしれません。でも私の中では、どちらも夜に生まれる幻想を描いた香りでした。「魁」は、人が憧れる美しさ。「おどろおどろ」は、人が心の奥で感じる畏れや不思議さ。どちらも現実ではなく、人の心が映し出す世界なんです。
この二つを重ねた時、私が表現したかったのは、夢なのか現実なのか分からなくなる、あの曖昧な時間でした。日本には「まどろみ」という、とても美しい言葉があります。
畳が少し冷え始める夜。障子の向こうから虫の声が聞こえてくる。眠りに落ちる少し前。夢が始まる少し前。現実と幻想の境界がゆっくりと溶け合っていく時間。『影艶』は、その言葉では説明しきれない感覚を香りで表現した聞き重ねです。
Q.『影艶』という名前には、どのような意味が込められていますか?
A.「影」とは、暗闇そのものではありません。光があるからこそ生まれるものです。「艶」もまた、人の心が動くことで初めて生まれる美しさだと思っています。私は、日本には、一言では説明しきれない美しい感覚があります。「おどろおどろしい」もそうですし、「まどろみ」もその一つです。
夢なのか。現実なのか。恋なのか。怪談なのか。答えが曖昧だからこそ、人は自由に想像し、心を動かされます。『影艶』という名前には、その曖昧さそのものを大切にしたいという想いを込めました。
Q.それぞれを単体で香った場合と、どのように印象が変わりますか?
A.「魁」は、凛とした美しさを感じる香りです。「おどろおどろ」は、少しずつ違和感が現れ、静かに心へ入り込んでいく香りです。この二つを重ねると、不思議と怖さは和らぎ、美しさにも少し影が差し込みます。まるで、夢を見ているのか、それとも昔の記憶を思い出しているのか分からなくなるような感覚です。
誰かを想いながら眠りにつく夜。ふと昔の景色が心に浮かぶ瞬間。会ったような気がするのに、それが夢だったのか現実だったのか思い出せない。そんな曖昧な時間は、日本人が昔から大切にしてきた感性の一つなのかもしれません。
『影艶』は、恋の香りでも、怪談の香りでもありません。答えを決めないための聞き重ねなんです。
香水データ
香水名:おどろおどろ
原名:Odoro Odoro
種類:オード・パルファム
ブランド:破天荒
調香師:清水 篤
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/17,600円
公式ホームページ:破天荒

トップノート:檸檬(レモン)、迷迭香(ローズマリー)、胡椒薄荷(ペパーミント)
ミドルノート:茉莉花(ジャスミン)、薔薇(ダマスクローズ)、夏草(グリーンノート)
ラストノート:白檀(サンダルウッド)、鉛筆柏槇(シダーウッド)、革(レザー)、麝香(ムスク)
