作品データ
作品名:ローズマリーの赤ちゃん Rosemary’s Baby (1968)
監督:ロマン・ポランスキー
衣装:アンシア・シルバート
出演者:ミア・ファロー/ジョン・カサヴェテス/ルース・ゴードン/モーリス・エヴァンス
1968年、ミア・ファロー、スキャットと共に表舞台に現る!
ギクッとさせるような戦慄のピアノの鍵盤の響きから始まるオープニング・スキャット。儚げなその声音は、ミア・ファロー(1945-)自身によるものです。
2018年の現代において、後のファッション・シーンに影響を与え続けているオシャレな映画をあげよと言われたならば、必ずあがる作品が本作『ローズマリーの赤ちゃん』です。本作の魅力はこの圧倒的な60年代ファッションの発信量にあります。劇中でミア・ファローが着た衣装は56着。かつてホラー映画でこれほどの衣装チェンジをする映画があったでしょうか?
更には、共演者のジョン・カサヴェテス、ルース・ゴードン、シドニー・ブラックマーの衣装も同じくハイセンスであり、それでいて、ファッションが全くストーリーの邪魔をしていない所が、この作品がタイムレスな魅力を放つ所以です。
ミュウミュウの2006年AWにおいて、本作のオープニング・スキャットがランウェイで使用されていました。この作品が大好きなファッション・デザイナーは多く、ジョナサン・ウィリアム・アンダーソン(現在、ロエベのクリエイティブ・デザイナー)もその一人です。
シャネルのマトラッセの原型である『2.55』。
ローズマリー・ルック1 オープニング・ルック
- 特徴のあるカラーの半袖のオフホワイト・シフトドレス。膝上丈、ゆるいAライン、コットンとポリエステル混合
- 白のボウつきローヒールパンプス
- ベージュのパンティストッキング
- クリーム色のシャネルの2.55
- 白のショートグローブ
- キャメル色の革の細ベルトの腕時計
- パールのピアス
オープニングから、お洒落なジョン・カサヴェテス(フックベント、2ボタン・カフスのスカイ・ブルーのジャケットにクリーム色のチノパンツとブラウンのモカシン、そして、ニットタイ!典型的な60年代アイビー・ルック!)を夫ガイ役に、現れるミア・ファローが演じるローズマリーは、クリーム色のシャネルの2.55を片手に登場します。そのシューズはフェラガモのヴァラに似ているが、ヴァラはフィアンマ・フェラガモが1978年に創ったものなので、フェラガモであったとしても、また違うものです。
オープニングのオフホワイトカラーで統一した新婚ファッションが、この後に続く、悪魔的な流れとの対比として実に効果的です。そして、何よりも印象的なのが、健康的なローズマリーのボブヘアです。こちらは、シドニー・ギラロフによるウィッグなのですが、フロントで可愛らしく分けられており、極めて60年代的です。
とても可愛らしいドーリーなスカイブルー・ルック
ローズマリー・ルック2 スカイブルー・シフトドレス
- ブルーのカチューシャ
- ノースリーブ・シフトドレス。ブルーのストライプ、ボートネック、フロントとバックが縦のストライプで、サイドのみボーダー。膝丈
- ベージュのフラットシューズ
- パールのピアス
お人形のような雰囲気を漂わせ、ぱっつんボブヘアにスカイブルーで統一したシフトドレスが『奥さまは魔女』のサマンサ風です。ちなみにローズマリーを娘のように可愛がっている童話作家のハッチ役を演じるのは、サマンサのパパを演じていたシェイクスピア劇の名優モーリス・エヴァンスです。
このシーンにおける夫ガイのファッションも素晴らしいです。アースカラーのセーターとパンツ・スタイルが大人のエレガンスを示しています。実生活においては、インディペンデント映画の父と呼ばれたジョン・カサヴェテスであり、自分の作品を作るための資金稼ぎと割り切って本作に出演しているのですが、ポランスキー監督との関係はどうであれ、すっかりリラックスして演技している雰囲気が出ていて、チャーミングで、ミア・ファローとの相性が抜群です。この作品の彼女のファッションが極めてお洒落に見えるのは、カサヴェテスのファッションも決まっているという大前提の下に成り立っています。
結局は、ファッションとは、パートナーとの釣り合いが重要であり、女性を輝かせるのは、パートナーの男性のスタイルが、奇抜すぎず、落ち着いた色気に満ちていることが前提なのです。