LOVE, クロエ
原名:Love
種類:オード・パルファム
ブランド:クロエ
調香師:ルイーズ・ターナー、ナタリー・グラシア=セット
発表年:2010年
対象性別:女性
価格:30ml/7,875円、50ml/10,500円、75ml/13,650円
2008年のクロエのローズ革命
私とアマンディーヌは、当時、全く人気がない香りだったローズを再び女王の座へと戻そうと考えたのでした。この香りは当時のトレンドに逆らった香りでした。
ミシェル・アルメラック
クロエがはじめてフレグランスを発売したのは1975年のことでした。「クロエ」という名のその香りは、カール・ラガーフェルドの指揮のもと生み出されたチューベローズの香りでした。以後、何作かリリースされるも、ヒット作は生み出せず、20世紀末にはクロエのブランド力自体が落ち、フレグランスの新作はリリースされない状況が続いていました。
そんな中、1997年にクリエイティブ・ディレクターに就任したステラ・マッカートニーがクロエを復活させ、2001年にその座を引き継いだフィービー・ファイロが、パディントンというバッグと共に、ワイドパンツなどを独特のバランスでハイファッションに取り込んでいくセンスにより、爆発的な「クロエ旋風」を生み出すことになるのでした。
そして、2005年にクロエは、再びフレグランス部門へ乗り出す決意を固めたのでした(2005年までユニリーバがライセンスを持っていたが、クロエのフレグランス開発はほとんど進まなかった)。かくして、コティとロベルテの協力を得て2008年2月(日本は2008年4月2日)に発売されたのが「クロエ オードパルファム」でした。
2006年にボンド・ナンバーナインの「セント オブ ピース」を調香し、脂の乗っていたミシェル・アルメラックとアマンディーヌ・クレーヌ・マリーにより調香されたこの香りは、発売と同時に、世界中で爆発的に売れ、「ローズ革命」を勃発させたのでした。
それはクロエのファッションやアクセサリーと同じように、クラシックかつヴィンテージなアプローチを取りながらも、モダンでコンテンポラリーなローズ・フレグランスとして、25歳から35歳の女性をコアターゲットに生み出された香りでした。
30代から40代の世界中の女性を「クロエパウダー」の虜に…
世界中の若き女性が「クロエローズ」一色に塗り替えられていきました。そんな中、コムデギャルソンの香水のディレクションでその手腕を認められるようになったエズラ・ペトロニオを、(香水製作の)クリエイティブ・ディレクターに迎え、2010年10月に、30代から40代の世界中の女性をターゲットに定めたウィメンズ・フレグランスの新ライン「LOVE, Chloé(ラブ クロエ)」を発表したのでした。
昔のコティのフェイスパウダーの香りをイメージしたコスメティックアコードが中心にあるこの香りは、ルイーズ・ターナーとナタリー・グラシア=セットによって調香されました。
当時のクリエイティブ・ディレクターのハンナ・マクギボンが命名した「Love=愛」という名の香りは、日本でも、在日フランス大使館大使公邸でミューズのラケル・ジマーマンを招いて発表会が7月21日に開催されるほど、かなり力を入れてローンチされました。
ちなみにラケルは10代のころ、ファッションモデルの卵として東京でも活動していました。
女性の長所を引き伸ばしてくれる〝魅惑のアイリス〟
きらめく太陽。ではなく、きらめくスポットライトに愛される大人の女性のためのこの香りは、メイクアップの最後の仕上げのようなコスメティックなパウダリーな香りと共にはじまります。
ムスキーで蒸したミルキーライスのような甘やかさが広がる中、ピリっとキビキビしたピンクペッパーが弾け出し、明るいオレンジフラワーの香りが解き放たれます。流行に流されず、クリシカルな女性の気品もうまくモダンに変えていく、溌剌とした女性がそこにおられます。
彼女があるく歩幅の大きさに揺れるベージュのシルクのワイドパンツとブラウスのドレープが、ふんわり風になびく軽くカールしたヘアと通じ合うように、一緒に流れるように香りが、最高級の生地感を生み出してゆきます。
すぐにクリーミーなヘリオトロープと優しく甘く花開くライラックが柔らかく紫色の花を咲かせます。
さらにクラシカルなヒヤシンス、ウィステリアの軽やかで青さもある紫のフローラルブーケにパウダリーなアイリスが注ぎ込まれ、肌の上で花々は、ソーピィーな煌きを放ちながら、洗練された美を広がらせてゆくのです。
まるでパールのアクセサリーが、モダンな香りとなって女性の長所を引き伸ばしてくれるようです。
チェーンでつながるボトルデザイン
クロエのチェーンバッグからインスピレーションを受けたチェーンのデザインが特徴的なキャップと、ヌーディピンクのジュースを引き立たせるローズゴールドの底辺部のコントラストが、シンプルなラグジュアリー感を生み出しています。
ミューズとしてブラジル出身のファッション・モデルのラケル・ジマーマン(1983-)が出演したキャンペーン広告は、ローマン・コッポラにより撮影されました。キャンペーン・フォトは、イネス・ヴァン・ラムスウィールド&ヴィノード・マタディンによるものです。
ちなみに、この広告の中で、ベルトだけなぜかイヴ・サンローランのものが利用されていると話題になりました。通常、ファッションハウスのフレグランスの広告に他ブランドのアイテムを使用することは絶対にないからです。
当時「LOVE, クロエ」を扱っていたスペシャリスト様の声。
最後に、廃盤となったこの香りがローンチされた頃、ブルーベルで実際に取り扱っておられた、カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様による、「LOVE, クロエ」に対する貴重な回想と解説をご紹介させて頂きます。以下彼女のお言葉です。
この香りを今手に入れやすい香りでたとえるなら「ナルシソ オードパルファム プドゥレ」のように、自分の肌との境目が分からなくなるような香りです。香りを肌に乗せているという印象ではなく、肌の上にパウダーをふんわりと乗せているような〝肌〟を感じる香りです。
残念ながら発売当時は〝可愛い〟がブームだった事もあって、「クロエ オードパルファム(クロエEDP)」程のインパクトを生み出すことが出来ませんでした。そのぐっと大人の世界観に私も「えっ?急にマックスマーラみたいな雰囲気やん!」と個人的にびっくりしたほどでした。
それまでのクロエEDPのカルト的人気(本当に当時は誰もが皆クロエEDP一択でした)から、「しなやかな大人の女性の美しさ」を打ち出したイメージはなかなか受け入れられなかったので、「どうやって売っていこう」かと頭を捻らせました。
「LOVE, クロエ」は、アイリスやライラック、ウィステリア(藤の花)の紫色のフローラルブーケなので、一つのお花のイメージというよりは、『紫色』が持つ色のイメージのように、〝繊細さと気品〟〝ミステリアスで落ち着いた印象〟が香りにも映し出されていると思います。
パウダリーで上品なお姉さんな印象だったので、「クロエEDPだと皆つけてるし、可愛い印象が好きじゃない」と仰るお客様には「LOVE, クロエ」→更に滑らかなバーバリーの「ボディ」をご紹介していた記憶があります。
あと「ザ ワン」が、ゴージャスな〝肌〟だとすれば、「LOVE, クロエ」や「ボディ」は〝見せない素肌〟だと感じました。
香水データ
香水名:LOVE, クロエ
原名:Love
種類:オード・パルファム
ブランド:クロエ
調香師:ルイーズ・ターナー、ナタリー・グラシア=セット
発表年:2010年
対象性別:女性
価格:30ml/7,875円、50ml/10,500円、75ml/13,650円
トップノート:ピンクペッパー、アフリカンオレンジフラワー
ミドルノート:アイリス、ライラック、ヒヤシンス、ヘリオトロープ、ウィステリア
ラストノート:パウダリーノート、ライス、ムスク