リヴ ゴーシュ|氷のように微笑んで夢中にさせてくれる、優雅な絶対美女の香り

イヴ・サンローラン
©SAINT LAURENT
イヴ・サンローラン
この記事は約8分で読めます。

リヴ ゴーシュ

原名:Rive Gauche
種類:オード・トワレ
ブランド:イヴ・サンローラン
調香師:ジャック・ポルジュ、ミシェル・ハイ
発表年:1971年
対象性別:女性
価格:100ml/12,800円

スポンサーリンク

ジャック・ポルジュの処女作

カレン・マルダー、1993年 ©YSL Beauté

1979年 ©YSL Beauté

1980年 ©YSL Beauté

KGBの女性エージェントがジェームズ・ボンドを誘惑するために身に着けているような香り。

スーザン・アーバイン「The Perfume Guide」

リヴ ゴーシュ」とは、フランス語で「左岸」を意味します。それは1966年に、イヴ・サンローランがプレタポルテのブティックをセーヌ川左岸の6区トゥルノン通りにオープンしたことから名づけられたブランド名でした。

その名を冠したこのフレグランスは、1969年にジャック・ポルジュミシェル・ハイ(パコ・ラバンヌの「カランドル」)により調香されました。後にシャネルの三代目専属調香師となるジャック・ポルジュの処女作です。

実際には1971年に販売されたのですが、この香りのイメージはイヴ・サンローランが1971年の年初にファッション業界に革命を起こした『スキャンダル・コレクション』の影響を強く受けています。

自由かつ独立精神旺盛なイヴ・サンローランが似合う女性のためのグリーン・アルデハイドの香りであり、ローズとジフェニルエーテルから作られた非常に珍しいメタリックノートが特徴的です。

スポンサーリンク

若い世代は記憶にない過去を切望していた、1971年1月29日の『スキャンダル・コレクション』

モデル:アンジェリカ・ヒューストン、撮影:リチャード・アヴェドン

私が望むことは? 人々を衝撃に陥れ、考えさせることだ。

イヴ・サンローラン、1971年3月『ヴォーグ・フランス』

服において〝新しい〟と言えるものなどあるでしょうか?ペプラムからストッキングまで、全ては何百回も繰り返されてきたものです。ヒッピーのドレスは東洋から借用し、ショートパンツは競技場から借用したのです。それでもこれらはファッションへの新たな貢献だ。どれもオートクチュールから生まれたものではない。

オートクチュールが放つのはノスタルジアと禁止事項だけ。まるで老婦人のようだ。私のプリーツやドレープが効いたドレスが、洗練されたファッショニスタたちに1940年代を想起させても構わない。重要なのは、このファッションを知らない若い女性たちがそれを着たいと思うことだ。

イヴ・サンローラン、1971年3月

1971年1月29日にイヴ・サンローランが発表した春夏オートクチュール・コレクション〝リベラシオン・コレクション〟または〝キャラント・コレクション(40年代コレクション)〟。80点のデザインが6人のモデルによってさりげなく披露されました。

後に『スキャンダル・コレクション』と名付けられるこのコレクションは、蚤の市で手に入れた第二次世界大戦中(1940年代)の服を着ていた22歳のパロマ・ピカソにインスピレーションを受け、当時の服飾に着想を得たコレクションとして、ショートドレス、プラットフォームシューズ、スクエアショルダー、そしてド派手なメイクアップがファッション界を震撼させた物議を醸しました(さらにロベール・ブレッソンの1945年の映画『ブローニュの森の貴婦人たち』からも着想を得ました)。

「パリで最も醜いコレクション」「大いなる茶番劇!」「吐き気を催す」との称号を授けられたにも関わらず、体臭ファッションを席巻する「レトロ」ブームに拍車をかけることとなり、瞬く間に大衆ファッションを席巻しました。

このコレクションは、1966年から67年の僅か一年間でオートクチュールハウスが39から17に激減し、1968年にクリストバル・バレンシアガが「着せる相手がもういない」としてジョルジュ・サンク通りのメゾンを閉店した、そんなオートクチュールから既製服へとファッション・デザイナーたちがシフトチェンジしていく流れを決定的なものにしました。

ちなみに『スキャンダル・コレクション』が開催される数日前にガブリエル・シャネルは逝去していました。

スポンサーリンク

今こそ強く望まれる、ツヨい女の香り

1984年 ©YSL Beauté

1988年 ©YSL Beauté

1992年 ©YSL Beauté

トム・フォードによりリニューアルされた時の広告。カレン・エルソン、2003年 ©YSL Beauté

この香りの素晴らしさとファンタジーについて説明するに相応しい物語をここに記します。

シャーベットのようなピーチとベルガモットが吹き鳴らすファンファーレと共に、美しく咲き誇るレッドローズが、ジフェニルエーテルという呪文により精巧なメタルローズに変えられてしまいました。

そこにグリーンパウダリーなアイリスとベチバーの風と共に魔法使いイヴが現れ、強烈なビンタのようなアルデハイドを中心にイランイラン、フリージア、ペラルゴニウム、そしてシベットとムスク、更にクリーミーなサンダルウッドという呪文を駆使し、モダンでエアリーなグリーン漂う空気に包まれたレッドローズを蘇らせていく香りそれが「リヴ ゴーシュ」なのです。

最初から最後まで円やかさや、温かみや、柔らかさとは一切無縁な、彫刻のように美しい女のクールビューティーな香り。でありながら、最後にあなたの肌の上で、氷のように微笑んで夢中にさせてくれる、矛盾を孕んだパリジャン・シックの香りです。特にダークなオークモスに前人未到の輝きを与えてゆきます。

だからこそ、この香りは、まるで思いもよらぬ憧れの人から花束を投げつけられたような、あなたの体内に潜むレッドローズを蘇らせる香りでもあるのです。〝最も美しく咲き誇る季節を迎えた女性の香り〟=グリーン・ソーピィーな泡の中に潜むレッドローズの香りです。

2003年に、トム・フォードの指揮のもと、ダニエラ・アンドリエジャック・ハイ(マイケルの息子)により、アルデハイドを弱め、ウッディとアロマティックが強化された香りに再調香されました。

当時も今もかなり斬新な、シルバーとコバルトブルーのストライプ柄の総アルミニウムで作られたボトル・デザインはピエール・ディナンによるものです。アンディ・ウォーホルの『キャンベルのスープ缶』(1962)からインスピレーションを得ています。

パコ・ラバンヌの「カランドル」やカルヴェンの「マ グリフ」とよく比較される香りです。

スポンサーリンク

これほど凛とした女性に似合う香りはなかなかありません。

アンジー・エヴァーハート、1990年 ©YSL Beauté

1971年 ©YSL Beauté

1984年 ©YSL Beauté


ジェイ・デヴィッドソンのアンドロギュヌス的な魅力が炸裂したニール・ジョーダン監督の『クライング・ゲーム』(1992)の中で、IRAの女性テロリストを演じたミランダ・リチャードソンの鏡台の前に置かれていました。凛とした女性に似合うフレグランスです。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「リヴ ゴーシュ」を「ローズの手本」と呼び、「これは史上最高のフローラル・アルデハイディックかもしれない」「昔のリヴ ゴーシュは、シトラス、ローズ、グリーンのノート間で保たれているバランスに対比して、暗く、樹脂質のバックボーンがあり、とてもよかった」

「古いほう(だいたい1980年もの)のリヴ ゴーシュはトップが強いタール質で、構成全体に、暗くドラマチックなトーンを与えている。ハートはどちらもたいへんよく似ており、エドモン・ルドニツカが「フォーム」と呼ぶ部分は変わりない。新しいリヴ ゴーシュはもっと軽く、もっと輝きがあり、そしてフルーティな感じが強い」

「古いほうのリヴ ゴーシュはハートに一風変わった、プラスチックのようなオフノートがあるが、新しいほうにはない。その後はドライダウンまでどちらもずっと平行線をたどり、私の見解だと新しいほうが一定のレベルを保ち安定している」「香り全体の効果を評価するならば、古いほうのリヴ ゴーシュがもっと薬効のある感じで、新しいほうは食用っぽい感じだと思う。どちらもすばらしい」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

スポンサーリンク

香水データ

香水名:リヴゴーシュ
原名:Rive Gauche
種類:オード・トワレ
ブランド:イヴ・サンローラン
調香師:ジャック・ポルジュ、ミシェル・ハイ
発表年:1971年
対象性別:女性
価格:100ml/12,800円


トップノート:アルデハイド、ハニーサックル、ピーチ、ベルガモット、レモン
ミドルノート:マグノリア、アイリス、ガーデニア、ジャスミン、イランイラン、スズラン、ローズ、ゼラニウム
ラストノート:サンダルウッド、トンカビーン、アンバー、タヒチ産ベチバー、ムスク、オークモス