パッション
原名:Passion
種類:オード・パルファム
ブランド:グタール
調香師:アニック・グタール
発表年:1983年
対象性別:女性
価格:不明
アニック・グタール自身の情熱に光を与えた香り
1981年の「オーダドリアン」の成功により、アニック・グタール(1946-1999)は、同年ベルシャス通りに一号店をオープンしました。そんな彼女が1983年に調香したのが「パッション」でした。
まだイザベル・ドワイヤン(1982年にイジプカ卒)と共同制作する前夜のアニック・グタールが、二年目を迎える自分のブランドに対する「情熱=全身全霊を傾ける」をかたちにした香りです。
つまり彼女は、自分に光を与える香りを生み出すことにより、自ずと自分が進むべき道を見つけた、そんなアニック・グタールの記念碑のような香りなのです。
初めて自分のために作ったこの香りは、そんな彼女の冒険を応援してくれる最愛の夫アラン・ムニエ(有名なチェリスト)のために生み出された香りでもありました(「サーブル」も同じく)。
海岸で成熟した二人が恋をする物語
甘さを持たぬトマトリーフのビターな鋭いグリーン(まるでガルバナムのような)が、あこがれを燃え上がらせて、チューベローズの情熱的なクリーミーな甘さと遭遇し、恋に落ちるところからこの香りははじまります。
グリーンとフローラルの情熱的な恋の物語。それはお互いの違う側面を引き立て、時に、反発しあう〝海岸で若い二人が恋をする物語〟なのです。
すぐにそんな情熱的な恋を盛り上げる伴奏のように、ジャスミンとイランイランがさんざめきます。さらにそんな熱情を燃焼させる程に甘いバニラが注ぎ込まれてゆきます。
この香りの本当に面白いところ、それは、(ひんやりとシャープな)カンファーが運命の鐘を鳴らした瞬間から、チューベローズから(黄金の輝きに包まれたバナナやココナッツのような)イランイランに最愛の人の対象が移り変わってゆくところにあります。
アニックもアランも再婚同士であり、お互いに前の配偶者との間に子を授かっています(シャルロットとカミーユ)。そんな経緯を感じさせるようにこの香りは〝海岸で成熟した二人が恋をする物語〟へと移行してゆくのです。
トマトリーフは、最初から最後まで枯れることのない愛を叫び、やがて、オークモスとパチョリに導かれ、グリーンフローラルシプレという愛を囁く術=〝内なる情熱〟を覚えてゆきます。
この香りは、「パッション=情熱」という言葉をまだ信じることが出来る洗練された大人たちに捧げられた香りです。
ダイアナ元妃が愛した香り
ちなみにダイアナ元妃がディオールの「ディオリシモ」と共に愛した二つの香りのうちのひとつです(そして、マドンナも溺愛している香り)。セルジュ・ルタンスの「テュベルーズクリミネル」とよく比較される香りです。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「パッション」を「カンファー・イラン」と呼び、「慎みのあるホワイトフローラルは愛らしく、きれいに洗濯して糊づけされた、ドイツスズランといったところ…対照的に、トロピカルな部分は心をかき乱し、肉の塊、ミルク、ゴム、そしてカンファーがすべて混ざったような香りを放つ、強烈な夜咲きの生き物。ちょうど、からだに毛がもじゃもじゃ生えている巨大な蛾を思い浮かべる。」
「パッションは、もっともふしぎな夜咲きの花のひとつ。イランイランのバナナジャムの香り、鼻腔につららを垂らしそうなほど、ひやりとするカンファーとウィンターグリーンを組み合わせたアコード、そしてそのすべてをバターで包み込んでしまいそうな、重たいラクトンのノート。ムシムシとしてやる気がおきない、落ち着かない感じは、月明かりも風もない7月の夜のよう。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:パッション
原名:Passion
種類:オード・パルファム
ブランド:グタール
調香師:アニック・グタール
発表年:1983年
対象性別:女性
価格:不明
トップノート:チューベローズ、トマトリーフ
ミドルノート:イランイラン、ジャスミン、バニラ
ラストノート:オークモス、パチョリ