ウード アルザン|ウードを素肌の香りにする〝スキン・ラグジュアリー〟フレグランス

エルメス
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ウード アルザン

原名:Oud Alezan
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2024年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/47,520円
公式ホームページ:エルメス

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ウードという荒馬を、素肌で乗りこなしていくように…

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クリスティーヌ・ナジェルとアルザンの毛並みを持つ馬が一体化しているビジュアル・イメージが面白い。©Hermès

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(2014年から)エルメスで数年働いている間に、エルメスには至る所に馬がいることを知りました。さらに言うと、周りのエルメスの人たちも毎日馬の話ばかりで、馬がエルメスの最初のお客様だっただけあるなと日々感じていました。そしてある日、ふと気づきました。私は馬に恐怖心を感じていて、馬に対して無関心だけど、もっと馬に近づいて、実際に生活してみるべきだと。

クリスティーヌ・ナジェル

地中海の庭」の成功により、2004年にジャン=クロード・エレナエルメスの初代専属調香師に就任することになりました。そして、≪嗅覚の詩≫とも言える究極のフレグランス・コレクション『エルメッセンス』が誕生しました。

2016年にエルメスの専属調香師の地位を引き継いだクリスティーヌ・ナジェルは、2018年6月に一挙に4つの素材(ミルラ、ムスク、アガーウッド、シダー)による5作品の〝クリスティーヌのエルメッセンス〟を発表しました。

そして、2022年11月2日に4年ぶりに新作のエルメッセンス「ヴィオレット ヴォリンカ」を発表し、さらに2024年3月6日に、ローズウォーターに酔いしれるウードの香り「ウード アルザン」を発表することになりました。「アルザン」とは馬の栗毛色を表す用語です。

元々は、クリスティーヌが商品化されるとは思っていなかった自分のために作った香りですが、この香りの試作品を付けてミーティングに出席した時、アーティスティック・ディレクターのピエール=アレクシィ・デュマとパルファム・ビューティ部門のCEOであるアニエス・ドゥ・ヴィリエ、メンズ・ユニバースのアーティスティック・ディレクターのヴェロニク・ニシャニアンのミーティングの出席者全員が、この香りに魅了され、彼女の首筋に鼻を近づけました。

そして微調整をした上で商品化することにその場で決定したのでした。

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ウードを拒絶し続けた先代調香師ジャン=クロード・エレナ

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ウードを香水の中に入れるのは、エルメス的ではありません。それはお金を追う人たちがするマーケティング戦略なのです。

ジャン=クロード・エレナ、2015年(British GQにて)

ジャン=クロード・エレナは在任中「私はエルメスでは絶対にウード・フレグランスを作らないだろう」と言っていました。そんな彼の言葉から3年も経たないうちに、二代目専属調香師となったクリスティーヌ・ナジェルはその禁断の扉を開けました。「アガール エベンヌ」(2018年)の誕生です。

この香りは、1951年より始まるエルメスの香水史上初のウード・フレグランスでした。しかも、それはただのウードではない、ナジェルの冒険心と流行に左右されない断固としたエルメスのエスプリから生まれた〝奇跡のウード〟でした。

ウードとは香木の一種です。木や葉には香りが無く、木が傷つき、内部に菌が侵入してきた際に、自分を守るために分泌する樹液を、乾燥させ熱することで独特の芳香を放ちます。

この元になる木(アガーウッド)は、大人の木になるまで約20年、樹液ができるまで50年、高品質のものになるまでに100~150年かかります。そして、ワインのように、樹齢が古ければ古いほど高濃度の樹脂を持ち、その樹脂が古ければ古いほど良質なものとされています。

そのためウードは、かなり貴重なものであり、価格も桁違いな香料です。逆に、あまりに高価なため、合成香料で代替されやすい香料でもあります。

このウードが再び登場することになりました。今度は、エルメスの精神の中心に存在する〝馬〟と〝エレガントな人肌〟を結び付ける役割を担うことになるのでした。

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ローズ×ウードの組み合わせの新しいカタチ

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すべての馬から拒絶された後、突然、一頭の馬が頭を突き出して私の顔に押し付けてきたのです。私はごく自然にアルザン(栗色)の毛並みを持つこの馬の首の匂いを嗅ぐくらいに近づきました。それが私の中で大きな感情を引き起こしました。そして強い感情とともに、いつかこれが創作の出発点になるだろうと心の中で思いました。

クリスティーヌ・ナジェル

すべては、数年前、クリスティーヌ・ナジェルが「ソー・エルメス」を観覧したことからはじまりました。「ソー・エルメス」とは、エルメスが2009年より毎年春に三日間、グラン・バレで開催している国際馬術大会です(2020年と2021年の大会はパンデミックにより中止された)。ちなみに「ソー=saut」は、フランス語で「跳躍」「ジャンプ」を意味します。

アルザンカラーのバーキン

実はクリスティーヌは、子供の頃からバレエとピアノを習っていたのですが、乗馬とは無縁でした。そのため彼女にとって馬は、とても大きく、力強く、遠い存在に思え、恐怖心を持ってしまいました。そしてずっと馬には近づかないようにしていました。そんな彼女がエルメスで働いているからには馬に対する恐怖を克服したいと考え、大会前の厩舎に入ることを希望し、特別に許可されました。

しかし100頭以上の馬が、彼女が世界一の馬好きではないことを察したのか、彼女から遠ざかってゆきました。暫くすると、ただ一頭だけ例外でした。ウォーミングアップを終えたばかりの牝馬が近づいてきました。

うっとりするような美しい栗毛を持つシェヘラザードという名のその馬が、頭を彼女の頬に付けてきました。一瞬固まった後、馬の息づかいと温かい毛並みを感じ、一気に馬に対する恐怖心が消し飛んだのでした。そしてそのおがくずの香りと混ざり合うベルベットのようなぬくもりのある動物の匂いに心が奪われました。

シェヘラザードと再度会い、その最後の出会いからさらに2年を経て、クリスティーナは自分の構想を実現するための適切な素材に出会うことになりました。それはバングラデシュ産の極上のウードでした。彼女が嗅いできた中で、もっとも高価なウードでした。

調香師として、私は数多くのウードを嗅いできましたが、これほど深く心を打たれたウードは初めてです。ましてや、あの馬と過ごした時と全く同じ感情の力を感じさせてくれるウードは初めてです。

クリスティーヌ・ナジェル

ローズとウードの組み合わせは、ウード・フレグランスにおいてはもはや鉄板なのですが、エルメスのウードは、どちらかというとダークになりがちなウードの世界に、光に包み込まれる神秘的なエレガンスという新しい観点を与えています。それはまさに、ウードの力強い魅力とローズの柔らかな躍動感を融合させ、あの日にクリスティーヌが遭遇したシェヘラザードとの力強くも親密な奇跡の瞬間を捉えています。

ちなみに「我々の最初のお客様は馬だった (Our first customer was a Horse)」というメゾンの精神を示す最初の顧客は、アルザン(栗毛)の馬でした。

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ウードを素肌の香りにする〝スキン・ラグジュアリー〟フレグランス

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通常、ローズをウードと合わせるには、濃縮されたローズアブソリュートと組み合わせて、ローズの香りがウードと同じくらい力強くなるようにします。でも今回は少し違うことをしたかったのです。

非常に軽いローズウォーターを使うことにより、ローズとウードの間に〝永遠のダンス〟が生まれるのです。さらに何か違うものを取り入れたいと思いました。そこで合成分子であるローズオキシドも使うことにしました。ローズオキシドはレーザーのようなもので、クリーンでありながら非常にシャープなので、香水が柔らかすぎたり、深みがなくなるのを防いでくれます。

クリスティーヌ・ナジェル

バングラデシュ産ウードに、ローズウォーターが注ぎ込まれ、素肌の上にフレッシュな薔薇の花が咲きます。甘やかなローズがどこかトム・フォードの「ウード ウッド」とメゾン・フランシス・クルジャンの「ウード」を感じさせます。

ウードがすべてを焼き尽くすのではなく、ローズウォーターは流れる小川の傍にあるローズガーデンに、仄かにウードの匂いを漂わせながら、手入れの行き届いた栗毛色の馬が足を踏み入れるような、ジャミーなローズに頬ずりする、潤いのあるウードの穏やかさが、最終的にはクリーミーな余韻となり広がってゆきます。

(ライチ、ゼラニウム、そしてクールなミネラル感を思わせる)新緑のニュアンスのあるローズオキシドのマシーンのような金属音のきしみが、澄み渡るフルーティーなローズウォーターと、ふんわりと温みのあるファーのような不思議なウード(インスタントコーヒーの香りではなくコーヒー豆を挽いた時の香りのように)と溶け合います。そして人造人間に心が宿るように、うっとりするような酔わせるフルーティーローズ×レザーの温かみを生み出してゆくのです。

まるでアルザンカラーのバーキンが、それを持つ女性の腕と一体化し、優美でエアリーな究極のエレガンスを演出してくれるように、身にまとう人の生身の肉体と一体化し、同じ効果を生み出してくれる香りです。

店頭でムエットで香るよりも、エルメスのアイテムを購入した後に、高鳴る心と一緒に体感して欲しい香りです。エルメスのアイテムを、さらに格上げしてくれる〝見えないエレガンス〟を演出してくれる〝馬に乗り、優雅に移動する〟そんな感覚で満たしてくれる〝スキン・ラグジュアリー〟フレグランスです。

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作品データ

香水名:ウード アルザン
原名:Oud Alezan
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2024年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/47,520円
公式ホームページ:エルメス


シングルノート:ローズオキシド、ローズウォーター、ウード