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【レジーム デ フルール】ラバ(ドミニク・ロピオン)

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ラバ

原名:Là-Bas
種類:オード・パルファム
ブランド:レジーム・デ・フルール
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:2021年
対象性別:男性
価格:75ml/47,300円
販売代理店ホームページ:NOSE SHOP

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アリア・ラザが2014年に創立した、レジーム・デ・フルールとは?

©Regime des Fleurs

©Regime des Fleurs

レジーム・デ・フルールのすべての香りに共通している点は、サプライズという要素です。私はいつも、今まで嗅いだことのない香りを作ろうとしています。過去に愛用し、身につけていた香水、日常の物の香り、人生で出会う新しい香りを取り上げ、それらを微調整し、リミックスし、変化させます。

休暇や思い出など、現実または文字通りの何かを捉えようとしているわけではありません。香りは記憶に関するものだという陳腐なナンセンスは嫌いです。私の作品は思い出や郷愁に関するものではなく、絵葉書でもありません。

アリア・ラザ

アリア・ラザとエズラ・ウッズによって、2014年にアメリカ・ロサンゼルスで創業されたレジーム・デ・フルールは、フランス語で〝花の統治〟と名付けられたニッチ・フレグランス・ブランドです。そこには、人間ではなく、自然が統治する世界を想像して香りを生み出していくという思いが込められています。

ブランドのクリエイティブ・ディレクターもつとめるアリアは、元々はニューヨークでビジュアル・アーティストとして、〝毒々しい夜にだけ咲き誇る花〟というアイデアからインスパイアされた一連のアートビデオを作り、一定の評価を得ていました。

しかし、自身もインタビューで答えているように、映画監督になりたかったが、好きな分野で生計を立てていくのは大変なため、元々、香水と花に魅せられていたこともあったので、ニッチ・フレグランスの会社を設立しました。ちなみに日本に初上陸したのは、2017年9月にエストネーションからでした。

2019年にはクロエ・セヴィニーとコラボしたフレグランスを誕生させ話題になりました。そして、勢いに乗って、2021年に、アリアが〝フレグランスのマーティン・スコセッシ〟と呼ぶ、ドミニク・ロピオンの協力により調香された二つ目の香り「ラバ」が発売されました。〝Là-Bas〟とは、フランス語で〝Over There〟の意味です。

このメンズ・フレグランスが発売されるきっかけは、7年前にアリアが、ニューヨークを拠点に活動するフランス人作家兼スタイリストのクリストファー・ニケとラデュレでマカロンを一緒に食べたことからでした。

ニケは、10代の頃に、パリでセルジュ・ルタンスのパレ・ロワイヤルのブティックを偶然見つけて以来、革新的な数々の香りに魅了されていました。

そして、2019年にクロエ・セヴィニーとのフレグランスを誕生させたアリアは、この香りを手に、ニケに、ブランド初のメンズ・フレグランスを一緒に創造しないかと持ち掛けたのでした。

当初は一つの香りを作る予定だったのですが、5つのコレクションへと進化し、「ラバ」はそのうちの二つ目の香りとして誕生しました。

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ユイスマンスの小説『Là-Bas(彼方)』とジル・ド・レ

ジル・ド・レ

ジョリス=カルル・ユイスマンス(1848-1907)の1891年の長編小説『Là-Bas(彼方)』からその名がとられています。それにしてもこの『彼方』という小説、1975年に発売された創元推理文庫の裏表紙に記されているあらすじを読むだけでこの小説が悪魔崇拝の小説であることを理解させてくれます。

十五世紀のフランス悪魔主義の帝王ジル・ド・レ元帥。彼が城内でもてあそび虐殺した小児の数は八百人を下らないという。死体美の品評会。屍骸を詰めた大樽。そして四百年後の今、元帥の一代記を執筆する作家の見た戦慄に満ちた背徳の世界。世紀末フランス耽美派の雄ユイスマンスがオカルティズムの世界を自然主義的手法で描いた奇書!

1974年に発売された桃源社の『彼方 悪魔と神秘の人工地獄』の帯に描かれているあらすじも素晴らしい。

十五世紀フランスの伝説的怪人物ジル・ド・レを描かんと苦心する主人公は、未だ絶えぬ中世の魔女の血に導かれて、悪魔と神秘の妖霧たちこめる黒ミサの儀式へ・・・『さかしま』によって人工天国の建設したユイスマンスは『彼方』において人工地獄を組立てようとした。中世期オキュルティスムの”彼方”にわけ入り、異端の精神を探る心霊的自然主義の代表作。

青ひげのモデルとも言われるジル・ド・レ(1405?-1440)は、オルレアン包囲戦でジャンヌダルクと共に戦った勇猛果敢なフランスの国家的英雄でした。

元々はフランス王シャルル7世に仕え、ジャンヌに協力したが、彼女が1431年に火炙りにされてからは、精神に異常をきたし、黒魔術に嵌まり込み、居城に閉じこもり、八百人を下らないともいわれる幼い少年たちを拉致し、凌辱の限りを尽くし虐殺しました。最終的に、1440年10月26日に絞首刑になり死体が火刑になりました。

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悪魔を呼ぶ小説『Là-Bas(彼方)』について

ヘンルーダ、ヒヨスとチョウセンアサガオの葉、乾燥したベラドンナとギンバイカ、これらはすべて、私たちの主であるサタンが喜ぶ香りです。『彼方』より

『彼方』の主人公デュルタイは、現代世界の空虚さと俗悪さにうんざりしており、彼は中世の題材を研究することでそこから逃れようとし、〝快楽よりも苦痛と涙と恐怖と血とを享楽する〟元帥ジル・ド・レを描こうと決意するのでした。そして悪魔主義を研究をし、ついに不倫の関係に浸るシャントルーヴ夫人の導きにより、黒ミサの儀式に参加することになります。

ありとあらゆる神への冒涜と背徳の限りを尽くし、善悪の彼岸を超え、肉を叱責み、快楽と苦痛の間を這いずり回り、遂には、理性を失い、獣のように吠える、悪魔に打ち滅ぼされる狂喜に包まれる黒ミサの性宴を見て、うっとりとする夫人を横目に見たデュルタイは、背筋が凍るのでした。

そして、普段は理性的な夫人が、悪魔に憑かれたように、艶やかにデュタイに自分を欲するように仕向けるのですが、それを振り切り、逃げるのでした。

この小説の名を借り、生み出されたこの香りは、クリストファー・ニケが幼少期を過ごした家のすぐ近くにある、パリ6区のサン=シュルピス教会が、当時ニケが住んでいたニューヨーク市のマディソン・アベニューに根こそぎ移送されたらどうなるでしょうか?という興味津々の前提から始まりました。

紳士クラブのウッドパネルの壁や、ヴァンドーム広場にあるシャツメーカー、シャルベ、ミンクの裏地が付いたジャケット、エタ・ジェイムズの素朴なコントラルトまで、豊富な参考資料を武器に、ドライでスパイシーなメンズ・フレグランスを誕生させたのでした。

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『人工地獄』を我が身に振りかける、魔界への招待状

『聖アントニウスの誘惑』フェリシアン・ロップス、1878年。

©Regime des Fleurs

私はいつも、人々が好きになるか嫌いになるかのどちらかになるような、ニッチで非常に特殊な香りに興味がありました。

クリストファー・ニケ

輝く赤い毒林檎と黄金の洋ナシの甘いフルーティーさに、酸っぱく弾けるレモンとローズマリーとオークモスが溶け合い、シュワっと発泡していく独特なフレッシュなスモーキースパイシーさから『ユイスマンスの人工地獄』の香りははじまります。

すぐに退廃的なゴシックローズが到来し、ドライフルーティーなローズとスズランの魔性の煌めきで包み込んでくれます。そこに、艶やかでしなやかなレザーと、とぐろを巻く大蛇のように滑らかなパチョリの香りが重なり合うように広がってゆくのです。

悪魔に憑かれたような腐敗臭と、悪魔から逃げおおせた瞬間の安らぎの匂いがひとまとめになっているような不思議な心地よさがあります。しかし、何よりもこの香りが魅力的なのは、一度、悪魔的な誘いを受けてしまうと、江戸川乱歩的な耽美的な世界に溺れたくてしょうがなくなるものなのです。

最後に、しっかりと悪魔、わが部屋へ、訪ね来たるのです。長い一本鞭で虐められた肉体に、柔らかく蜜を満たしたバラの花びらを振りかけ、治癒させながら、もっともっと痛い鞭が欲しくなるように、滑らかに洗練された革の香りを肉体に刻み付けていくようです。

過去のための香りではなく、未来を支配する官能の喜びを湧きあがらせる『人工地獄』を我が身に振りかける、魔界への招待状と言って良い、ドミニク・ロピオンが、悪魔に魂を売り、作り出したかのような、天才的なまでに、モラルが崩壊した悪徳の香りです。

つまりは、どこにいても、ここではないどこか別の場所に行きたいと思うような、不思議な感覚で満たされる香りなのです。

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香水データ

香水名:ラバ
原名:Là-Bas
種類:オード・パルファム
ブランド:レジーム・デ・フルール
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:2021年
対象性別:男性
価格:75ml/47,300円
販売代理店ホームページ:NOSE SHOP


シングルノート:パチョリ、オークモス、レザー、ブルガリアン・ローズ、ターキッシュ・ローズ、カストリウム