イリス
原名:Hiris
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:オリヴィア・ジャコベッティ
発表年:1999年
対象性別:女性
価格:100ml/23,320円
公式ホームページ:エルメス
オリヴィア・ジャコベッティ初登場
1998年という年は、エルメスにとって『ファッション革命』のはじまりの一年でした。すべては1997年4月に世界中を驚かせることになるひとつの発表からはじまりました。それは、マルタン・マルジェラをクリエイティブ・ディレクターに迎えるという発表でした。
そのことは、グッチのトム・フォード、ディオールのジョン・ガリアーノ、ジバンシィのアレキサンダー・マックイーンといった(今も続く)当時のファッション・ブランドがスーパースター・デザイナーに依存するというブランド戦略に対する、エルメスの第五代社長ジャン=ルイ・デュマなりの回答だったのでした。
エルメスは、作り手のネームバリューではなく、サヴォアフェールを求めているのです。そして、翌年、1998-99年秋冬コレクションにおいて、さりげなくモデルとしてランウェイを歩いたマギー・チャンと共に、マルジェラ期エルメスはスタートしたのでした。
一方、この時期、ジャン=ルイ・デュマは、香水の分野においても、21世紀のエルメスに相応しいサヴォワフェールを求めていました。そして、起用されたのが、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったオリヴィア・ジャコベッティでした。エルメスは、彼女に、20世紀最後の香りの創造を依頼したのでした。
〝虹の女神〟イリス
ギリシャ神話の〝虹の女神〟イリス。ホメロスの『イーリアス』でも活躍していたイリスは、神々の言葉を人類に伝える使者であり、風のような速さで世界の端から端まで、海の底や冥界まで旅をする有翼の女神です(ちなみにホメロスの『オデュッセイア』で使者を務めたのがヘルメスでした)。
このイリスこそが、アイリス(あやめ)の語源なのです。1999年にオリヴィア・ジャコベッティが生み出した「イリス」は、神々の言葉を私たちの肌に伝える〝清らかなアイリスの香り〟なのです。
それは静かな恋の入り口のような〝エルメスの花〟の香り
エルメスの花を咲かせます…と静かに宣言するこの香りは、コリアンダーとカーネーションのスパイスの中を駆け抜けるアルデハイドが静かなる嵐を起こし、アイリスを根こそぎ引き抜き、天空に舞い躍らせる情景からはじまります。
静かにネロリとローズが加わり、アイリスが虹のように七色に広がってゆきます。とても冷たくアーシィーかつグリーンな(キャロットシードのような)アイリス。でも甘い口紅やフェイスパウダーのコスメティックノートは微塵も存在しません。
やがて、アイリスは地面に着地し、イリスバターのようなうっとりするような滑らかな官能性を、素肌の上に解き放ってゆくのです。そして、バニラとシダー、蜂蜜が温かく円やかな甘い余韻で満たしてくれます。
凛とした一輪咲きのアイリスの花=エルメスの花は、やがて美しく散るのです。それはまるで〝とても静かな恋の入り口のような香り〟です。
静かな情念に満ちた、どこか神秘的な和服美人の香り
『修羅雪姫』の上村一夫が描く、静かな情念に満ちた、どこか神秘的な和服美人の香りでもあります。着物に似合う香りの筆頭です。無表情に香るアイリスでありながら、実はこの上なきほど香り豊かなアイリスの香りと言えます。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「イリス」を「淋しげなアイリス」と呼び、「無香料の柔軟仕上げ剤で洗濯した服を思い出す。悲しいことに、イリスはこの代表作のひとつだ。全体的にそっけなくやつれた様相を加えた根のアイリスノートだ。ひど過ぎる。」と1つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:イリス
原名:Hiris
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:オリヴィア・ジャコベッティ
発表年:1999年
対象性別:女性
価格:100ml/23,320円
公式ホームページ:エルメス
トップノート:コリアンダー、カーネーション、アイリス、アンバー、アルデハイド
ミドルノート:アイリス、ネロリ、ローズ
ラストノート:蜂蜜、バニラ、シダー、アーモンド・ツリー