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グレース・ケリー

『泥棒成金』1|グレース・ケリーとイーディス・ヘッド

グレース・ケリー
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ビーチにモノトーンというすごい発想

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モノトーンを制するもの男性を制す。

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どこかオリエンタル風なサンバイザーです。

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現在の競泳水着のようなシルエットです。

ある日、イーディス・ヘッドはアルフレッド・ヒッチコック監督に呼ばれました。グレース・ケリーの水着についてです。「浜辺にいる男どもの視線が、全部グレースにいくような水着を考えてくれ」というリクエストでした。今なら、露出度の激しいモノをこしらえるのでしょうが、当時はそういう観念は水着にはありませんでした。

水着はまだ下着のような位置づけを与えられていない時代でした。ビキニが認知されるのは、1960年代のことですが、南フランスにおいて、カラフルなビキニがすでに大流行していました。そこにあえてモノトーンを持ってきた所が、イーディスらしくて素敵です。イーディス・ヘッドという人は、「自分はファッション・デザイナーではなく、映画のためのコスチューム・デザイナーです」と言う人でした。そんな流行を作り出そうとする訳ではない、映画を専門とするデザイナーが、現在のファッションの流れに多大な影響を与えているという不思議さがあります。

どうやらファッションが、最先端を目指す時代が、終焉を迎えようとしています。ファッションは、エッジではなく、知性との共存の時代に突入しようとしています。過去のおしゃれな空気を自分なりに捉えて、個性の肉付けをしていく方が、「これってとんがってるでしょ?」なんて言ってるよりも余程クールに見える時代になったのです。原宿の竹下通りやキャット・ストリートを歩きますか?もうそこにはエッジの効いたファッションの迷い猫は存在しません。

エッジの効いたファッションの時代は終わりを告げました。終焉の始まりは、ファストファッションが本格的に到来した2009年からでした。最後のその手のファッションの砦が、黒ギャルファッション&小悪魔アゲハ・ファッションでした(メイド服をはじめとするコスプレ文化は、エッジの効いたファッションとはまた別物です)。ファストファッションの大攻勢の中、109・OPAといった聖地からそのパワーが失われ、終焉を迎えました。

そして、ファスト文化から、洗練の文化へとファッション文化は、その膨大なストックと品質の低下に達しに達した末に、ポールシフトが始まっています。過去のファッションアイコンからテイストを吸収し、自分のファッション戦闘値を高める時代が始まったのです。そうなのです。水着1つを例にとっても、もう露出面積の高いビキニを着る時代ではなくなったのです。なぜならば、セクシーさの先には何もないが、洗練の先には、セクシーさを含める多くのテイストが存在するからなのです。

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ヒッチコックは、グレース・ケリーの魅力を捉えていた

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イーディス・ヘッドのデザイン画。

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50年代当時の高級ホテルでは、まず更衣室にまで行くファッションが存在しました。

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そして、更衣室で、水着に着替えるのです。高級ホテルに厳密なドレスコードが存在した時代でした。

この作品を見ていると、物語の展開の巧みさもさることながら、グレース・ケリーの魅力を十二分に発揮するように撮影に気が配られている点に感動します。グレースは、心からヒッチコックの映像美学を崇拝していたと言われています。そして、ケーリー・グラント(1904-1986)の隣に立てば、女性が3倍は美しく見える、そんな大人の男性の存在によって、この映画の中の神話は生み出されました。

女性を輝かせる男性のファッションは、やはりエレガントなスーツかタキシードであって欲しい。そして、女性にとって、ドレスやスーツであって欲しい。しかし、今の映画の中では、それらの衣装がどうしても場の雰囲気から浮いてしまいがちになります(女優が服に着られているような感覚)。それはただ単に多くの場所からドレスコードが失われ、もはや、そんな服装でその場所を歩く人なんていないと感じられるからなのです。洗練されたファッションの衰退は、ファストファッションによって引き起こされたものではありません。洗練された服装に身を包む場所の喪失から引き起こされたのです。

だから、ファストファッションが売れ、洗練されたラグジュアリー・ファッションは、売れなくなったのです。クリスチャン・ルブタンのハイヒールパンプスを履く場所が今の日本にはそれほど多く存在しません。しかし、もし、人々がその流れを歓迎するならば、昔のファッション・アイコンに興味は持たないはずです。人間は現実の中で、毎日を過ごすことだけでは生きていけません。特に大人にとって、洗練された余暇をすごす空間が、疲労回復と大人の出会いと知性の煌きを与えてくれます。

すこし、大胆な予測なのですが、確信に近いことを言わせていただくと、2016年から2020年にかけて、日本において、ドレスコードが存在する大人の社交場が多く誕生することになると思います(恐らく百貨店やファッションビル、ある区画において)。ファッション業界が洗練の季節を迎えるにあたって、切り離せないのが、オシャレが楽しめる場所の拡大なのです。端的に言うならば、スニーカーで楽なファッションに身を包む人の隣に、ハイヒールのパンプスでフォーマルなファッションに身を包むことは、すごくバカバカしいということなのです。

グレース・ケリー・ルック4 モノトーンリゾート・ルック
  • ホースヘアの白のキャプリーヌ。フライング・ナンハット。ブラック・ターバン。サンバイザーのように頭頂部がない
  • 黒のホルターネック・レオタード型水着に、白のレース形腰巻き。引き締める紐あり
  • 黒のウェッジソールサンダル
  • 白のビーチバッグ

着替えると、 黒ターバンに白縁のサングラスにVゾーンの黒ワンピース水着になります。