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アニック・グタール

【グタール】ス ソワール ウ ジャメ(アニック・グタール/イザベル・ドワイヤン)

アニック・グタール
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ス ソワール ウ ジャメ

原名:Ce Soir Ou Jamais
種類:オード・パルファム
ブランド:グタール
調香師:アニック・グタール、イザベル・ドワイヤン
発表年:1999年
対象性別:女性
価格:100ml/33,330
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム

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〝今宵限り〟それはアニック・グタールの白鳥の歌。

©Goutal Paris

1999年に53歳で癌で亡くなったアニック・グタール(1946-1999)自身が、イザベル・ドワイヤンと共に調香した最後のフレグランス<遺作>であり白鳥の歌。それが「ス ソワール ウ ジャメ」=〝今宵限り、今宵こそは(Tonight Or Never)〟です。

ピアニストでありファッション・モデルだったアニック・グタールが、一念発起し、グラースで7年間フレグランスのトレーニングを受け、『アニック・グタール』を創業したのは1981年のことでした。

そして、すぐにアニックは二人の娘のための香りを作りました。一つは(1980年に)再婚した夫の連れ子シャルロットのために1982年に作った「オー ド シャルロット」。もうひとつは、自身の元夫との間の娘カミーユ(1975-)のために、彼女のリクエストに応えて1983年に作った〝家庭菜園のような香り〟「オードカミーユ」でした。

30才のとき(1976年)、乳癌になったアニックは、回復するも、1988年に乳癌を再発し、以後12年間癌と戦うことになるのでした。

「ス ソワール ウ ジャメ」の構想は、1984年にまで遡ります。アニックが教会の庭を歩いていたある晴れた日の朝、あらゆる種類のローズの香りを嗅ぎ比べするほどローズに夢中だった彼女は、ふとその庭で嗅いだローズに一瞬で魅了されたのでした。そして、彼女はこの香りこそが、自分の念願であるパーフェクト・ローズの香りに相応しいと考えたのでした。

15年の時が過ぎ、一代にして偉大なるフレグランス・メゾンを築き上げた彼女が、闘病生活の末に、余命いくばくもないことを知らされ、死を覚悟した果てに、走馬灯のように浮かんだのが、教会の庭のローズの香りに感動したあの初心の日だったのです。

そして、彼女は最後の力を振り絞ることにしたのでした。「なるほど!私は、これを作るために生まれてきたのだ!」という決意と共に。

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この薔薇だけは永遠に枯れない薔薇なのです。

30歳のときのアニック・グタールと娘のカミーユ。

©Goutal Paris

「ス ソワール ウ ジャメ」を作るために私の母は15年の歳月を費やしました。それは薔薇の香りなのですが、ほとんどの男性が夢中になってしまう点が非常に興味深いです。薔薇のような匂いでありながら、とてもシックで繊細なのです。それでいていざ身に纏ってしまうと、もうとんでもなくセクシーでミステリアスな薔薇の香りになるのです。

母が15年もかけたのは、彼女にとっての〝パーフェクト・ローズ〟を生み出したかったからでした。

カミーユ・グタール

既に死を覚悟していた女性調香師が生み出した香りの名は、「ス ソワール ウ ジャメ」=今宵限り。それは、一瞬でスパークリングして消えてゆく儚きシャンパンのようなホワイトローズの最後の一滴の香りです。

酸味の効いたワインのような(それはラズベリーのようでもある)ローズが生みだす華やかさと渋さの対比、さらに可愛らしくて、どこか甘やかされた透き通るようなアンブレットシード(ムスキーでアンバリーな洋梨の香り)が、相反する魅力をキラキラと弾けさせながら、巴里・薔薇・緑・果実・薔薇・朝露・教会の鐘の音・巴里を感じさせるこの香りははじまります。

どこまでもフレッシュなこのハニーローズは、シトラールとアルデハイドにより、トルコ産ダマスクローズの華やかで甘くピリっとスパイシーな妖艶な側面を際立たせてゆきます。

まさにこの世のものとは思えぬ美しい香りを放つ〝ローズの最後の輝き〟が、スパイシーさと甘く酔わせるようなエレガンスな身のこなしで、ずっとずっとみずみずしく肌の上に広がってゆくのです。そんな美しいローズの旋律に合わせるように、アイリスとヴァイオレットが仄かな気品を寄り添わせてゆきます。

やがて、円やかな洋梨の煌きに覆われたアンブレットシードに、スモーキーなベチバーと官能的なクミンが渾然一体となり、消えてゆくその瞬間まで、このローズはみずみずしさを失わず煌き続けるのです。

160種類もの香料により生み出されたにも関わらず、ただシンプルに、庭に咲くローズのみずみずしさを、女性の肌の上でいかに再現していくかだけを追及した香りです。だからこそ、この香りは、今はこの世にいないアニック・グタールが私たちに語りかけるように香るのです。そうこの薔薇だけは永遠に枯れない薔薇なのです。

そして、何よりも、身に纏う人たちの心に、愛を呼び覚ますローズなのです。ちなみにアニックのこの最後の香りのフォーミュラには、決して明かされることのない〝秘密〟が存在していると言われています。その〝秘密〟を知るのは、娘のカミーユと盟友のイザベルのみです。

タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「ス ソワール ウ ジャメ」を「洋梨 ローズ」と呼び、「絶対だめ。永遠志向のこの香水は、ヴァイオレットと、「プチシェリー」から引用した風変わりな梨の香調をもってしても、一晩中置き去りにされたグラスの白ワインにとてもよく似た匂いがする。」と2つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:ス ソワール ウ ジャメ
原名:Ce Soir Ou Jamais
種類:オード・パルファム
ブランド:グタール
調香師:アニック・グタール、イザベル・ドワイヤン
発表年:1999年
対象性別:女性
価格:100ml/33,330
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム


シングルノート:ハイビスカス、ターキッシュローズ、アンバー、アンブレット(ムスクシード)