映画の成功は、サブリナの変身にかかっていた
ものがたりの序盤に、「月に手を伸ばしちゃいけないよ」と父親にたしなめられながらも、社交界のプリンスに憧れる、美少女サブリナ。オードリー・ヘプバーンが、ダイヤモンドの原石のような、まだ洗練されていない生娘を、どのように演じるかがこの作品の成功のカギでした。そのために重要なポイントは、ヘアスタイルとメイクアップ、そして、何よりも衣裳でした。
サブリナがパリから帰国した時の変身に説得力を生み出すためには、美少女でありながら、男性の歓心を買わない程度に子供っぽく垢抜けない感じでなければなりません。
そこでデザイナーのイーディス・ヘッドは、オードリーの細いウエストラインの美しさと、平たい胸が生み出す少女の雰囲気をフルに生かすジャンパースカートをデザインすることにしました。
サブリナのファッション1
ジャンパースカート
- デザイナー:イーディス・ヘッド
- 黒のロングスリーブのカットソー。ボートネック
- ポニーテールに小花柄のジャンパースカート。ラウンドネック
- 裸足、もしくはバレエシューズ
裸足で走り回る美少女からはじまる
『麗しのサブリナ』は、〝ファッションの宝箱〟です。最初から目が離せません。まず最初に登場するオードリー・スタイルは、ジバンシィの服をサブリナが着てパリから戻ってくる前の「パリ前夜スタイル」と呼ばれるこのジャンパースカート・ルックです。
それは純真な美少女らしさが好まれる日本において、特にタイムレスかつ実用的な魅力に満ちています。撮影時24歳だったオードリーを美少女に仕立てるために、ヘアスタイルはぱっつんのポニーテイルにしています。ただしメイクアップ自体は、ファンデーションの種類以外はほとんど変えていないのがポイントです。だからよく見ると、この時からすでに信じられないほど美しいのです。
ビリー・ワイルダー監督の恐ろしいところは、醜いアヒルの子ではなく、美少女が中高年の男性の手により、いかにして洗練された美女になるかというものがたりを作り出したところにあります。パリとは、若者の都ではなく、洗練された大人の都なのです。
さて話を戻しましょう。サブリナが着ているジャンパースカートは、長くフレアです。このバランスが、彼女が、お抱え運転手の父親により、いかに大切に育て上げられているかということを伝えてくれます。
細身の肉体にあわせた服を立体裁断するのは大変なことです。しかし、このジャンパースカートは、どんなポーズを取ってもネックラインが崩れない素晴らしいバランスを保っています。「オードリーの仮縫いは慎重に何度もした」とイーディスが回想するだけのことがあります。
かくして、サブリナは生み出されたのでした。裸足で木に登り、遠くから憧れの男性を見つめ、満月の夜に目をうるうるさせているオードリーを見て、ほとんどの観客は、すでに骨の髄までこの美少女の虜になってしまうのです。
サブリナのファッション2
シェフ見習いルック
- デザイナー:イーディス・ヘッド
- 襟が付いているハイゲージニット
- グレー系のロングスカート
- グリーンかブラックのエプロン
パリ時代にサブリナは人生を変える出会いをします。それは74歳の男爵との出会いです。「幸福な恋ならスフレが焦げる。恋に破れてるとスイッチを入れ忘れる。」という名セリフを残すこの男爵が、サブリナにポニーテールを切ることをアドバイスするのです。
そして、サブリナの全てが洗練されていくのです。
サブリナのファッション3
パリルック
- デザイナー:イーディス・ヘッド
- パリ時代に洗練されていくサブリナのファッション
- 優雅でドレープのきいたガウン、まるでどこかの国の王女のようなその優雅さ、腰のラインがかなり細め、ダブルカフス、帯、ラペルが広い
このパリルックは、『ローマの休日』のアン王女のラストイメージと重なります。このシーンは、ハリウッドのパラマウント・スタジオで撮影されているのですが、オードリー・ヘプバーンという女優の凄さは、彼女がパリにいるという設定になれば、おそらく張りぼてのセットの前で撮影されようとも、その説得力を生み出せる所にあります。
作品データ
作品名:麗しのサブリナ Sabrina (1954)
監督:ビリー・ワイルダー
衣装:イーディス・ヘッド/ユベール・ド・ジバンシィ
出演者:オードリー・ヘプバーン/ハンフリー・ボガート/ウィリアム・ホールデン