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『ローマの休日』Vol.6|オードリー・ヘプバーンとブラウスとスカート②

オードリー・ヘプバーン
オードリー・ヘプバーン女を磨くアイコン映画女優
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イングリッド・バーグマンが涙を流した作品

ウィリアム・ワイラーは、納得がいくまで何度でも撮影を繰り返す監督でした。例えば、僅か3分のベスパのシーンの撮影のために6日間費やしたと言われています。ちなみに、その日数の中には、オードリーが快適にべスパを運転する姿に、興味を持ったワイラーが試乗し、大転倒し、病院行きになった日数も加えられています。

他にもオードリーが追っ手から逃れるためにサンタンジェロ運河に飛び込むシーンは10回も行い、オードリーのほっぺに吹き出物が出るほどでした。この吹き出物による凹凸は実際に映像の中でも確認できます。

撮影(ローマで半年かける)が行われた1952年夏は40度を越すローマ史上最も暑い夏でした。そんな中、スペイン広場でアイスクリームを食べる2分間のシーンのためにこれまた6日間撮影が行われました。

そんな過酷な撮影を経て、永遠不滅のファンタジー作品は生み出されたのでした「真に女優と言えるのは、グレタ・ガルボとオードリーと、そして、イングリッド・バーグマンくらいしかいないだろう」とワイラーは後日語りました。そして、バーグマンは本作のプレミアでオードリーの演技に感動し、人目もはばからずに泣いていました。

ベスパに乗るアーニャ。ペイズリー柄の絨毯が敷かれている。

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アン王女が失踪して「したかったこと」

船上パーティーではネクタイ風に襟を締めます。

夜の野外パーティーで、ハンカチーフを襟元にネクタイ風に締めます。

びしょ濡れになってスタンバイ中の主役二人。

さて、サンタンジェロ城前のダンスパーティにおいてオードリーは、ブラウスのボタンをきちんと閉め、襟の上にハンカチーフを締めています。これはかなり斬新なスタイルでとても印象的です。小物を使い、色々な隠し味を付け足していくことが、スタイリングする喜びなのです。

アン王女は、「これがしたかったのです」。そのこれとは何か?それは自由気ままに気分次第に服をアレンジしたかったのです。彼女にとって、ローマの休日は、3つの宝物を生み出しました。2つは、大切な思い出と、写真です。そして、もう1つはこの時に着ていた衣服なのです。一日で生まれたこの衣服に対する愛着は、冒頭で付けていたティアラやローブ・デコルテを遥かに凌駕する価値を生み出したことでしょう。

なぜこの作品は、ファッション感度の高い映画の筆頭に上げられるのでしょうか?それはただ単にラグジュアリー・ブランドの衣服を身に着けて、スタイリッシュに振舞うという女性映画から感じ取れる、あの使い捨て感たっぷりのブランド志向。そんな感覚とは全く逆の、ファッションとは身に着ける衣服と思い出を共有し、愛着を覚える喜びなんだということを、明確に伝えてくれる映画だからなのです。

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バッグが登場しないファッションムービー

袖を完全に捲り上げて、スタイリングしている貴重な写真。

袖を完全に捲り上げて、スタイリング・テストしている貴重な写真。

これもスタイリング中のオードリーの写真です。彼女の素晴らしさは、ファッションは他人任せにしない姿勢です。

ダイヤモンドの変わりにヘッドスカーフを首に纏うアーニャ・ルックが出来上がりました。

女性にとって重要なファッションアイテムの1つにバッグがあります。

バッグとは、実用性も含めて、その人の美意識と、ライフスタイル、仕事、清潔感、コーディネイト能力を示す鏡です。素晴らしいブランド品も、身に着けるその人次第で、輝きもすれば、下品に見えさえもします。

それほど、女性にとってバッグとは重要なステータスシンボルでありファッションアイテムなのですが、しかし、本作ではバッグは一切出てきません。両手に何も持たずに歩くアーニャの姿。実はこの斬新な女性像が存在するからこそ、この映画は永遠に新しいのです。

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素敵な男性の存在が女性を輝かせる

伝説の『真実の口』のシーンのためのリハーサル。すでにこの時、グレゴリー・ペックは、監督のワイラーにアドリブで手がなくなった芝居をすると打ち明けていた。知らぬはオードリーのみ。

後ろ手を組むオードリーの立ち姿がとても可愛らしい。

嘘をついているアン王女は当然恐る恐る・・・

セックスは過大評価されていると思うの。

オードリー・ヘプバーン

永遠のプリンセスが誕生したこの作品において、グレゴリー・ペック(1916-2003)はとても重要な役割を担いました。彼の清潔感溢れるスーツスタイルが、オードリーの白ブラウス×サーキュラースカート・スタイルを引き立てていました。

グレゴリー・ペックの人柄の良さは、ハリウッドでも有名です。彼は、単体の予定だった自分のクレジットを翻し、ハリウッドデビューしたオードリーも同等の扱いにするように直訴しました。「彼女にはその資格がある」と言い放った彼は、共演中にオードリーのスター性を感じ取ったのでした。そして、1993年の彼女の死まで親交を結ぶことになりました(オードリーの最初の夫メル・ファーラーは、ペックの紹介)。

彼の暖かいサポートがあったからこそ、リラックスして演技が出来たというオードリーの感謝の言葉が存在するように、この人の存在があればこそ、この映画は永遠の輝きを放つことになったと言っても言い過ぎではないでしょう。

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忘れていたファッションに対する喜び

日本への広報用の写真。Audrey Hepburn 1954

日本への広報用の写真。1954年。製作費の三分の一を日本だけで回収するほどのオードリー旋風が日本列島を直撃した。

「映画の友」1954年5月号。

オードリー・ヘプバーンは、次の主演作『麗しのサブリナ』において、ファッション史を揺るがす運命的な出会いを果たします。ユベール・ド・ジバンシーとの出会いです。彼女の身に着けているファッションを映画を通して見る喜び。なぜ私達はオードリーを見ているとわくわくするのでしょうか?そして、集中力が途切れないのでしょうか?それは彼女のファッション・センスは細部に渡っているからなのです。

目が離せないセンスの良さを示す人。それがオードリー・ヘプバーンなのです。そして、そんな彼女を見て、私の中でどう料理してやろうかと、ワクワクしてしまうのです。

ファッション・アイコンとは、ただラグジュアリー・ファッションを身に付け、美しい人のことを指す名称ではありません。この名称は、忘れていたファッションに対する喜びを、新鮮に蘇らせてくれる人のことを指すのです。

丁度、男性がブルース・リーの映画を見た後に、21世紀であっても、鏡の前でファイティング・ポーズを取りたくなるように、オードリーは女性にとってのブルース・リー的な存在なのです。

作品データ

作品名:ローマの休日 Roman Holiday (1953)
監督:ウィリアム・ワイラー
衣装:イーディス・ヘッド
出演者:オードリー・ヘプバーン/グレゴリー・ペック/エディ・アルバート

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