アトラップ レーヴ
原名:Attrape-Rêves
種類:オード・パルファム
ブランド:ルイ・ヴィトン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2018年
対象性別:女性
価格:100ml/45,100円
公式ホームページ:ルイ・ヴィトン
輝く夜空の流星が、「香り」となりあなたに降り注ぐ。
遠く離れた地平線に向かって旅をしてみると、思いがけない発見と不思議な体験ができることがあります。溶岩の砂漠に突如現われるオーロラ、熱帯雨林で飛び交うホタルの群れ、大海原に降り注ぐ流れ星…
そんな希少で幻想的な現象は一瞬見ただけでも、いつまでも記憶に刻みこまれていくものです。そんな奇跡の瞬間を待ち望む心からインスパイアされた香りです。
ジャック・キャヴァリエ
2016年9月15日に、ルイ・ヴィトンが、70年ぶりにフレグランス=レ パルファン ルイ ヴィトン(一挙、7種類の香り)を発売しました。そして、2018年2月に第八弾として「ルジュール スレーヴ」が発売され、更に同年9月13日に発売された第九弾が、この「アトラップ レーヴ」でした。
当初この二つは同日に発売される予定でした。そのため〝双子〟のような関係性を持っています。「ルジュール スレーヴ」が初夏の朝の新鮮な空気を表現しているならば、「アトラップ レーヴ」は冬の夜空のきらめく星やオーロラのようなうっとりするような光景を表現しています(そのためレイヤリングの相性がとても良い)。
「アトラップ レーヴ」とはフランス語で「ドリームキャッチャー/夢を掴む」を意味します。ルイ・ヴィトンの専属調香師、ジャック・キャヴァリエにより調香されました。
それぞれの香料は、他を圧倒することなく、それぞれの役割を果たしています。理論上、それらは同居する理由がない、自立した貴重な成分です。しかし、それらが肌の上に乗った途端に、会話をはじめ、干渉し、きらめきを与え、独特な輝きを生み出してゆくのです。
ジャック・キャヴァリエ
一言で表現するなら『体温が1℃上がる香り』です。
一言で表現するなら「体温が1℃上がる香り」です。澄んだ冬の夜空に瞬く星空が見える部屋の中、ホットココアを手に暖炉の前でブランケットに身を包んだ時のような、温かく幸せな気持ちになる香りです。
香り立ちの印象は、はじまりは〝甘く〟て〝可愛らしい〟だと思いますが、時間が経つにつれて肌がふわっと暖かみを帯びるような香りになるのが特徴です。その香りの移り変わりはまるで、体温により、肌の上でチョコレートが滑らかに溶けて広がっていくようです。
何よりもこの香りのネーミングは『夢を叶える』なので、スプレーをプッシュする度にワクワクする、胸のときめきを抑えられない香りだと思います。まさにジャックが得意とする〝ロマンティック フレグランス〟という新しいカテゴリーなのかも知れませんね。
「香水とは人生を美しくするために存在するのです」
私はこの香りによって光をもたらしたいと考えました。キラキラと輝く肌を表現したいと願いました。この香りを通して人生がより美しくなるような、そんな香りを作りたいと思いました。香水とは人生を美しくするために存在するのです。
ジャック・キャヴァリエ
この香りは、『冬の夜空』をテーマに創られた香りです。輝く夜空の流星群に願いを込めながら見上げている女性のワクワクするような感情を表現するように、前作「ルジュール スレーヴ」の、楽しい地中海の旅を彷彿とさせる爽やかなベルガモットの風と共に、弾けるようなジンジャーとフルーティーなライチが到来します。
どうやらこの旅は、陽光のリゾート地から、オーロラや夜空の星が透き通って見える冬のファンタジーへと導いてくれるようです。さぁ、夏からの脱出です。
ちなみにジンジャーは二酸化炭素抽出法により抽出されたものです。アフリカ産のカカオもグラースで処理されたものです。
寒さの中で人の心がより温かくなるように、心を温めてくれるホットココアを飲んだような気分にしてくれるカカオが、ブランケットに身を包んだ時のような暖かさや安心感を与えてくれます。
そして、トルコ産ダマスクローズ(ターキッシュローズ)とピオニーが現われ、パチョリがそれぞれの香りに奥行きを与えてゆきます。まるで薔薇の花びらをチョコレートコーティングしたようなロマンティックな香りが放たれてゆくのです。
フルーティさは全体を軽やかに、そして、ほのかな透明感を演出しているライチから感じることが出来ます。パチョリのふくよかさは、包み込んでくれるどこまでも暗い冬の夜空を思わせます。
同じフルーツパチョリであっても「エンジェル」や「ラヴィエベル」が持つ鋭さとは真逆の囁くような柔らかさ〝=出会う人に対して人当たりの良い挨拶の出来るフルーツパチョリ〟が、この香りの特徴です。
さらに「エンジェル」程のグルマンでもなくグッチの「ゴージャスガーデニア」にも通じる〝甘い〟と表現するだけでは言葉が足りない〝温かさ〟を感じさせます。
幸福感を感じた時の心が温かくなる感覚、温かい家族やパートナーと居る時に感じる安心感と包容力。まさに冬のピンと張り詰めた冷たい空気の中で香るのにぴったりな香りです。
プーランのココアの缶を開けたときのココアパウダーの香りからこの香りのアイデアははじまりました。ココアには甘さがありますが、ある種のアニマリックさもあります。ハートノートはピオニーで構成されています。それがココアに包まれ、熱さと冷たさを生み出してゆきます。ライチとローズのフルーティーな側面もあります。
トップノートにはベルガモットとジンジャーがあります。最初から最後まで新鮮さと輝きが存在するように、ベースノートには、23%のパチョリ・エッセンスが腰を据え、肌の上で驚きと陽気さと官能の香りを生み出しています。
ジャック・キャヴァリエ
ジャック・キャヴァリエがマチュ・ピチュで口にしたカカオ
「アトラップ レーヴ」は『夢を叶える』香りです。そして、この香りの鍵はカカオが握っています。それは、ジャック・キャヴァリエの『夢を叶える』ために生み出された香りでもあるのです。
ジャックが『夢を叶える』という名の香りに、〝カカオ〟を用いた背景には、マチュ・ピチュを旅した時に口にした飲み物の忘れえぬ記憶がありました。それは古代インカ帝国の人たちが、神聖な儀式で捧げていたカカオを使った飲み物であり、それを再現した飲み物を口に含んだ瞬間に感じた複雑で芳醇な香りに圧倒され、いつかフレグランスでカカオを使いたいと〝インカの夜空〟に星願したのでした。
そんなカカオへの思い入れから生まれたのがこの香りなのです。だからこそ、二酸化炭素抽出法によるグラース産メイローズによる優しく繊細で気品のある芳香ではなく、トルコ産ダマスクローズの華やかで甘く妖艶な芳香を、注意深くココアにマッチングさせているのです。
トルコ産ダマスクローズこそが、「アトラップ レーヴ」の〝冬の夜空〟をモチーフにした香りというコンセプトを生み出すために、カカオと見事に調和し、薔薇の華やかな存在感を残せると考えたのでした。
「ルジュール スレーヴ」とのレイヤリング
レイヤリングで最高の相性を誇るのが、双子的存在である「ルジュール スレーヴ」とのレイヤリングです。「アトラップ レーヴ」がロマンティック フレグランス(上の写真のイメージ)だとすると、レイヤリングすると下の写真のイメージとなります。
「アトラップ レーヴ」の女性らしさはそのままに、透明感や軽やかさがさらに豊かに表現されていきます。
そして、ローズの香りをより魅力的に引き出す提案として「ローズ デ ヴァン」や「スペル オン ユー」との相性もとても良いです。
ちなみにジャック・キャヴァリエはこの香りと、「マティエール ノワール」のレイヤリングを、カカオの甘みとダークなアガーウッドの相性が良いと推奨しています。パチョリが重なり合い、更に夜が深くなっていくような印象も生まれ、ロマンティックで〝夢見る夢子ちゃん〟な面だけでなく、大人の女性の一面が垣間見える、少しミステリアスな雰囲気が出るような印象となります。
「アトラップ レーヴ」を男性が纏うと・・・
この香りは、男性にもとても人気のある香りです。特に20代くらいの男性、もしくは30代でも香りをファッションの一部として捉えている男性が選ぶ香りです。
そして、この香りをそんな男性が身に纏うと、安心感や温かさ以上に華やかさが増すような香りに包まれてゆきます。
得てして、男性の肌ではスパイス(ドライな印象やシャープな印象)は、より主張するものなのですが、この香りの場合、元々が女性向けに作られているのでスパイスの〝温かさ〟だけが残るように香ります。
だから、〝スパイシー〟で〝力強い〟または〝カッコいい〟イメージが先走った香りが苦手という男性にとって、最高のファッション・アイテムとなり得ます。特に冬におすすめです。
ちなみに同じカカオが使われた「ヌーボー モンド」と比べてみると、「ヌーボー モンド」の方が、〝ドライなスパイシーさ〟を感じさせます。
エマ・ストーンが9つの香りの間を歩く。
この香水のために、ルイ・ヴィトンは、ブランドとしてはじめてフレグランスのためのショートフィルムを撮影しました。アカデミー賞を受賞した映画監督であり、『アメリカン・ビューティー』(1999)『007 スカイフォール』(2012)『007 スペクター』(2015)で有名なサム・メンデスが監督を務め、LVのアンバサダーをつとめるオスカー女優エマ・ストーンが出演しています(二人はブロードウェイの『キャバレー』でも共に仕事をしていた)。
さらに撮影監督は『裏切りのサーカス』(2012)『テネット』(2020)のホイテ・ヴァン・ホイテマという豪華さです。
このショートフィルムは、「アトラップ レーヴ」だけでなく、今までの9つすべての香りが表現する女性の人生におけるさまざまな瞬間や感情を伝える内容です。
さらにビヨンセが歌う挿入歌「XO」の意味は「キスとハグ」です。それは〝愛する人と過ごす瞬間を何よりも大切にしたい〟という歌の想いと香りの思いが結びついているのです。
私は16歳から演じてきた役柄ごとに身に纏う香水を選んできました。だから、もう一度それぞれの香りを吸い込むだけでその時の自分に戻ることが出来るのです。
私は目がとても悪いのですが、その分嗅覚がとても強くて、記憶と香りの結びつきがとても強いのですよ。
エマ・ストーン
ちなみにエマ・ストーン(1988-)自身のお気に入りにルイ・ヴィトンの香りは「アポジェ」とのこと。そして、彼女自身が一瞬で旅に誘われる香りとして、ジャスミンを挙げています。
自分の心は自分で満たし、キラキラと輝く人生を歩く女性のための香り
ルイ・ヴィトン初のフレグランスのためのショート・フィルムの重要性は、ルイ・ヴィトンのウィメンズ・フレグランスの精神を知るために忘れてはなりません。
ルイ・ヴィトンのフレグランスとは、〝人生の旅〟や〝感情の旅〟であることをこのショートフィルムをはじめて見た時、改めて感じました。女性にはいろいろな顔があり、たくさんの選択があって、そして、人生という旅を歩んでいく。
孤独で寂しい〝一人で歩く〟という意味ではなく、自分の心は自分で満たしキラキラと輝く人生を歩く事ができることを知っている自立した女性をあの映像から感じ取りました(とてもフランス的ですよね。日本でも最近は少なくなったかも知れませんが、まだまだ自立した大人の女性というのはどこか疎まれたり、勝手に周りから〝寂しい人〟だと思われがちです…)
全て自分の心の赴くままに、自分の人生を輝かせ、夢を掴むことができるのは、自分自身だと背中を押してくれているような映像だと思いました。それがルイ・ヴィトンの7つ香りから始まり、「ルジュール スレーヴ」「アトラップ レーヴ」へと繋がっていくのです。
正直、はじめてこの動画を見た瞬間、「あまり日本人女性の心には響かないんじゃないかな」という考えがふと頭をよぎったのですが、今日改めてこの映像を見て、もう日本人女性が見てもまったく違和感を感じさせない内容だと確信しました。
つまり、ルイ・ヴィトンのフレグランスとは、何よりも女性が輝くためのフレグランスなんだと改めて感じることができました。
ひたむきな女性の〝夢〟を思わせる香り
春から夏にかけ改めてこの香りを身に纏ってみて、私はなぜかパルファン・ロジーヌ パリの「ヴィーヴ ラ マリエ」の〝しあわせいっぱい〟と重なるところを感じました。まるでロマンティックバレエ(1830年代から1850年代あたりまでに成立した一連のバレエ)を舞っているような、月と太陽の光に同時に誘われれるような、幻想的な喜びに包まれるようなのです。
香りそのものは〝甘さが〜〟とか、〝香料は全然違う〜〟など異論があるのは承知の上なのですが、香りを纏った時のイメージや柔らかさ、何よりもひたむきな女性の〝夢〟を思わせるところに共通点を強く感じます。
香水データ
香水名:アトラップ レーヴ
原名:Attrape-Rêves
種類:オード・パルファム
ブランド:ルイ・ヴィトン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2018年
対象性別:女性
価格:100ml/45,100円
公式ホームページ:ルイ・ヴィトン
トップノート:ベルガモット、ジンジャー、ライチ
ミドルノート:ターキッシュ・ローズ、ピオニー、カカオ
ラストノート:パチョリ