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カルティエ

【カルティエ】カラット(マチルド・ローラン)

カルティエ
©Cartier
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カラット

原名:Carat
種類:オード・パルファム
ブランド:カルティエ
調香師:マチルド・ローラン
発表年:2018年
対象性別:女性
価格:日本未発売

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世界でいちばん手に入れやすいダイヤモンド

プリンセス・ビベスコ

ダイヤモンドは本当に冷たく、鋭く、香りとしても香水としても、最初の瞬間は何ができるのかわからなかったので、ずっとダイヤモンドの香水を作ることを避けてきました。

マチルド・ローラン(以下、すべての引用は彼女のお言葉)

カルティエの専属調香師であるマチルド・ローランは、第二次世界大戦前夜に、カルティエの顧客であるルーマニアの貴族プリンセス・ビベスコ(1886-1973)が、1933年から1970年にかけてカルティエのクリエイティブ・ディレクターをつとめたジャンヌ・トゥーサン(1887-1976)に「あなたはダイヤモンドの香りがする」と言った逸話を知り、〝ダイヤモンドの香り〟を生み出そうと考えました。

マチルド自身は、専属調香師になった当初、ダイヤモンドにはほとんど興味がありませんでした。しかし、カルティエのダイヤモンドを身につけるようになってからその魅力にどんどん惹きつけられていきました。

光がダイヤモンドのプリズムに入ると、虹の7色に爆発するんです。一種の魔法よ。これがとても素晴らしいのです。実際、ダイヤモンドはあなたのためだけに虹を作り出してくれる。7色の花を使えば、7色でできた光、白い光を作ることができる。


さらにピンク・フロイドの1973年のアルバム『狂気(The Dark Side of the Moon)』のイメージからも大いなるインスピレーションを得たのでした。

白い大輪の花の中に7色の花を咲かせるというアイデアは、ピンク・フロイドのアルバム『狂気』のジャケットからも強い影響を受けています。

あのイメージは誰もが知っている!光が入ってきて、七色にはじける。私はその逆をやってみた。7色の花をダイヤモンドのプリズムで、より抽象的な素晴らしい白い花にしました。

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7色のフローラルにより生み出された〝見えないダイヤモンド〟

©Cartier

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上質な香水には、天然原料が重要なんて、とても時代遅れな考え方よ。天然原料をふんだんに使用したから良い香水ができるなんて考え方はバカげている。世界でもっとも素晴らしい天然原料を使うと素晴らしい石鹸は出来上がるけど、素晴らしい香水は生まれないわ。原料の価値と創造の価値はまったく比例しません。だから私は、ヘッドスペース・テクノロジーを使うのです。

ピカソは〝芸術とは真実を語る嘘である〟と言いました。私はこの言葉の〝芸術 〟を 〝香水〟に置き換えているのです。

2018年9月10日にカルティエの新作フレグランスとして発売されたフレグランスの名前は、ハイジュエリー・ブランドであるカルティエに相応しい「カラット」(宝石の質量単位)でした。

それはマチルド・ローランが1年の歳月を費やし、光の戯れにより7色に変化するダイヤモンドのように、ヴァイオレット、ヒヤシンス、イランイラン、水仙、アイリス、ハニーサックル、チューリップといった生命力あふれる7つの花々をチョイスして生み出した、〝見えないダイヤモンド〟でした。

「カラット」という名前は、元々は開発中にコードネームとして使われていました。私自身は「カルティエ・ディエム(Cartier Diem)」、あるいは「ストーン・ド・カルティエ(Stone de Cartier)」という名前を考えていました。

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あなたの中に眠る『原石』を磨き上げてくれる香り

©Cartier

私は「カラット」に喜びと希望を与えたかった。とても曇っていて、暗くて、なんだかメランコリーな気分になるときに、ある瞬間、一筋の太陽の光が現れて、たちまち気分が良くなる。新しい希望希望が湧いてきて、全身に活力が漲る。これが私がボトルに入れようとしたものです。私たちは、香水には感情や魂の色を変える力があることを知っています。

私は学生時代、結晶学を学んでいました。つまりダイヤモンドの研究をしていた訳です。その光はレインボーの7色で出来ているので、7色の花を混ぜて、抽象的で素晴らしい大きな白い花を作りました。色から生み出された香水なのです。

まだ輝きを知らないダイヤモンドの原石に、匠のカッティング(カット面の数や研磨技術、角度の精度)を施すことにより、〝屈折率の高さ〟という唯一無二な特性を開放し、光を受け止め輝きを与えていく。

このダイヤモンドが生み出される原理を、7つの花々の香りによって達成しようと試みた〝見えないダイヤモンド〟を磨き上げていくこの香りは、

  1. ブリリアンス(ダイヤの内部で反射する白い輝き)
  2. シンチレーション(ダイヤを動かした時にきらきらと瞬く光の輝きと明暗のコントラスト)
  3. ディスパージョン(プリズム効果による七色の輝き)

といったダイヤモンドの3つの輝きがすべてバランスよく引き出されている状態を、チューリップ=レッド、ハニーサックル=オレンジ、水仙=イエロー、イランイラン=グリーン、ヒヤシンス=ブルー、アイリス=インディゴ、ヴァイオレット=ヴァイオレットの絶妙なバランスにより、フラワー・アーチが生み出されていきます。

朝露を含んだ草原の輝きと、ベルガモットの太陽の光線と、フルーティーな洋ナシの甘い煌めきが素肌を照らすようにしてこの香りははじまります。すぐにムスクとミモザが注ぎ込まれ、フレッシュでクリーミーな冬の光に包まれてゆきます。

そして、清らかなワインのようなチューリップと自然の甘さに包まれたヒヤシンスの香りと共に、水仙、アイリス、ハニーサックル、ヴァイオレット、イランイランが、素肌の上で反射を繰り返しながら、アルデハイドによるカットが施され、CUT(煌めき)、CARAT(重み)、CLARITY(清らかさ)、COLOR(透明度)の4Cが満たされた、春の花蜜の輝きを解き放ってゆくのです。

やがて、光に充たされ、太陽とダイヤモンドの輝きに愛されるように、全身が笑顔になるような、心が希望で満たされていくのです。

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伝説のハリウッド女優のブレスレットをボトルにする。

『彼女の選んだ道』(1933)で、私物のカルティエのブレスレットをつけているグロリア・スワンソン。

グロリア・スワンソンとブレスレット、1930年代。

『サンセット大通り』(1950)でこのブレスレットをつけているグロリア・スワンソン。

グロリア・スワンソンが愛したカルティエのブレスレット。©Cartier

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何よりもこの香りについて強調したいのは、スプレーしたときのフレッシュ感です。まるで生きている花のようであり、白い花が咲いていくように肌に広がっていくのです。

カルティエが考案したバゲットカットからインスパイアされたボトル・デザインは、マチルド・ローランがアクセサリー部門に香りを身に纏ってもらった上で、共に、イメージを膨らませデザインしていったものでした。

「ダイヤモンドの形をそのままボトルにするのはバカバカしくなるのでやりたくなかった。何か違うものを加えたい、ダイヤモンドをデザインする以外の別の方法で光を表現したいと話し合いました」。

そして、マチルドたちは、往年のハリウッド女優であるグロリア・スワンソン(1899-1983)が長年愛用していたカルティエのブレスレットへと辿り着いたのでした。かくしてボトルに虹のすべての色を反映させることを考え、この類稀なるボトルは、カルティエのサヴォアフェールを結集して生み出されたのでした。

1930年にグロリアがカルティエで購入した、プラチナにドーム型のロッククリスタルとダイヤモンドが連なる伸縮性のあるブレスレットは、ジャンヌ・トゥーサンによりデザインされたものでした。光をこの手に掴むような優麗さに満ちたこの〝光のブレスレット〟は、彼女が映画界にカムバックした1950年の『サンセット大通り』の中でも登場しました。
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香水データ

香水名:カラット
原名:Carat
種類:オード・パルファム
ブランド:カルティエ
調香師:マチルド・ローラン
発表年:2018年
対象性別:女性
価格:日本未発売


トップノート:グリーンノート、洋ナシ、ベルガモット
ミドルノート:ヒヤシンス、チューリップ、水仙、アイリス、ハニーサックル、ヴァイオレット、イランイラン
ラストノート:ミモザ、ホワイトムスク