プール アン オム|はじめて作られた男性のためのフレグランス

キャロン
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キャロン
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プール アン オム

原名:Pour Un Homme de Caron
種類:オード・トワレ
ブランド:キャロン
調香師:エルネスト・ダルトロフ、ミシェル・モルセッティ
発表年:1934年
対象性別:男性
価格:75ml/18,700円
販売代理店ホームページ:フォルテ

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はじめて作られた男性のためのフレグランス

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1949年 ©Caron

第一次世界大戦(1914~1918)が終わり、1920年代に、女性はより華やかに自己主張するフレグランスを身に纏うようになりました。そしてそんな女性を魅了するために、男性は、魅了するようなフレグランスを深層心理で求め始めていました。

時は1934年、第二次世界大戦の軍靴の音か聞こえてくるほんの少し前のこの年に、キャロンから「プール アン オム」が発売されました。この年の5月にアメリカの中西部で銀行強盗や殺人を繰り返したボニーとクライドが射殺されました。さらに7月にはPublic Enemy No.1に指名されたジョン・デリンジャーが射殺されていました。

そんな大恐慌で喘ぐ世界情勢の中で〝はじめて作られた男性のためのフレグランス〟は、エルネスト・ダルトロフミシェル・モルセッティにより調香されました。

紳士が通う理髪店のラベンダーの香りと、フェミニンなバニラの香りがひとつになる、つまり、男性の愛の囁きを、女性が甘い抱擁で受け止めるようなロマンティックな組み合わせにより、瞬時に世界中の男性を魅了しました。

まだ(ゲランやドルセーの)オーデコロンや、ヤードレーなどの英国のラベンダーコロン、アフターシェーブローションを衛生上使うだけだった男性に対して、キャロンはキャンペーン広告で「エレガントな男の夜のために」と、男性もフレグランスを身に纏う風潮を牽引していったのでした(ちなみに大戦中には「プール ユヌ ファム」という名前で販売されました)。

この香りのために天然のプロヴァンス産のラベンダー精油が61%使われています(ラバンジン精油が41%とラベンダー精油が31%も含まれており、香り全体の72%を占めているという記述もある)。

そのフレッシュで爽やかにつんとする感覚が、アンバーとバニラの熱情によりよろめかされ、甘やかに陶酔感のある香りとなるのです。ロスチャイルド家に買収されるまでは、キャロンの売り上げの40%を占めていました。

ジェームズ・ディーンは、撮影中もこの香りを使用するほど、愛用していました。ショーン・コネリーもこの香り付けてジェームズ・ボンドに扮していました。トム・フォードエディ・スリマンといった多くのファッション・デザイナーにも愛されてきました。

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男性の愛の囁きを、女性が甘い抱擁で受け止めるような香り

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セバスチャン・シャバル、2008年 ©Caron

セバスチャン・シャバル ©Caron

史上初めての男性用のフレグランスは、地中海の柑橘=レモンとベルガモットが、ムスクの風に乗り、プロヴァンスのラベンダー畑にサンシャワーとして降り注ぐようなフレッシュな感覚からはじまります。かすかに香るローズマリー、クラリセージ、ゼラニウムといったハーブが清涼感を引き出してゆきます。

この過剰投与されたラベンダーは、自然のラベンダーの持つ爽やかさだけでなく、草のような香り、干し草のような香り、スパイシーな香り、樟脳のような香り、樹脂のような香り、柑橘系の香り、そしてウッディでスモーキーな香りなど、様々なニュアンスを感じさせてくれます。

すぐにふんわりと目を醒ましたばかりのアニマリックなバニラ(シベット×エチルバニリン)がラベンダーに溶け込み、火のように官能的なバニラと氷のように静かに微笑むラベンダーの、まるで陰と陽、悪党と聖人のように、男の中に眠る、善悪の彼岸を目覚めさせてくれます。

コントラストの妙を素肌で愛でる香りであるにも関わらず、くらくらするような強烈な香りではなく、時を超えたエレガンスをさらりと伝える、キャラメルのようなまったりとした甘さも感じられる、軽やかで快い香りです。パウダリーなアーモンドのようなヘリオトロープが親密さを深めてくれます。

洗い立ての清潔なシャツと、熱い吐息と抱擁の両方を想起させる香りです。

フェリシエ・ヴァンピールがデザインし、ガラス工房のロールスロイスとも言えるヴェルリ・ブロス社により製作されたボトルは、1934年当時からほとんどデザインがチェンジされておらずまさに不変のスタイルを備えていると言えます。

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セルジュ・ゲンスブールはジェーン・バーキン

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1972年にセルジュ・ゲンスブールジェーン・バーキンとともに、お気に入りのフレグランスのコマーシャルソングを歌いました。

俺はそれほど美男じゃないが水もしたたるいい男で通っている/いい男っぷりが俺の魅力で、まさに秘密兵器さ/キャロンのプール・アン・オムは男のためってことさ/女をなびかせる奥の手がある /それこそ俺の魅力/まさに秘密兵器さ/キャロンのプール・アン・オム/キャロンのプール・アン・オム/オードトワレ/そして魅力のすべて

さらに魅力的なのは、1970年代の女性のファッションにもマッチすることをジェーン・バーキンが実際に愛用していたこともあり、彼女自身が体現してくれたことでした。

60年代のミニスカート時代は終焉し、ジーンズ時代が到来し、香水がジェンダー分けされていた時代に、その壁を突き破る〝実はノージェンダーなメンズ・フレグランス〟のはしりとなりました。

ゲランの「アビルージュ」(1965)やジャン=ポール・ゴルチエの「ル マル」(1995)、ディオールの「オー ノワール」(2004)、キリアンの「テイスト オブ ヘブン」(2007)、シャネルの「ジャージー」(2011)に強い影響を与えた香りです。

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90年以上経っても、このラベンダーとバニラは離れない=至上の愛

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パリ・オペラ座バレエの元エトワールであるパトリック・デュポン、1998年 ©Caron

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2014年に、1998年からキャロンの調香師として、ブランドの再興に貢献していたリチャード・フレイスが「プール アン オム」80周年を記念して処方は一切変ええずに、ラベンダーとバニラをグレードアップさせました。

リチャードの祖父は1913年にヤードレーの「イングリッシュ ラベンダー」を調香した人であり、父アンドレ・フレイスは1927年にランバンの「アルページュ」を調香しました。

そんなサラブレッドとも言える彼が進化させた「プール アン オム ミレジム2014」は、当時、年間40万本生産されていたこの香りに、さらに不滅の輝きを齎しました。

2018年に、3000万ユーロで買収したのがロスチャイルド・ファミリーのアリアンヌ・ド・ロスチャイルド(カトレア・ファイナンス)により完全復活を遂げたキャロンにおいて、この香りは、今も1934年から変わらぬオーラを放ち続けています。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ラベンダーバニラ」と呼び、「父がこれを身につけていた。50年代の宣伝では「奥深くまで刺激する香水」と紹介していたが、アロマテラピーの視点でラベンダーの効用を考えると笑ってしまう。確かに、とてもシンプルなバニラのタッチが添えられた、敬愛すべきラベンダーである」

「ラベンダーはそのハーブ調の核のどちら側にもミント様、もしくはカラメルのような香りへ傾くノートをもっており、ときにはフェヌグリークを思い起こさせることもある。個人的にはミント様のラベンダーのほうが好みだが、「プール アン オム」はカラメルのようなラベンダーと、控えめだが温かみのあるオリエンタル ペースを「ジッキー」とかぶらず巧みに調合できることを教えてくれ、同時にどういうわけか全体的にいつまでも続くフレッシュさを保っている。ラベンダー種の香水の中では、おそらく最高の作品だ」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:プールアンオム
原名:Pour Un Homme de Caron
種類:オード・トワレ
ブランド:キャロン
調香師:エルネスト・ダルトロフ、ミシェル・モルセッティ
発表年:1934年
対象性別:男性
価格:75ml/18,700円
販売代理店ホームページ:フォルテ

トップノート:フランス産ラベンダーエッセンス、フランス産ラベンダーアブソリュート、ローズマリー、ベルガモット、レモン
ミドルノート:クラリセージ、ブラジリアン・ローズウッド、シダー、ヘリオトロープ、コリアンダー、ゼラニウム、ターキッシュローズ
ラストノート:バニラ、ムスク、トンカビーン、アンバー、モス、オポポナックス、スティラックス