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『イージー・ライダー』Vol.3|アメリカンニューシネマは必ず不幸な結末を迎える

その他の男優たち
その他の男優たち
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ジャック・ニコルソンの登場

『イージー・ライダー』の中で最も印象的なセリフが以下のセリフです。

「君が象徴しているものが怖いのさ。君に〝自由〟を見るのさ。自由を説く事と自由である事は別だ。カネで動く者は自由になれない。アメリカ人は自由を証明するためなら殺人も平気だ。個人の自由についてはいくらでも喋るが自由な奴を見るのは怖い」

43分過ぎたころに突然現れるアル中の弁護士ジョージ・ハンセン。僅か17分間の登場で、その強烈な存在感を私たちの胸に焼き付けて去ってゆきます。留置場でビリーにすごまれる時の表情。にやりとするその瞬間に21世紀最高の映画スターは誕生したのでした。

ジャック・ニコルソン(1937-)は、この頃、最後の望みと考えていた『ローズマリーの赤ちゃん』のローズマリーの夫役が得られず、30代を越えてもスターになれそうになかったので、映画俳優を辞めようと考えていました。そんな中、当初ブルース・ダーンが演じる予定でしたが、スケジュールの都合でニコルソンにこの役が回ってきました。

おれはアメリカで最も早くLSDを試した人間のひとりじゃないかなと思う。

ジャック・ニコルソン、1972年のインタビュー

そんなハンセンがつけている眼鏡はシュロン社(アメリカン・オプティカル、B&Lに並ぶアメリカ3大眼鏡メーカーのひとつ)によるブローラインのフレーム「ロンサー」です。この丁度眉毛のようなラインを描くフレームは、1947年に発表され、1950年代を代表するフレームとなりました。後にレイバンのクラブマスターのモチーフとなりました。

『カンバセーション盗聴』(1974)のジーン・ハックマン、『JFK』(1991)のケビン・コスナー、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)のトム・ハンクスも作中に着用していました。

チョッパーの乗り心地が非常に不安定なため、ある時、後部座席に乗っていたジャック・ニコルソンがバランスを取るためにピーターの脇腹を膝で強く押し、肋骨を3本折ってしまいました。

ジャック・ニコルソンの登場です。ジム・ビームを一気飲みした後に「ニク、ニク、ニク」というシーンは、ニコルソンのアドリブでした。

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ジョージ・ハンセンのファッション1

アメフト・ヘルメット・スタイル
  • ホワイトコットンのボタンダウンシャツ
  • 赤のネクタイ
  • 白のサスペンダー
  • クリーム色のリネンスーツ、ノッチラペル、3つボタン、ベントレス、オーバーサイズ
  • ブラウン・レザーブーツ
  • シュロンのロンサーZYLのクリップオンサングラス
  • ゴールドのフットボール・ヘルメット

シュロンのロンサーZYL。この微妙に禿げかけてるヘアスタイルが最高にクールです。

3人の才能が集まり、一つの革命は成し遂げられました。

すごく派手なネクタイです。

作中で最も有名な「鳥のように自由に舞おうぜ!」シーン。

スーツにゴールデンヘルメットのアンバランスなバランス。

広大なアメリカの自然と巨大なチョッパーの見事な対比。

ジャック・ニコルソンのファッションがよく見ると一番奇抜でした。

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ヒッピー VS ロッカー VS アイビーの三つ巴の戦い

全く違うファッション・テイストの3人が並ぶ時に生まれる〝ひらめき〟。実際にマリファナを吸うシーンでは、三人共本当に吸っていたという。

ファッションとは、留めるべきものをいかに留めないかの美学です。

いつも、若い奴らに「大事な三つのルールを覚えておけ」と言ってるんだ。一つ、男と女は憎しみ合っている。二つ、女の方が賢く、強い。そして、これが一番重要なんだが、女はフェアプレイをしないってことさ。

ジャック・ニコルソン、1984年。

この作品が、ファッション史的に大いなる価値を持つ理由は、3つの異なるメンズ・スタイルが一つの画面で対比されている点です。ザ・バーズ的なヒッピー・ルック=デニス・ホッパーと、アイビー・ルックのジャック・ニコルソン、そして、ロッカー・ルック=バイカー・ルックのピーター・フォンダ。

異なった3つのファッション・スタイルが生み出す不協和音は、やがて不思議なバランス感覚を生み出してゆきます。そして、現代の私たちに新たなるスタイルを知るきっかけとなります。

しかしこの作品が、不滅のオーラを放っているのは、1966年11月12日に勃発したヒッピー暴動(サンセット・ストリップ暴動)で、フォンダもニコルソンも抗議活動に参加し、逮捕されていたことからもわかるように、当時のヒッピー文化の真っ只中で生きていた三人の演技だけでない部分が感じ取れるからなのでしょう。

映画の中の主人公が、本当にその時代の中で生きている、時代の空気が感じられるファッションは、不滅の輝きに包まれるのです。

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ジョージ・ハンセンのファッション2

アイビールック
  • ダークブルーのバーシティセーター。黄色のM字マーク

Mのワッペンがついたアイビーなセーター。

よく見るとMの中で、一番星が光っています。

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彼らはアメリカ(自由)を見つけに旅に出た。

衝撃のラスト。このシーンから、オールド・ハリウッドは終焉を迎え、70年代の新しいハリウッドの時代がはじまりました。

悲劇的なシーンですが、ワイアットのレザーパンツのカッコよさが良く伝わります。

アメリカンニューシネマは必ず不幸な結末を迎える。ロジャー・コーマンは本作のプロデュースを断った事を『人生最大の失敗だった』と後悔しました。

デニス・ホッパー死す。理由は「そのうざい長髪を切れ!」とのこと。

ピーター・フォンダが11歳のとき、母親フランシスは、夫ヘンリー・フォンダの浮気癖が原因で首を剃刀で切断し、自殺しました。

当時、自殺だったことを知らなかったピーターは、後年、ある知人による「自殺をする人々というのは、身体の中で自分自身が一番気に入っていた箇所を致命傷の場所にするものです」の一言によって、母親の死が壮絶な自殺だったことを知ります。

そんなピーターの心の傷をえぐるが如く、デニス・ホッパーはセントルイス第1墓地のシーンで叫びます!「その女神像に登り、君のおふくろに向かってなぜ自分を見捨てたのかを尋ねるんだ!」と。

あっけに取られて拒絶するピーターに向かい、デニスはこう続けます。「こいつは俺たちの唯一のチャンスなんだ、わかるか?俺たちにとっての最後のチャンスなんだよ!」。そして、2時間ピーターは、女神像にしがみつき泣き叫び続けた(娼婦とのLSDによるアシッド・トリップ・シーンに使用される)。

混迷を極めた四週間半の撮影スケジュール終了後に、デニス・ホッパーは、最後のキャンプ・ファイアー・シーンの撮り忘れに気づき、サンタモニカの山の中で、撮影に使用された3台のチョッパーのうち2台はすでに盗まれ失われていたので、バイクなしで追加撮影を決行しました。

その時、ピーター・フォンダは、炎を見つめながらこう考えていたと回想しています。「俺たちは負けたんだよ。イージー・ライダーは失敗したんだ」と。そして、デニスのことをこう感じました。「一緒に仕事をしているのは狂った男なんだよ。いつも酒を飲み、覚せい剤を常用している奴なんだ」と。まさに60年代後半だからこそ生まれた、反逆と狂乱の中の感性の爆発でした。

最初のアイデアは、二人のアメリカ人の若いヒッピーが大金を手に入れ、その金でキーウェストにボートを買い、夕陽に向かって航海に出る。そんな詩的なラストシーンになるはずでした。
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キャプテン・アメリカのファッション3

フラワープリント
  • サイケデリックなフラワープリントのシャツ、襟なし
  • フラワープリントが施されたアースカラーのネッカチーフ

全身オールレザーのシルエットのカッコ良さがよく分かる写真。

ヒッピー文化を代表するド派手なフラワー柄のシャツ。

よく見るとかなり繊細な素晴らしいフラワーパターンです。

それにしてもこのチョッパーは長い!

フラワープリントこそ、ヒッピールックの象徴です。

バイカールックにフラワー柄のアンバランスさが、ロックスターのようです。

ときどき育ちの良さが分かるところもピーター・フォンダの魅力です。

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しかし、そんなものはどこにもなかった。

バンダナをつけたデニス・ホッパー。1971年。

撮影担当のラズロ・コヴァックスとデニス・ホッパー。製作費僅か34万ドルの低予算で作られ、世界中で6000万ドルもの興行収入を叩き出した。

カンヌ映画祭にて、出演者たち。1969年カンヌ国際映画祭新人監督賞受賞。

それは今までに行われたことのない最高のそして真実の方法だったんだ。

デニス・ホッパー

「彼らはアメリカ(自由)を見つけに旅に出た。しかし、そんなものはどこにもなかった」。秀逸な公開当時のキャッチコピー。今この作品を見る私たちにとって、アメリカの60年代後半のヒッピー・ムーブメントの息吹が、はっきりと感じることの出来る作品です。この作品の中には、旅があります。そして、アメリカの魅力もまたそこにあります。

広大なルート66を滑走する2台のチョッパー。そこに流れるアメリカン・ロック。そして登場する60年代ファッションに包まれた登場人物たち。従来の映画作りに対して反逆したドロップアウトしかけの若者たちが勢揃いしたその異様な熱気。今私たちが失いつつあるものが、この作品の中には、明確に存在しています。

この作品は問いかけます。「男は恋人とではなく、男同士で旅に出るのだ!(女に置き換えても良し)」と。それこそが男の魅力を磨き上げる最高の方法だと。旅がヒッピーの本質であるならば、男の魅力の格上げの本質も旅にあるのです。

作品データ

作品名:イージー・ライダー Easy Rider(1969)
監督:デニス・ホッパー
衣装:記載なし
出演者:ピーター・フォンダ/デニス・ホッパー/ジャック・ニコルソン/カレン・ブラック