テール ドゥ エルメス アンタンス
原名:Terre d’Hermès Intense
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2025年
対象性別:男性
価格:50ml/15,070円、100ml/20,460円
公式ホームページ:エルメス

かなり貴重な天然のリコリスと焙煎コーヒーがブレンドされた香り

©Hermès

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エルメスに入社した頃、ジャン=クロード・エレナと一緒に働いていました。この時は「テール ドゥ エルメス」に触れるなんて考えもしなかったです。でも彼が引退し、私がエルメスで一人ぼっちになった時、この香りを理解しないといけないと考え直しました。
そこで私は「テール ドゥ エルメス」を分解し、ゆっくりと、いわばひとつひとつ成分を剥ぎ取っていったのです。核心、心臓部に到達するまで。そしてテールの真髄と思えるものに辿り着いたのでした。
クリスティーヌ・ナジェル
20世紀にエルメスのメンズ・フレグランスの歴史を築き上げた香りは二つありました。1970年の「エキパージュ」と1986年の「ベラミ」です。しかし、エルメスはその後、20年間、メンズ・フレグランスのヒット作を生み出すことが出来ませんでした。
そんな中、2004年にエルメス史上初の専属調香師になったジャン=クロード・エレナが、2006年に、エルメスの新たなシグネチャーとなるメンズ・フレグランス「テール ドゥ エルメス」を誕生させました。
「テール ドゥ エルメス」とは、フランス語で「エルメスの大地」の意味です。この香りは、エレナにとって「地中海の庭」「ナイルの庭」、そして、5作発表していた「エルメッセンス」の次に発売された作品でした。さらに「オー デ メルヴェイユ」(2004年)と対を成すフレグランスの位置づけも与えられた香りでした。
イソEスーパーを世界中に広めたこの香りは、メンズ・フレグランスにウッディ革命を起こし、史上最高のベチバー/グレープフルーツ・フレグランスとして、現在に至るまで確固たる地位を確立しています。
この香りを〝モニュメント〟と呼び、ずっとずっと愛していた女性がいました。その女性の名をクリスティーヌ・ナジェルと申します。クリスティーヌは2014年3月にエルメスに入社し、エレナの下で二年間の引継ぎ期間を経て、2016年1月に二代目専属調香師に就任しました。
そして、彼女は後継者として、自分自身のエルメスのメンズ・フレグランスを生み出すという〝恐ろしく高い山〟に到達するために、まず最初に、この香りの精神を理解しないといけないという強い使命感からフランカーとして「テール ドゥ エルメス オー インテンス ベチバー」を2018年に誕生させました。
その次に、2021年にクリスティーヌは、エルメスにおける念願のオリジナルのメンズ・フレグランス「H24」を誕生させました。さらにその翌年の2022年に〝The Heat of Ice=氷に秘められた熱〟をテーマに生み出されたのが「テール ドゥ エルメス オー ジヴレー」でした(6月3日より日本で発売)。
「H24」三連作が好調な中、クリスティーヌにとってもはや「テール ドゥ エルメス」は、これ以上掘り下げる必要のないテーマになったかと思いきや、彼女の「テール」への愛はもっともっと深まっていきました。そして2025年3月3日に「テール ドゥ エルメス アンタンス」が発表されたのでした。
〝アルティメット・エルメス〟とでも呼びたくなるような『ラストボス感がある香り』です。
あなたの中心で眠るマントルをマグマに変える香り

この新作は、土の要素がより燃えるようなもの、つまり火山へと昇華しています。私は溶岩を噴き上げる大地の内なる力、その強さにとても惹かれます。20年間、オリジナルに忠実であり続けた人なら、非常に強烈な何かがあることを感じていることでしょう。
この強烈さを新作でどう表現するか?テールは常にフレッシュなトップノートを持つため、力強く生き生きとしたベルガモットにブラックペッパーを添え、より燃えるようにピリッとしたマグマのようなエッジを与えました。さらに内なる炎の力強さを伝える焦がしたシダーウッドのノートを組み合わせ、ダークで燃えるような熱さを表現したいと思いました。
この火のコンセプトに取り組んでいる最中、あるサプライヤーが来て、様々な原料を見せてくれました。まずは焙煎コーヒーです。色と品質の一貫性を保つために、これまでは扱いが難しかったのですが、遂に完璧な焙煎コーヒーが再現されました。焦げたような香りがして、とても興味深い素材でした。
さらに幸運なことに南ヨーロッパ全域に生息するカンゾウ(Glicyrrhiza glabra)の根から抽出された天然のリコリスも入手できたのです。香水におけるリコリスの香りは、厳密には調香師が作り出すもので、様々な成分を混ぜ合わせたものです。天然のリコリスを実際に見たのはこれが初めてでした。
シダーウッド、焙煎コーヒー、そしてリコリスを混ぜ合わせることで、ウッディで温かみのある、とてもホットな香りが生まれました。リコリスの下地に、より力強い香りを加えるためにコーヒーを使いましたが、コーヒーの香りがしないような香りにしたかったんです。
クリスティーヌ・ナジェル
地球と人間は永遠の絆で結ばれている、それが「テール ドゥ エルメス」のテーマです。
クリスティーヌが「第三のテール ドゥ エルメス」を創作しようと考えたきっかけは、数年前、グアテマラの火山に登った体験からでした。とても大変な登山で、息切れし、足は痛み、脇腹は痛み、死んでしまうかと思いながら頂上にたどり着いた時、この溶けた大地の力強さを肌で感じたのでした(その時の溶岩のかけらを今も所有しているという)。
グアテマラにはフエゴ山という毎年噴火している活火山があります。
地球の中心にはマントルという固体の岩石があります(地球の約8割を占める)。この岩石が溶けたものがマグマです。活火山とは、このマグマが地表に出ようとする蓄積された力により上昇し、地上に吹き出る噴火口がある山のことです。
クリスティーヌは、それと同じ状況を人間の肌で体現したいと考えました。常に肌の下に燃え上がる炎。一瞬の炎ではなく、長く温かく続く炎を再現したいと考えたところから創作ははじまりました。
グルマンになったテールドゥエルメス=大地をおいしくいただく香り

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「テール ドゥ エルメス」のもう一つの重要な要素はミネラル感であり、ジャン=クロード・エレナはこのために火打石の香調を採用しました。前二作ではこの香調を引き継いでいましたが、今回のテーマは火山なので、溶岩石を使わなければなりません。
しかし、溶岩石の抽出物は存在しません。そこで、私はその密度と軽さの両方を表現する溶岩石の香調として新しいミネラルアコードを作りました。それが溶岩石の二面性だからです。その結果、熱気に満ちた深みと官能的な香りを保ちつつ、軽やかでそよ風のような誘惑的な包み込み感が生まれました。
最近、多くのメゾンが非常に強い香りを作ろうとしていて、それが少し気になります。私はよく美味しい料理に例えます。熱すぎたり、スパイシーすぎたりすると、繊細な味わいが感じられず、強さがすべてを覆い隠してしまうのです。私の仕事は、香りに強烈な個性を与えることであり、素材で強烈にしたり、その 濃度を圧倒したりしないことでした。
クリスティーヌ・ナジェル
クリスティーヌ・ナジェルが、ジャン=クロード・エレナによるオリジナルの「テール ドゥ エルメス」を愛する理由としてあげていた〝赤い大地、暖かい野生〟のイメージに〝霜〟や〝氷〟の概念も追加した前の作品に、更なる深みをもたらしていくために〝地底〟に湧く巨大なエネルギーという概念も追加したのが「アンタンス」です。
シンプルな視点からこの香りを見ると〝グルマンになったテール ドゥ エルメス=大地をおいしくいただく香り〟ですが、しっかりと肌に乗せて、お付き合いしていくとより深い味わいが感じられます。
グレープフルーツではなく、ミネラルをたっぷりふくんだベルガモットが、ピリっと強烈にスパークリングするようにして「アンタンス」ははじまります。そしてブラックペッパーが〝大地の鼓動〟を加えてゆきます。
すぐにブラックペッパーに導かれ、素肌の上で焦がしたダークチョコレートのようなリコリスが力強く響き渡り、温かいコーヒーに洗い流されてゆきます。この香りが興味深いのは、コーヒーにミネラルが注ぎ込まれていくような、独特な高揚感を穏やかに感じさせる所にあります。
やがてきらめくパチョリと土っぽいベチバーの余韻が広がり、焙煎されたコーヒーの旨みが引き上げられ、ほのかに甘い苦みで、スパイシーなベルガモット。
まさに地底で荒れ狂う灼熱の炎が、溶岩を焼きながら、地表に突出していくかのように、素肌が炎に包まれていくような不思議な感覚に満たされてゆきます。
美味しくて飲みやすく、飲むのが止めれなくなる素肌で飲むコーヒー

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人間と地球の関係を表面からではなく、その中心から表現したいと思いました。炎がくすぶる地球。より暗く、より暖かく、より燃え盛って、より激しい地球。しかし同時に、人間により親密で、より激しい側面を駆り立てる内なる炎を表現する側面も探求したいと思いました。無限に循環する内なる炎、人間にその起源を思い出させる自然の力を身にまとう人に感じてもらえればと思い創造しました。
クリスティーヌ・ナジェル
クリスティーヌのテーマは、古来から人間が持っていた感覚で、現代人が失いつつある原始の感覚を、静かな雷鳴のような響きと共に、香りで蘇らせることです。まさに男の中に眠るマグマを目覚めさせるような香りです。
フィリップ・ムケがデザインしたボトルは、ガラスとアルミニウムの2つの再生素材で制作されており、まるで焼け溶けたかのようなレッドブラウンのラッカー装飾がサイドを包み込み、秘めたる炎を連想させる底面のアイコニックな「H」へと続きます。そしてメタル製キャップのマットブラックの色合いは、溶岩石を彷彿とさせます。
美味しくて、飲みやすくて、飲むのが止められなくなるコーヒーのように、最高のブレンドが施されているコーヒーの香りです。
香水データ
香水名:テール ドゥ エルメス アンタンス
原名:Terre d’Hermès Intense
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2025年
対象性別:男性
価格:50ml/15,070円、100ml/20,460円
公式ホームページ:エルメス

トップノート:ベルガモット、ブラックペッパー
ミドルノート:コーヒー、リコリス
ラストノート:バーニングウッド、ラバストーン(溶岩石)、ミネラルノート

