ミス ディオール シェリー(オリジナル)
原名:Miss Dior Cherie
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2005年(現在廃盤)
対象性別:女性
価格:30ml/6,825円、50ml/10,500円
21世紀の元祖「ミス ディオール」
私が大学を卒業し、憧れのフィルメニッヒ社で科学者として働くようになったときの最初の仕事は、調香師が興味を持ちそうな新しい香りの分子を自然界から探し出すことでした。そこで私は、ストロベリーの緑色から熟れすぎた状態まで、あらゆる熟れ具合を研究しました。
クリスティーヌ・ナジェル
このフレグランスが、21世紀にはじめて発売された「ミス ディオール」です。
クリスチャン・ディオールの生誕100年を記念して2005年にこの香りは発売されました。当時、元祖「ミス ディオール」のネーミングのきっかけとなったカトリーヌ・ディオール (1917—2008年)は存命中でした。
「ミス ディオール」は、1947年発売当時、30歳の妹(及び同年代の女性)のために作られた香りでした。しかし、「ミス ディオール シェリー」は、それよりも遥かに下の年代の女性をターゲットにした香りでした。グルマンシプレの香りは、当時ジボダンに在籍していた、現エルメスの専属調香師クリスティーヌ・ナジェルにより調香されました。
元祖「ミス ディオール」のシプレにグルマンの要素を足した香りなのですが、ストロベリーシャーベットとキャラメルポップコーンというかなり個性的な甘い(甘すぎる)香り立ちに終始包まれます。
ボトル・デザインは、当時の10代から30代の女性の心を見事に掴みました。千鳥格子柄のボトルとキャップについたリボンが印象的であり、その中に淡いオレンジ色の水が注ぎ込まれているのです。
ジョン・ガリアーノのミス ディオール
私はクラシカルなものをリブランドするつもりは毛頭ない。新しいミス・ディオールの中に入っているのが、昔のミス・ディオールであるという風にはしたくなかった。ファッションが進化するように、香りも進化しなければならないのです。
ジョン・ガリアーノ
当時のディオールのクリエイティブ・デザイナー(1996-2011)だったジョン・ガリアーノが、スティーヴィー・ワンダーの名曲「マイ・シェリー・アモール」から触発され、1947年SSのコレクションでクリスチャン・ディオールが、若き日のブリジッド・バルドーのためにデザインしたシルク・ドレス「Cherie」を思い出し生み出されたのがこの香りです。
「シェリー」と命名したこの香りの「シェリー」とはフランス語で「かわいい人、いとしい人」の意味です。
キャンペーン・モデルの選抜に関して、ジョン・ガリアーノは16歳の少女を選びました。彼女はエルヴィス・プレスリーとプリシラ・プレスリー(『裸の銃を持つ男』シリーズで有名)の娘リサ・マリー・プレスリー(マイケル・ジャクソンの元妻)の愛娘ライリー・キーオ(1989-)です(フォトグラファーは、ニック・ナイト)。
ガリアーノは、彼女はフランス人ではないが、「シェリー」の持つ〝生きる喜び〟を体現していると感じたのでした。そして、彼女のためにアルティメット・ディオール・ジャケットをデザインしました。
エルメスの調香師が昔作ったミス ディオール
21世紀に蘇りし「ミス ディオール」は、ジューシーなストロベリーとチェリー、パイナップルの独特な香りが、シャープなグリーン・タンジェリンに掻き混ぜられ、シャンパンのように弾ける中、祝福を肌に感じるようにしてはじまります。
背後に感じるとても存在感のあるパチョリが、三つの果実にまだ熟していない青い果肉の新鮮さを感じさせます。そこには悪魔を誘惑しようとして、靴下をなおす裸の若い女性のような、みずみずしさの中に、効し難い誘惑の意図が隠されているようでもあります。
やがて、ローズとジャスミンのフローラルの風に乗って、何物かが押し寄せてくる予感を感じます。それは甘いことだけは確かなどこかキャンディーっぽさもある何とも形容しがたい不思議な香りです。だんだんとその香りは輪郭を現し、バターキャラメルのシロップがかけられた塩味の効いたポップコーンが肌の上で弾けてゆくのです。
そして、うら若き女性の魅力は真夜中に磨かれると言わんばかりに、ダイヤモンドのようなきらめきと透明感をクリスタルムスクとアンバーに託し、この21世紀の「ミス ディオール」が、捥ぎ取るには早すぎる果実の妖しい香りと、貪りたくなるお菓子の手ごろな香りの不思議なバランスを感じさせながら〝愛する心を失ったストロベリーに、あなたが愛とは信じる心であることを肌の上で教えて差し上げる〟のです。
だからこそ、この「ミス ディオール シェリー」は、恋人と純粋に楽しむノスタルジー溢れるムードをキャラメル・ポップコーンによって呼び覚まし、パチョリの囁きによって、ストロベリーの魅力を呼び覚ますような調香が施されているわけなのです。
それは何層にも重ねられた上質なケーキのように、全く違う触感の素材を重ね合わせた一流のパティシエが作り上げた10代の女性のための最高級スイーツのようでもあります。
1992年にティエリー・ミュグレーから発売された「エンジェル」=グルマンと、2001年にシャネルから発売された「ココ マドモアゼル」=フルーツパチョリの影響を受けた香りとも言えます。
2005年から2011年までこの香りは発売されました。2012年に「ミス ディオール」にネーミングがチェンジされるまでの間に、世界で5番目に売れているフレグランスの地位にまで駆け上りました。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「ミス ディオール シェリー」を「パチョリ・ストロベリー」と呼び、「昔ながらの、今は見る影もない「ミス ディオール」をもとにしたディオールの甘さは、標準的なフルーティ・フローラルのそれよりずっといい。」
「ストロベリーとローズ、それにパチョリをメインに据えたミス・ディオール・シェリーのアコードは、まとまりがあり、均一でバランスがとれているように思う。ただ、これは女主人というよりも乳母のイメージだ。それも博士号をもった乳母。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:ミス ディオール シェリー(オリジナル)
原名:Miss Dior Cherie
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2005年(現在廃盤)
対象性別:女性
価格:30ml/6,825円、50ml/10,500円
トップノート:グリーン・タンジェリン、パイナップル、チェリー、ストロベリー
ミドルノート:ピンクジャスミン、ローズ、ヴァイオレット、キャラメル、ポップコーン
ラストノート:クリスタルムスク、パチョリ、アンバー