サントス ドゥ カルティエ
原名:Santos de Cartier
種類:オード・トワレ
ブランド:カルティエ
調香師:ダニエル・モリエール
発表年:1981年
対象性別:男性
価格:不明
世界初の男性用腕時計「サントス ドゥ カルティエ」
「サントス ドゥ カルティエ」は、カルティエが英国王エドワード7世によって初めて公式の王室御用達に認定された1904年に作られた世界初の男性用の腕時計です。
ちなみに腕時計自体はその100年近く前から、女性用のアクセサリーとして存在していました(1868年にパテック・フィリップが、ハンガリーのコスコヴィッチ伯爵夫人のために最初の高級腕時計を製作)。
「サントス ドゥ カルティエ」は3代目当主ルイ・カルティエが、友人であるブラジル人飛行家アルベルト・サントス=デュモン(1873-1932、わずか14歳で最初の熱気球を操縦した航空界のパイオニア)のために、飛行中に懐中時計で〝飛行時間〟を確認するのは大変だという声に応えて、腕に着けることを前提として生み出したものでした。
サントス=デュモンに贈られた腕時計は、丸いケースが主流だった時代に、大胆にも四角いケースを採用し、瞬時に読み取ることができる大きさで、墜落しても耐えられるような頑丈な作りであり、メンズライクなレザーストラップでした。
「サントス ドゥ カルティエ」は、その型破りなスクエアフェイスから、飛行機の機体のリベットを露出させた目立つベゼル(エッフェル塔の脚も想起させます)を特徴として、〝勇者には報酬がない〟という英雄精神と、腕時計の美しさと機能性の両方を実現したのでした。
さて、1903年12月17日にライト兄弟が世界初の有人動力飛行に成功するのですが、それは飛行機としての条件を果たすものではありませんでした。実際のところ、1906年11月12日にサントス=デュモンがみずから設計・製作した飛行機が、史上初めて完全に自力で空を飛ぶことを実現したのでした(1897年からパリで飛行実験を行っていた)。
『サントスの悲劇』
その後数年間、サントス=デュモンは飛行時間と速度が増すにつれて記録を更新し続けました。そして飛行のたびに、彼の腕には「サントス ドゥ カルティエ」がありました。彼は〝飛行機王〟としてメディアで大々的に取り上げられ、時代の寵児となりました。
誰もがサントス=デュモンのようなカルティエの腕時計を欲しがりました。「サントス ドゥ カルティエ」が一般向けに販売されるようになったのは、時計職人のエドモンド・イェーガーに依頼し、1911年に量産された「カルティエ サントス-デュモン」という名の時計からでした。
ちなみにサントス=デュモンは、のちに37歳の若さで多発性硬化症を発症し、隠居生活を送ることになりました。そして、第一次世界大戦で彼が発明した飛行機や飛行船が戦争に使用されている事実に失望し、自殺したのでした。
一方、「サントス ドゥ カルティエ」の衰退は、第二次世界大戦の勃発と共にやって来ました。それは軍用の腕時計に丸型が要求されるようになったからでした。
そして、サントスは不死鳥の如く蘇えりました。
やがて時は流れ、1972年に世界初のラグジュアリースポーツウォッチとしてオーデマ・ピゲが「ロイヤル オーク」を発表し、さらに、1976年にパテック・フィリップの「ノーチラス」が発表されたことにより、高級スポーツウォッチ市場は一気に盛り上がることになりました。
その流れに乗るために時のカルティエ社長アラン・ドミニク・ペランが、デザインを、バイメタル(ケースとブレスレットの一部にゴールドを使用する)という斬新な発想と共に一新し「サントス ドゥ カルティエ」を1978年10月20日に復活させたのでした。
この「サントス ドゥ カルティエ」の成功が、王族やお金持ちにしか知られていなかったカルティエをより一般的な人々の〝ラグジュアリーの象徴〟へと広げていったのでした。
ジェームズ・ボンドが発表したカルティエの〝最初の香り〟
1981年9月17日、フランス・パリのヴェルサイユ宮殿にて、歴史上初のグリーンオリエンタルの香りとして、カルティエのファースト・フレグランス「マスト ドゥ カルティエ」が、当時のジェームズ・ボンドであるロジャー・ムーアとフランスの名優ジャン・ロシュフォールを主賓に、ディスコ調のバレエと共に、盛大に発表されました。
この時、一緒に発表されたカルティエ初のメンズ・フレグランスが「サントス ドゥ カルティエ」でした。〝Certains Hommes Sont Or Et Acier=ある種の男たちは、黄金と鋼鉄で作られている〟というテーマで生み出されたこの香りは、「タムダオ」(2003)を後に調香するダニエル・モリエールにより調香されました。
鋼鉄の翼を持つ男たちに捧げられたこの香りは、ビターグリーンなガルバナムと、ハーバルなラベンダー、バジル、レモンヴァーベナに、ドライジンのようなジュニパーベリーが振りかけられ、鋼のようなアロマティックの冷たさからはじまります。と同時に、ベルガモットが弾け、大空に羽ばたくエアリーな爽快感に満たされてゆきます。
すぐにスパイシーなナツメグ、ペッパーが注ぎ込まれ、ゼラニウムとクラリセージを中心としたハーブもさらに追加され、アロマティック・フゼアの優雅な輝きに包まれてゆきます。
やがて、スモーキーなベチバーが広がり、パチョリと結びつき、レザーのようなコーヒーの芳香を漂わせてゆきます。それはまさにサントス=デュモンがコーヒー農園の大富豪の息子として生まれた出自を感じさせるようです。
そしてだんだんと、すべてが黄金のアンバーとバニラに飲み込まれ、クリーミーなサンダルウッドとアーシーなベチバー、ミルキーなココナッツ、ドライなシダーウッドが滑らかにブレンドされ、酸味を含んだ石鹸のような、エレガントな甘い余韻を広がらせてゆくのです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「サントス ドゥ カルティエ」を「ウッディ・オリエンタル」と呼び、「面妖な、しかも汚く年をとった野獣。甘いウッディオリエンタルで、「パコ ラバンヌ プールオム」の胸毛の濃いお兄さんといったところ。どちらにしてもたいして独創的でも好ましい香りでもない。このスタイルが好きならキャロンの「ヤタガン」を買ったほうがいい。」と2つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:サントス ドゥ カルティエ
原名:Santos de Cartier
種類:オード・トワレ
ブランド:カルティエ
調香師:ダニエル・モリエール
発表年:1981年
対象性別:男性
価格:不明
トップノート:ジュニパーベリー、ラベンダー、バジル、レモンヴァーベナ、ベルガモット、ガルバナム、ネロリ
ミドルノート:ナツメグ、ペッパー、ゼラニウム、ローズマリー、ベチバー、クローブ、クラリセージ
ラストノート:シダー、パチョリ、サンダルウッド、アンバー、ココナッツ、バニラ