チューダー ローズ & アンバー コロン
原名:Tudor Rose & Amber Cologne
種類:オーデ・コロン
ブランド:ジョー・マローン・ロンドン
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2015年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/17,600円
〝英国の五つの栄光の時代〟をボトルに封印した「ロック ザ エイジ」
2015年2月20日(金)に、ジョー・マローン・ロンドンより5種類の「ロック ザ エイジ」コレクションが限定販売されました。大英帝国の5つの栄光の時代を讃えた香りでした。
- チューダー ローズ & アンバー コロン(チューダー朝時代、1485年~1603年)
- リリー オブ ザ ヴァリー & アイビー コロン(ジョージ王朝時代、1714年~1830年)
- ポメグラネート ノアール コロン(ヴィクトリア朝時代、1837年~1901年)
- ゼラニウム & バーベナ コロン(エドワード朝時代、1901年~1910年)
- バーチ & ブラック ペッパー コロン(現代の英国)
この5種類の中のひとつ「チューダー ローズ & アンバー コロン」が、2021年に新宿伊勢丹、京都伊勢丹等の一部ジョー・マローン・ロンドン店舗で100ml限定販売されていました。この香りはクリスティーヌ・ナジェルにより調香されました。
2005年にビバリー・ベインが調香した「ポメグラネート ノアール コロン」以外は、このコレクションの香りは、すべてクリスティーヌ・ナジェルによる新作でした。そして、このコレクションは、過去の一時代を香りによって表現するというひとつのチャレンジでした。
つまりは、私たちが存在しなかった時代への嗅覚の時間旅行を実現する香りでした。
英国の歴史の中で、最も重要かつユニークな時代の雰囲気を香りで捉えるというアイデアに私は夢中になりました。それぞれの英国の時代には、世界中の人々を夢中にするドラマや個性が存在します。そういったものを知性と感性に強く訴えかける遊び心の伴った香りとして表現していったのです。
クリスティーヌ・ナジェル
ブラッディ・チューダー・ローズの香り
この香りは、チューダー朝時代のダークな荘厳さとドラマティックな戦いと内紛からインスパイアされました。ローズの暗黒面を香りの中心に座らせ、ダマスクローズとチューダーの剣を連想させるメタリックな側面を持つ(架空の)チューダーローズを使用しました。
これらのローズに、アンバーの官能的なウッディな温かみと、スパイシーなクローブを加えました。
クリスティーヌ・ナジェル
英国史史上チューダー朝(1485-1603)ほど血塗られた王朝は存在しません。すべては30年以上続いた薔薇戦争の終焉からはじまりました(チューダー家の紋章は、ランカスター家の赤薔薇とヨーク家の白薔薇を合わせた意匠である)。
1485年にボズワースの戦いでヘンリー7世(1457-1509)は勝利し、戦いで王座を得た最後のイングランド王となりました。チューダー朝のはじまりは薔薇戦争の果てに、リチャード3世の屍を乗り越えたところからはじまったのでした。
第二代のヘンリー8世(1491-1547)は2番目の王妃アン・ブーリンをはじめとする多くの人間を処刑した血塗られた王でした。そして、病弱のため僅か15歳で崩御した第三代のエドワード6世(1537-1553)を経て、メアリー1世(1516-1558)が第四代の女王に即位するのでした。
ブラッディ・メアリーの登場です。彼女が即位する9日前に、ジェーン・グレイ(1537-1554)という女性がイングランド史上初の女王に即位するのですが、メアリーによって僅か9日で廃位され、自ら王位継承し、彼女を後に処刑するのでした。
さらに父ヘンリー8世が行った宗教改革を覆し、ローマ教皇を中心とするカトリック世界に復帰し、プロテスタントを迫害し、女性や子供を含む約300人を処刑しました。
メアリーの死後、チューダー朝最後の女王エリザベス1世(1533-1603)が1558年11月に即位しました。彼女の母は処刑されたアン・ブーリンでした。1588年のスペイン無敵艦隊に対する勝利を得るも、スペインやアイルランドとの戦争は泥沼化し、国力は著しく低下しました。
しかし、彼女の治世中、ウィリアム・シェイクスピアをはじめとする英国文学が開花しました。以上が、この香りの背景なのです。
グリューワインのようなダークローズの香り
4つの香りの中でこの香りが一番苦労しました。フレッシュ、グリーン、軽やかさ、ロマンティック、スパイシー、ハニーといったあらゆるローズの個性を損なうことなく、ローズの暗黒面を生み出すということは難解なパズルのようでした。
最終的にダマスクローズとチューダーローズ・アコードに落ち着きました。この実在しない薔薇には、血塗られたチューダーソードのようなメタリックな側面を与えました。
クリスティーヌ・ナジェル
まるで血塗られたグリューワインのようなこの香りは、豪華絢爛たるヘンリー8世のチューダー朝時代に、英国の街は史上最悪の治安によって汚れた街路となり、その悪臭を隠すためにクローブ入りのポマンダーを使っていたという逸話から、クリスティーヌがヒントを得たクローブが使用されています。
そんな〝チューダーの血塗られた薔薇の香り〟はピンクペッパーとジンジャーの香りからはじまります。さぁ、愛と戦争の香りのはじまりはじまり。すぐにジューシーなジンジャーの奥からダマスクローズが現れフレッシュローズとなります。
やがて、チューダーの剣が現れます。ピンクペッパーが剣=クローブと選手交代し、ジンジャーがローズを少しジャミーにしてゆきます。
グリューワインのようなダークローズでありながら、フレッシュ、グリーン、軽やかさ、ロマンティック、スパイシー、ハニーといったあらゆるローズの側面を持つワインに全身が漬け込まれるように香りは、吹き出た血液が、元の場所に収まっていくように肌に馴染んでゆきます。
気品のあるダークローズ。官能的であるというよりも、一般的な人間の感覚を超越したようなチューダー朝時代の女王の肖像画のようなローズです。たしかにこの香りには、流血を予感させる闇の引力が存在するのですが、ジョー・マローン・ロンドン時代のクリスティーヌの恐ろしさは、フルーティーさによって、秋元康のようにキャッチーに響く〝ダークローズ〟のニュアンスを投げかけてくれるところにあります。
やがて、美しく光沢のあるアンバーがローズと入れ替わるように存在感を示し、パチョリ、ホワイトムスクと共に、クローブと見事に調和し、血液のようなメタリックな余韻をほんのりと漂わせながら、温かく包み込むように消えゆくのです。
「レッドローズ コロン」とのコンバイニングは、香り全体にローズの自然の美しさと強さを加え、ローズがこれまでなく開花してゆきます。
それはまるでチューダー朝がその後大英帝国になり、ヴィクトリア女王の薔薇=ラレーヌヴィクトリアへと転生していくように『豪華絢爛たるレッドローズの究極形態』となります。
ステラ・マッカートニーの「ステラ」とよく比較される香りです。
香水データ
香水名:チューダー ローズ & アンバー コロン
原名:Tudor Rose & Amber Cologne
種類:オーデ・コロン
ブランド:ジョー・マローン・ロンドン
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2015年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/17,600円
トップノート:クローブ、ピンクペッパー
ミドルノート:ダマスクローズ、ローズ、ジンジャー
ラストノート:アンバー、パチョリ、ホワイトムスク