【007 慰めの報酬】
Quantum of Solace 前作『007 カジノ・ロワイヤル』で六代目ジェームズ・ボンドに就任したダニエル・クレイグ(1968-)が、トム・フォードというQを手にし、ボンドを全人類に対してのファッション・アイコンに押し上げたのは、この作品からでした(この作品までは、あくまでボンド好きにとってのファッション・アイコンだった)。
ボンドのほとんどの衣裳はトム・フォードにより作られ、ボンドガール二人の衣裳は、ミウッチャ・プラダにより作られました。そして、メインのボンドガールのオルガ・キュリレンコ(1977-)の役柄が、今までのあらゆるボンドガールとは違うものであり、最後までボンドと寝る事がないというのもシリーズ初の展開でした。
肝心の作品自体は、折角の素晴らしいアクション(アストンマーティンDBSを駆使した派手なカーチェイスや、鍛え上げられたボンドによる肉弾戦)が、コマ切れの様なカット割りにより逆に迫力がなくなり、ストーリーの構成の悪さと、お約束の排除(Qとマネーペニーの不在など)によって、精彩を欠くものになってしまいました。
しかし、ダニエル=ボンドとオルガ=ボンドガールの傷ついた心が共鳴し、死闘の中で生まれていく男女を越えた素敵な友情にきゅんとすることでしょう。
あらすじ
前作『007 カジノ・ロワイヤル』でジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)が誕生したその直後から物語は始まります。イタリアのシエナで、ヴェスパー・リンドを影で操っていたというミスター・ホワイトを捕まえたボンドは、彼をアストンマーティンDBSのトランクに詰め込み、アルファロメオを運転する謎の刺客たちとカーチェイスを繰り広げます。
凄まじい追跡をかわし、無事、M(ジュディ・デンチ)が待機するセイフティ・ハウスに到着したボンドは、ミスター・ホワイトを尋問するも、内部の裏切り者により、ホワイトに逃亡されてしまいます。大追跡劇の末に裏切り者を容赦なく射殺するボンドは、全ての謎を解く鍵がハイチにあると知り、かの地へ向かいます。
そこで、謎の美女カミーユ(オルガ・キュリレンコ)と出会います。彼女の後をつけると、環境NPO法人グリーン・プラネット代表のドミニク・グリーン(マチュー・アマルリック)と、ボリビアのメドラーノ将軍が秘密の取引をしている所に、カミーユが加わり姿を目撃します。
実はカミーユは、グリーンの愛人なのですが、それは彼女の家族を惨殺したメドラーノ将軍を復讐する機会を掴むためでした。
無謀な復讐を行おうとした時に、ボンドが乱入し、将軍への復讐を果たせませんでした。モーターボートでの壮絶なチェイスの中で、二人は共闘することになります。失神したカミーユを後に残しボンドは、プライベートジェットでオーストリアに入ったグリーンの追跡を開始します。
オペラ「トスカ」の観劇を利用した秘密会議を目撃し、グリーンが謎の秘密組織クアンタムの幹部であることを知ります。そして、悪事に加担していた裏切り者のイギリス首相の護衛官を射殺します。
ヴェスパー・リンドの死に対する復讐心から片っ端に敵対者を殺害するボンドを強く咎めるM。任務続行が不可能だと考えた彼女により、クレジットカードやパスポートを停止されたボンドは、イタリアのタラモーネの別荘にいる旧友マティス(ジャンカルロ・ジャンニーニ)を訪ねます。
マティスと共にボリビアに到着するとすぐに英国諜報部の新米諜報部員ストロベリー・フィールズ(ジェマ・アータートン)が、ボンドを英国に連れ帰るために現れます。しかし、逆にボンドはその魅力でストロベリー・フィールズを篭絡してしまうのでした。
さて、三人はグリーンが主催するパーティに参加します。ボンドがそこでカミーユと再会したのも束の間、マティスを殺害されてしまいます。ボンドはカミーユと飛行機を調達し、グリーンが将軍から獲得した土地に秘密が隠されているはずだと侵入を試みます。
敵襲により不時着した二人は、共に復讐者であることを知ります。翌日、グリーンの獲得した広大な土地に到着した二人は、グリーンが水を堰きとめ、水資源を独占し、ボリビアに水不足を引き起こし大儲けしようとしていることを知ります。
ひとまずホテルに戻ったボンドは、待ち構えていたMにより、自室で全身に原油を塗りたくられ殺害されたストロベリー・フィールズを見せられ、職務停止を宣告されます。逃走し、孤立無援の中、CIAのフェリックス・ライターの協力により、グリーンが砂漠のラ・デュナス・ホテルで水資源の契約をするという情報を手に入れます。早速、カミーユと共に、ホテルに乗り込む二人。果たして二人は各々の復讐を果たすことが出来るのだろうか。
ファッション・シーンに与えた影響
この作品がメンズ・ファッションに与えた影響は、核弾頭級です。それは、トム・フォードのボンドスーツが登場したはじめての作品だからです。この作品により、ダニエル・クレイグは、地球上の魅力的な男たちが目指すメンズ・アイコンになったのでした。
更にボンドガールのプラダのドレスや、悪党のグッチやクロムハーツなどハイブランドが散りばめられた作品でもありました。そんな本作が、ファッション・シーンに与えた影響は、以下の三点でした。
- トム・フォード×ダニエル・クレイグのコンビにより果たされた〝スーツの復権〟
- ダニエル・クレイグが更に突き進み示したオフスタイルの魅力
- オルガ・キュリレンコがプラダドレスで教えてくれる、新しいドレスとの付き合い方
この作品の全てはトム・フォードを着たダニエル・クレイグを鑑賞するために存在しているといっても過言ではないほどに、前作のブリオーニのスーツを着ていたときの野暮ったさが、一新されています。
二つの作品のダニエルを見比べると、スーツによって同じ人間の魅力がどれだけアップデイトされていくかということ知ることが出来るでしょう。
作品データ
作品名:007 慰めの報酬 Quantum of Solace(2008)
監督:マーク・フォースター
衣装:ルイーズ・フログリー
出演者:ダニエル・クレイグ/オルガ・キュリレンコ/ジェマ・アータートン/マチュー・アマルリック