フィロシコス
原名:Philosykos
種類:オード・トワレ
ブランド:ディプティック
調香師:オリヴィア・ジャコベッティ
発表年:1996年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/16,940円、100ml/23,100円
公式ホームページ:ディプティック
合成が天然を超えた瞬間
私はなによりもあるゆる種類の木(ウッド)の香料が好きです。木とはドライで、暗くて、グリーンで、涼しげで、燻されていて、とても原始的な芳香がします。
私はあらゆるフレグランスを作る中で ―― それがたとえイチジクの香水であっても ―― まず最初に、どんな木の香りを使おうかという所から調香をスタートします。ウッドは全ての香りを磨き上げてくれます。そして、香りの構造を生み、さらに神秘性さえも生み出すのです。
オリヴィア・ジャコベッティ
ギリシャ語で「イチジクの友」を意味する「フィロシコス」は、真夏のギリシャに生えるイチジクの実と葉と木のすべてをそのまま表現したウッディ・アロマティックの香りです。
それは1996年にオリヴィア・ジャコベッティにより調香されました。ちなみに彼女が、史上初めてのイチジクの香りと言われるラルチザンの「プルミエ フィグエ」を調香したのは1994年のことでした。
イチジクの香りを作るために、ジャコベッティは四つの香料を主に使用しています。ミントのような新緑を生むステモン(ジボダン)と、ココナッツのようなγ-オクタノラクト、ヘディオン(フィルメニッヒ)、そして、イソEスーパー(IFF)です。ちなみにこの香りには、30%以上の濃度のイソEスーパーが使用されています。
この香りのグリーンノートは、青葉アルコールのシス-3-ヘキセノールと、リナロールにより生み出されています。
ギリシャで嗅いだイチジクの記憶。
ディプティックの3人の創業者のうちの2人であるイヴ・クロエンとデスモンド・ノックス=リットは、ギリシャのペリオン山(ケンタウロスの故郷とも言われる)に、4年連続別荘を借り、アトス山でハーブを採取したりしてバカンスを楽しんでいました。
そんな彼らが、何をするにしても、毎日ビーチに向かう道程で必ず横切っていたのが天然のイチジクの果樹園でした。
バカンスも終わり、パリに戻ったデスモンドは、その果樹園からもぎ取っていたイチジクの葉をクリスチャンヌ・ゴトロへのプレゼントとして数枚小箱に入れておきました(アクロポリスの大理石のかけら、ミュケナイの陶器の破片、二人が散歩したビーチの貝殻と共に)。やがて、三人がその小箱の存在を忘れ、数年の時が経とうとしていました。
そして、ある日、ふと見つけたその小箱を空けた瞬間、二人の前に、全く香りを失っていないイチジクの芳香が、あの日々の想い出を鮮明に蘇らせてくれたのでした。そんな彼らが心を解き放つことのできた〝魂の風景〟へのオマージュが「フィロシコス」です。
果汁を感じさせる〝新緑のイチジク〟
「フィロシコス」の香りが解き放たれると同時に、エーゲから吹く生温かい緑の風と共に、イチジクの果樹園の木扉が解き放たれます。本当にうっとりするようなイチジクの香りが最初から最後まで、優しく、柔らかく、それでいて力強く芳香を放ちます。
ココナッツのラクトンノートはトロピカルなムードを一切生み出さず、日焼け止めを微塵たりとも連想させません。そこには一切の酸味が存在せず、どこか理想郷のフルーツの香りがします。
イチジクのグリーンミルキーな果汁が滴り落ちる中、その葉と木(ホワイトシダー)の香りが、暖かい大地と木立の涼しさを感じさせ、決して甘くなりすぎないように見事なバランスを取ってゆきます。
やがて訪れるドライダウンが、濡れたイチジクの果樹園のような何とも形容しがたいノスタルジックな余韻を生み出してくれます。とても詩的でメランコリーな香りです。
言葉を越えた領域を生む天才調香師
私は原始的な香りに惹きつけられます。それは私の中に眠る古代の記憶。自然の木々、水、火の香りです。
オリヴィア・ジャコベッティ
オリヴィア・ジャコベッティという調香師によるこの香りの素晴らしい所は、「香水」でも「オーデコロン」でもなく、「自然の恵み」を作り出したところにあります。この香りを身に纏うと、自然の持つ力が、全身にチャージされていくような気分になるのです。
つまり彼女の香りには、甘い、甘酸っぱい、苦い、辛いなどといった言葉では表現できない自然の複雑さが見事に捉えられているのです。彼女が天才調香師と呼ばれるのは、そんな〝言葉を越えた香り〟を生み出すことが出来るからなのです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「フィロシコス」を「熟したイチジク調」と呼び、「「Sykos」とは、イチジクの実のこと。この作品は、なるほどとうなずけるほどイチジクの印象を強く与え、そして尿様に近い葉、甘いフルーツ調の背景、また土臭い新鮮な香りという、非常にかぐわしい組み合わせである。それというのも、これはオリヴィア・ジャコベッティによって「プルミエ フィグエ」の後に構成されたからである。私の中では「セカンド フィグエ」となっているが、香水製造の業界において、実際はこれこそが初の正式なイチジクなのである。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:フィロシコス
原名:Philosykos
種類:オード・トワレ
ブランド:ディプティック
調香師:オリヴィア・ジャコベッティ
発表年:1996年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/16,940円、100ml/23,100円
公式ホームページ:ディプティック
トップノート:イチジクの葉、イチジク
ミドルノート:ココナッツ、グリーンノート
ラストノート:ホワイトシダー、ウッディノート、イチジクの木、ムスク