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パドック|エルメスの限定香水。それは天国にいちばん近い馬糞の香り

エルメス
©Hermès
エルメス
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パドック

原名:Paddock
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2024年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/不明


シングルノート:干し草、キャロット・シード、アンバー、グラス

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「クロタン・デリシュー(美味しい馬糞)」の香りを生み出そう。

© Christophe Tanière

地中海の庭」の成功により、2004年にジャン=クロード・エレナエルメスの初代専属調香師に就任することになりました。そして、≪嗅覚の詩≫とも言える究極のフレグランス・コレクション『エルメッセンス』が誕生しました。

2016年にエルメスの専属調香師の地位を引き継いだクリスティーヌ・ナジェルは、2018年6月に一挙に4つの素材(ミルラ、ムスク、アガーウッド、シダー)による5作品の〝クリスティーヌのエルメッセンス〟を発表しました。

そして2022年11月2日に4年ぶりに新作のエルメッセンス「ヴィオレット ヴォリンカ」を発表し、さらに2024年3月6日に、ローズウォーターに酔いしれるウードの香り「ウード アルザン」を発表しました。

この「ウード アルザン」を生み出すきっかけになったのは、数年前、クリスティーヌ・ナジェルが「ソー・エルメス」を観覧したことでした。「ソー・エルメス」とは、エルメスが2009年より毎年春に三日間、グラン・バレで開催している国際馬術大会です(2020年と2021年の大会はパンデミックにより中止された)。ちなみに「ソー=saut」は、フランス語で「跳躍」「ジャンプ」を意味します。

2022年に「ウード アルザン」の制作中だったクリスティーヌは、エルメスから「ソー・エルメス」のための限定香水を作って欲しいという依頼を受け再び「ソー・エルメス」に戻ってきました。そして前回と同じくこの時も、一頭を除いてすべての馬が彼女を無視しました。それはエルメス・ライアンというチャンピオン馬でした。

この限定香水プロジェクトは、当初「Crottin Délicieux=クロタン・デリシュー(美味しい馬糞)」というコードネームで呼ばれました。

今回、私を魅了したのは馬の香りだけでなく、馬を取り巻く環境全体でした。藁、木、干し草、革の香り、そしてそこに使われている蜜蝋の香り。信じられないほどでした。

もう一つあったの。それは馬糞です。馬の糞は実は悪臭を放つわけではありません。ただのセルロースです。騎手たちは一日の終わりに家に持ち帰る香りの軌跡、つまりその余韻が好きなんだと思いました。厩舎特有の様々な匂いが混ざり合い、陶酔させるようなものだから。それが私の好奇心を掻き立てたんです。

クリスティーヌ・ナジェル

2024年3月に開催された「ソー・エルメス」に併せて、2月から4月にかけて6週間限定でパリのエルメスのブティック三店舗だけで「パドック」は発売されました。騎手と馬がウォーミングアップする小さな放牧地にちなんで名づけられました。価格は通常のエルメッセンスの約1.5倍です。

2025年夏頃から日本でも数量限定販売されています。ちなみに2025年版は2025年の「ソー・エルメス」に併せて発売され、ボトルのデザインの違ったものとなっています(下の画像参照)。中国出身のデザイナーであるトン・レンによるものです。

©Hermès

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パチョリ・アブソリュートを加えた、さらに官能的な素肌の香り

©Hermès

ヘッドスペース法で、馬糞の中にある芳香分子を収集し、強烈で動物的な深みを持つパラクレゾールなどの複雑な化学物質を発見しました。そして最終的に混合された以下の再現物と調和しました:馬の蹄に塗られる松ヤニ、粉っぽい朝食用オートミール、木の敷きわら、ハーブの香りがするキャロットシード。

クリスティーヌ・ナジェル

クリスティーヌ・ナジェルが人生ではじめて厩舎を訪れた瞬間を香りに投影した「パドック」は、スモーキーで甘やかなハニーを含んだ干し草と、同じくスモーキーなレザー、そしてほんの一絞りのレモンの雫がひとまとめに弾け出したような香りからはじまります。フレッシュさとは無縁のはじまりです。

すぐにスモーキーさの中からアニマリックな肥料を含んだナッツィーな土のような香りが広がってゆきます。やがて馬具のようなレザーと馬の汗のようなアンバーの温かい匂いも加わってゆきます。

とここまで読むと、とんでもなく臭い香りを連想してしまうでしょうが、パウダリーなキャロットシード、ヴァイオレットリーフ、水仙が溶け込み、この香りを手入れの行き届いたエルメスが管理する洗練された厩舎と馬の匂いが滑らかにブレンドされた息を呑むような香りへと導かれてゆきます。

乗馬愛好家のための香りかもしれませんが、素肌に乗せると、エルメスの広告によく登場するような〝しなやかな獣〟の香りを身に纏うことが出来ます。間違いなく、とびきり上品な人に付けて欲しい香りです。

ラルチザンの「ジング!」とも比較される香りです。

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香水データ

香水名:パドック
原名:Paddock
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2024年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/不明


シングルノート:干し草、キャロットシード、アンバー、グラス