ヘルムート・ニュートンとスモーキング
まさに『モロッコ』のマレーネ・ディートリッヒの女同士のキスからインスパイアされた芸術作品です。スモーキングを着た女性に対峙する女性が全裸であるところが素晴らしく、同じ体型の二人が向かい合いキスをする姿は、鏡越しに自分自身にキスをしているように見えます。男装した私と全裸の女性である私自身が向き合いキスをするという倒錯感が「アンドロギュヌス」の本質を突いています。両性具有とは、女性が自分の中の男性を愛することであり、男性が自分の中の女性を愛するということ。それは自分の未知を愛することでもあるのです。
エディ・スリマンによる21世紀のサンローラン「スモーキング」
2012年3月イヴ・サンローランのクリエイティブ・ディレクターとして戻ってきたエディ・スリマン(1996年~2000年までYSLのメンズウエアのディレクターだった)は、ブランド名をサンローランに変え、拠点をパリではなくLAに置いた。
YSLの創立者ピエール・ベルジュはこう言っている。「パリじゃなきゃいけないなんてことはないでしょう。サンローランのイメージはパリだろうって?エレガントなパリジェンヌの時代はもう終わったんです。あのエレガンスはもう存在しない。いずれにしても、イヴ・サンローランはエレガンスという言葉を嫌っていました。だって何の意味もない言葉ですよ。大事なのは、生き方と姿勢なのですから」
2016年4月1日に発表された2016/17AWコレクションをもってのエディの退任。それまでのこれらの「スモーキング」のシルエットの素晴らしさは、メンズラインを含めて、「黒く塗れ!」精神の頂点とも言えるのではないでしょうか?細い女性像が美しいと考えない私でさえも、エディ・スリマンのスモーキングを着る細身の女性は美しく感じてしまうのです。