イヴ・サンローランによって進化したアンドロギュヌス・スタイル
自分が発表した作品の中からどれか一着だけ選べといわれたら、迷わずスモーキングを選ぶ。 イヴ・サンローラン
世界のスターデザイナー43/堀江瑠璃子著 2005年
「スモーキング」アイコン・フォト。スモーキングに6~7cmと思われるブーツを合わせているところが素晴らしい。カマーバンドも見事に全体の調和を満たしており、華奢な女性の腕をより強調するようなショルダーラインの絶妙さと、パンタロンの緩やかな流線が、着るものに気品を与えている。それはまさにここからは決して入ってはいけない処女の泉のような美少年が女装をしてタキシードを着ているかのような幻想を抱かせるのである。
1966年9月26日に、サンローランが念願のプレタポルテライン「サンローラン・リヴ・ゴーシュ」のブティックをパリ6区、左岸にオープンした。この写真はその当日に来店したドヌーブ様が、スモーキングスーツなどを購入した2日後に直々にスタイリングしてもらっている写真である。私はこのドヌーブ様の写真を見て、どうしてもサンローランの格好良さの方に目がいってしまう。つまり、この写真においてはドヌーブ様の大きな頭部が強調されてしまっているのです。そして、スモーキングが全く似合っていないように感じさせるこのドヌーブ様の写真は、私の中で、ベスト5に入る〝大好きなドヌーブ様フォト〟です。美しい人の美しくない姿が、最も美しいと感じます。
もはや女優スイッチの入ったドヌーブ様の隣に控えることの出来る男性は誰もいない。やはりこの当時の彼女こそが、リアル・マリー・アントワネット(ベルばら版)であり、リアルお蝶夫人なのだから。私の脳内ではドヌーブ様は、池田昌子様による「よくてよ」言葉を話す人なのです。
当時フランソワーズ・アルディを筆頭に、「スモーキング」は、ミレーユ・ダルク、ルル・ドゥ・ラ・ファレーズ、ビアンカ・ジャガー、森英恵、ベティ・カトルー、ライザ・ミネリ、ローレン・バコールに愛用された。このアルディのスモーキングの着こなしには寸分の隙もない。それでいて、花園を無邪気に駆け回る彼女の姿が浮かぶところにスモーキングの不思議さがある。
サンローランのスモーキング・スタイルと言えば、外せないのが、ブリジッド・バルドーのこの写真です。しかし、実はこの写真はスモーキングではなく、ピーコートを着ています。ですが、アンドロギュヌス・スタイルとしては、さすがにBBは素晴らしいものがあります。
かなり変わったスタイリング。白のブルトンにダークグレイ地にピンストライプの3ピース。白シャツに黒地にポルカドットのネクタイ。ハイヒールサンダル。
同じスーツを「ハーパーズ・バザー」で着るナティ・アバスカル(1943- )。一年後にヴァレンティノのミューズになる前夜。リチャード・アヴェドンらに撮影されていたころのニューヨーク時代のフォト。
これも同じスーツ。フィオナ・キャンベル-ウォルター(1932- )ヨーロッパの貴族と結婚し、後にジャクリーン・ケネディが再婚したアリストテレス・オナシスの息子(当時24歳)と40歳の時に再婚する。元祖スーパーモデル。1950年代のディオール、バレンシアガのミューズだった人です。
時は流れ、1996年、スーパーモデルブーム後期のクラウディア・シファー。1つのくるみボタンのジャケット、シルクサテンのラペルの幅が美しい。