アンドロギュヌス・アイコン・ケイト・ノタ
ケイト・ノタ(1982-)こそが、この作品において最も目立った存在でしょう。彼女とフランクは敵対関係にありながらも、相性の良いパートナーのようなやり取りを行います。
177㎝という高身長のケイト・ノタは15歳からファッションモデルとして活動し、1999年にはエリートモデルルックにてアメリカ代表に選ばれ、モデルエージェンシーの大手エリートと契約し、一流モデルの道を歩みました。更に、シンガーとしても活動しているので、パンキッシュなメイクの女殺し屋というこの役柄が無理なく似合っています。
彼女の存在が、T2の世界観をモードへと格上げしたことは言うまでもありません。
32連マガジン、サプレッサー、レーザーサイトを装備したグロック18を使用する女殺し屋ローラを演じるケイト。
ピンクと黒の高級ランジェリーに黒のガーターベルトとストッキング。そして、赤のリボンストラップ付きのハイヒールサンダルを履いた露出狂の女殺し屋ローラ。胸が露出していても全くセクシーさを感じさせないファッション・モデルだけが出しうるクラシーなモード感。リュック・ベッソンが望んだのが、まさにパリコレのランウェイから、自動小銃を両手に取り、歩いてきたような女殺し屋であるならば、その試みはケイトの存在感により見事に成功しています。
ちなみにコスチューム・デザイナーのボビー・リードは、『フラッシュダンス』でデザイナー・デビューし、その時の、ジェニファー・ビールスのファッションは、1980年代のトレンド・ファッションになったのでした。
スーツを着こなす肉体改造を決心させるT2
素晴らしい悪役の創造における最大の難関は、いかにその悪党を殺すのか?という一点に絞られます。そして、その点においては、この作品は、見事に失敗したのでした。まるで安っぽいご都合主義の80年代香港映画の悪党のようにローラはあっさりと死ぬのでした。
しかし、ブラックスーツで画面狭しと活躍するフランクの存在感が、そういった失敗を見事にフォローしていきます。彼の生真面目さとイギリス人特有の目元にときおり現れる優しい笑みが、ウルトラZ級の有り得ないアクションの数々に「そこまでやるの!!」という期待感の先にある心の躍動感を生み出してくれるのです。
『阿羅漢』を越えた、車の正面衝突を避けるための開脚ジャンプや、ジェットスキーからバスへの無賃乗車、ランボルギーニを時速300キロでぶっ飛ばし、高速道路の料金バーの下を突っ走るこれまた無賃走行、果ては、ランボルギーニでジェット機に追いつくというもう「お好きなだけどうぞ」状態へと突入していきます。
そして、最終的には、これもそれも、ブラックスーツを着たクールな男になったら、俺でもこんなことが出来そうだ!という謎の覚醒=カタルシスを呼び覚ましてくれるのです。
そういう意味においては、T2は、ファッションの持つ躍動を見事に体現した作品だったのです。ブラックスーツを着こなすために肉体改造をしたいぜ!と世界中の男たちの心に熱い炎を燃えさせた作品だったのです。
エピローグ:トランスポーター3には言葉は要らない
2008年に製作された『トランスポーター3』は、全く魅力のないヒロイン、ナタリア・ルドコーワ(ニューヨークの美容室で働いているところを、リュック・ベッソンにナンパされ、映画に出演したという素人)とカット割りが早すぎる冴えないアクションシーンによって完全な凡作になってしまいました。相変わらずブラック・スーツが決まっていただけに残念。