シャイアンのダスターコート
シャイアン・ルック1 ダスターコート
- こげ茶のテンガロンハット
- ダスターコート、トレンチコート、くるみボタン、エポレットなし
- こげ茶のニットベスト、
- グレーのマルチストライプシャツ
- ピンストライプのグレーパンツ
- ブラックブーツ
この作品の中で、シャイアンという人物が私のお気に入りだ、なぜなら『続・夕陽のガンマン』のイーライ・ウォラックと同じタイプのキャラクターだからね。ただ、シャイアンの方がより暖かみを持っている。おかしな身振りと哀しみとが入り混じっていて、特別な人生哲学とも言うべき人間性の持ち主なんだよ。
セルジオ・レオーネ
1968年当時、ハンフリー・ボガートの未亡人ローレン・バコール(1924-2014)と結婚していたジェイソン・ロバーズ(1922-2000)扮するシャイアンは、この作品において、愛すべきキャラクターと言えます。
チャールズ・ブロンソンに匹敵する独特な男の渋みは、バコールを通じてボギー魂が注入されたことによって生まれたのでしょうか?実に味わい深い、コクのあるバーボンのような男の色気に満ち溢れています。特に、ジルを見て「お前を見ているとお袋を思い出す。お袋はアラメダで一番の娼婦で最高に立派な女だった。親父は誰か知らないが、俺の父親が誰だったにせよ。おふくろと一緒だった一時間か一ヶ月の間は、幸せだったはずだぜ」というシーンは、本作においての最も美しい瞬間でした。
そして、そんな彼のテーマ曲(エンニオ・モリコーネが、レオーネから「わんわん物語」風にと注文された)のとぼけた感じが、シャイアンの捨て犬のような悲しげな表情にマッチしていました。
ちなみに、レオーネは最初からシャイアン役を、ロバーズで決めていたのですが、彼はブロードウェイ第一主義の人であり、映画はお金のためと割り切っている、気難しくて使いにくい俳優だと言われていました。
最初のミーティングで、泥酔してやって来たロバーズに失望したレオーネは、無言でその場を立ち去りました。謝罪したロバーズに対して、「君にとって、イタリア人の作る西部劇なんてガラクタに過ぎないと考えているのかもしれないが、私はこの仕事に命を賭けてるんだ。二度目はないからな!」と警告し、以後、ロバーズはトラブルを起こさず撮影に望んだのでした。
そして、この作品のロバーズの名演は、サム・ペキンパーの名作『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』で、更に開花していくのでした。
生活感ただよう中でこそ、ファッションは最も輝きます。
シャイアン・ルック2 山賊ルック
- 黒のテンガロンハット
- こげ茶のニットベスト、
- グレーのマルチストライプシャツ
- ベージュのストライプパンツ
- 黒のロングブーツ
シャイアンを見ていると、ファッションの不文律がよく分かります。それは、砂埃が舞うような汚い環境でこそ、衣服は抜群の輝きと冴えを見せるということです。
そして、女優にとっても、綺麗に着飾る男前に囲まれているよりも、男臭く薄汚れた男たちに囲まれ、そんな男たちに、寂しげな表情で見つめられる方が、女としての魅力は飛躍するものなのです。
21世紀において、ファッション・アイコンが男女において生まれにくいのは、ただ美男美女が出演する映画が多すぎるからなのです。味わいのある人間像が描かれていない映画の中で、ファッションモデルのようなスタイル抜群の美女がどれだけ、ラグジュアリー・ブランドの衣裳に身を固めても、それはただただファッション・ショーのランウェイ程度の印象にしかならないのです。
それはインスタのファッション自慢にも共通するのですが、自分のスタイリングを見せびらかすことほど、浅ましきファッション活動はないのです。なぜなら、ファッションにおいて最も白い目で見られることは、〝自慢〟する行為だからなのです。
ヘンリー・フォンダの悪役の作り方。
フランク・ルック2 ブラウンジャケット
- 黒のテンガロンハット
- コットンベルベットのブラウンジャケット、くるみボタン、ノッチラペル、ストライプ
- 黒のネッカチーフ
- ベージュシャツ、お腹の辺りにストラップ付き
- チャコールグレー・パンツ
- ブラック・レザーベルト
- ブラックブーツ
ヘンリー・フォンダは、悪役を演じるにあたり、リンカーン大統領を暗殺したジョン・ウィルクス・ブースと同じような口髭を生やし、自分の澄んだ青い眼は悪役に向いていないと考え、ブラウンのコンタクトレンズを入れて、イタリアのレオーネの下に現れました。しかし、変身したヘンリーに対してレオーネは、「青い眼はどうした?俺が買ったのは青い眼だ!」と叫びながら、ヒゲを剃り、コンタクトも外すように命じたのでした。
レオーネはヘンリーの衣裳についても頭を悩ませました。何を着せても、一番みすぼらしいボロでさえ、品のいい歩き方と貴族的な身のこなしのせいで、王子様のように見えてしまうと愚痴をこぼしながら、帽子ひとつ選ぶことさえも、二人で何時間もかけて何百という帽子を試していったのでした。
最終的に、本作の衣裳の多くは、ハリウッドにあるウエスタン・コスチューム・ウェアハウスの地下室にたくさんあった売れ残りのボロ衣装を大量に購入したものを使用しました。