衝撃的なスリップ・スタイル
マギー・ルック2 ナイトウエア
- 白のシルク・スリップ
1916年から流通したと言われるスリップ。マリリン・モンローをはじめとするアンダーウェア姿の女性が、映画の中で現れることが多くなった1950年代に、リズ・テイラーも、肉感的なボディラインを曝け出し登場します。そして、ヘアスタイリスト・シドニー・ギラロフ(マリリン・モンロー御用達のヘアスタイリストでもある)による当時大流行することになるクールでヒップなヘアスタイル「ショート・マギー」。今マネをすると確実に違和感のあるそのスタイルの中にこそ、「魔法の呪文」は隠されているのが、ファッションの面白さです。そういう意味においては、そろそろ若い女性が新たなるデザイン性の伴ったスリップを着る時代が到来する可能性は少なくないです。
リズ・テイラーとウィノナ・ライダー
コンプレックスはシフォンと共に去りぬ
マギー・ルック3 ギリシア風イブニングドレス
- オフショルダーのホワイト・イブニングドレス。シフォンを優美に重ね、バストはV字型に大きく深く切り開く
- ホワイト・レザーベルト
- 白のローヒールパンプス
- 雨の中のベージュのレインコート(ハズバンド・レインコート)
このシフォン・ドレスこそが、この作品のハイライト・コスチュームであり、1950年代のアメリカ人女性のみならず、世界中の女性に影響を与えたスタイルです。スタイルの良さよりも、類稀なる美貌により生み出されたスター・イメージを持つリズ・テイラーにとっての最大のコンプレックスは「全身を映されること」でした。彼女自身、自分の肉体のバランスの悪さにうんざりしており、ファッション・センスもお世辞にも優れたものではありません。だからこそ、彼女は、「いつも私の魅力を引き出してくれる」ヘレン・ローズというMGM専属のコスチューム・デザイナーに全面的な信頼をおいていたのです。
そんなリズ・テイラーの衣装をデザインするにあたって、ヘレンが常に心がけたこと。それは常に明るい色調の生地を使い、クリーン・イメージを保つことと、シンプルなシルエットにより、彼女の美貌を引き立たせることでした。
ちなみに本作が30分も過ぎようとする時にやって来る晩餐会のシーンにおいて、リズ・テイラーが本当に食事を取っています。実際はこういうシーンにおいて、主演女優は食べ物は口に運ばないものなのですが、この時、夫マイケル・トッドを飛行機事故で失い、約一ヶ月撮影から離れている間に、食事も喉が通らず、シフォン・ドレスのサイズが合わなくなるほど痩せ始めていたリズを励ます意味もこめて、2日間かけて晩餐シーンを撮影し、リズを励まし、撮影のカットを重ねて、リズに食事を取らせていたのでした。
リズ・テイラーとグッチのバンブー
(リズは)リハーサルのときに〝手抜きする〟傾向があった。彼女に熱意がないように見えたので、ポール・ニューマンが心配になって、監督のリチャード・ブルックスに訴えたんです。『彼女があんなふうじゃ、こっちはやりにくくてしょうがない』って食ってかかったの。そうしたらブルックスは『心配しなくていいから』と答えました。『いったんカメラが回りはじめたら、生き返ったようになるから』って。そしてまさにそのとおりのことが起こったんです。
ジュディス・アンダーソン(ビッグ・ママ役)
テイラーは人前で冒険することを恐れない。スターというものは、自分がどのように見えるかにということにとても防衛的になり、非常にわがままなものだ。が、テイラーはガッツの塊だった。前向きで、研究熱心で、うつ伏せに倒れることさえも、ものともしなかった。
ポール・ニューマン
リハーサル風景におけるリズ・テイラーの写真で興味深いのが、彼女が持つグッチのバンブー・バッグです。1947年に発売されたこのバッグは、グッチがニューヨークに上陸する1953年の牽引アイテムとなりました。1989年に、バーグドルフ・グッドマンからドーン・メローが社長兼クリエイティヴ・ディレクターとして招聘され(1990年、彼女がレディースウェアのデザイナーに起用した青年こそ、トム・フォードその人でした)、90年代のグッチ復活に伴い、世界的に大流行するバッグであり、フリーダ・ジャンニーニがクリエイティヴ・ディレクターだった2010年代前半にも再び流行したバッグの原型です。
リズ・テイラーは大切なものを失い、大切なものを手にしました。この作品の素晴らしさは、一人の20代半ばを迎えた子役スターが、自分の意思で、女優の道を本格的に歩き始める姿を、21世紀に生きる私達が見ることが出来る奇跡の瞬間にあります。そして、そんな彼女が身にまとう白装束には、間違いなく、不倶戴天の決意がこめられていたのです。女性が最も美しく輝く瞬間。それは、戦いに望み、それに相応しいファッションに身を包み、前進する姿に私達が直面するときなのです。