ダークブラウン・スーツのカッコよさ。
ハリー・キャラハン・スタイル4
- 3ピースのダークブラウン・ポリエステルスーツ。エルボーパッチなし。3ボタン、ノッチドラペル
- 白のラージスプレッドカラー・シャツ
- ダークブラウン・レザー・プレーントウ・ブルーチャー
- ダークブラウンのネクタイ
- レイバンのサングラス「バロラマ」
4種類のフォーマル・ウェアに身を包むハリー・キャラハンという40男。70年代のアメリカ映画の面白さ。それはヘイズ・コードと、スタジオ・システムという抑圧から解放された男女が、解き放たれ、暴走する姿が、そこには存在するからです。子供の人質をとっても、ひるまず犯人を撃つ刑事。スクールバスをバスジャックし、子供に暴力を振るう犯人。「殴り屋」という存在と、どこまでも荒廃した廃墟ビル。覗きを楽しむ刑事と3Pをはじめそうな男女。サンフランシスコのいかがわしいストリートの夜景。そこには不愉快になる描写は少なからずあるにせよ、リアルな空気が漂っています。そして、どこかカラッとしています。
そんな今は存在しない世界で、着る男の装いの中にこそ、女性から見てもカッコいい、男性のファッションのスタイリングのヒントは秘められているのではないでしょうか?
ちなみに。本作が人々に与えた影響は凄まじく、それは凶悪犯罪を引き起こす結果となりました。1972年10月6日、オーストラリアのヴィクトリア州ファラデイで模倣犯罪が起こりました。2人の男が、女性教師と6人の女生徒(5歳から10歳)をスクールバンに誘拐・監禁し、100万ドルを要求、しかし、人質は脱出に成功し、逮捕されます。そして、1976年12月、捕まった犯人のうちの一人エドウィン・ジョン・イーストウッド(イーストウッドと同名!)が脱獄し、77年2月15日、1人の男性教師と9人の生徒を含む16人を人質にし、700万ドルとヘロイン100キロ、17才の同房者の釈放を要求するも、右膝を撃ち抜かれ逮捕。21年の刑(93年に釈放)。1976年にもアメリカのカリフォルニア州チャウチラで、26人が乗ったスクールバスをバスジャックする事件が起こっていました。
スコルピオのイメージに苦しんだ男。
スコルピオ・スタイル
- インディゴのデニムシャツ
- ブラック・タートルネック(ブラウンのカーディガン)
- ピースシンボルバックルベルト
- ベージュのチノパンツ(ブルージーンズ)
- 黒のレザーブーツ
- そして、レッド・マスク
救いようのない連続殺人鬼スコルピオを演じたアンドリュー・ロビンソン(1942-)は、本作の役柄があまりにもはまり過ぎていたため、実生活で頻繁に殺害脅迫を受けるようになります。更に、依頼される役柄も同じようなものになり、このイメージを払拭するために苦労しました(実生活においては、美人の女優の娘を持つ日本語とフランス語を流暢に話す愛妻家です)。ドン・シーゲルが彼をスコルピオ役に選んだ理由として一言「聖歌隊の少年のような顔だったから」でした。
恐らく映画史上初めての本格的なサイコパスの殺人鬼(原型はアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(1960)だろうが、ポリス・アクション映画の悪党としてのサイコパス)を演じた彼のスタイルは、永遠にそのステレオタイプとして人々の記憶に焼き付けられることでしょう。そして、『ダーティハリー』が予想外の大ヒット作(当初イーストウッドもシリーズ化されるとは予想もしていなかった)となったのは、このスコルピオをはじめとする全ての要素において、70年代の夜明けに相応しいリアルテイストに満ち溢れていたからなのです。