エレガンスとは、アクセサリーをつけすぎないこと。
オードリー・ルック10 スクールガール風ワンピース
- デザイン:ユベール・ド・ジバンシィ
- 白のピルボックスハット。ジバンシィ1965AW
- 白のカラー付きウールのネイビーワンピース。中にシルクのペティコート。スクールガール風
- 黒のパンプス
- 黒のレザーグローブ
オードリーのどの作品を見ていても驚かされるのは、オードリーはアクセサリーをほとんど付けないことです。『ティファニーで朝食を』のような宝石ブランドの名前が冠された作品に出演している時でもそうなのですが、本作においても、アクセサリーを着用しているのは、抹茶スーツとブラックドレスにおいてのカルティエのダイアモンド・イヤリングのみなのです。
オードリーにとってのエレガンスとは、削っていくことであり、ありとあらゆるファッション・アイテムを装着して、エレガンスを演出するということは、ラグジュアリー・アイテムに包まれた女性の「空っぽ」感を浮き立たせる効果を生んでしまいがちだということを、オードリーはその敏感な美意識の嗅覚で嗅ぎ取っていたのです。
ラストシーンで登場する男前ルック。
オードリー・ルック11 男前コート
- デザイン:ユベール・ド・ジバンシィ
- 黄・赤・青の格子縞柄のペールアイボリークリームウール生地のラグランスリーブのレインコート。ジバンシィ1965SS
- ネイビーのピルボックスハット。ジバンシィ1965SS
- ネイビーブルーレザーベルト、ジバンシィ1965SS
- 冒頭の白のサングラス。オリバー・ゴールドスミス
- エルメスの黒のレザーグローブ
- タバコカラースウェードのブーツ
世界一美しい「サンキュー」の響き。
『おしゃれ泥棒』は、オードリーの映画人生において、ユベール・ド・ジバンシィと生み出してきたファッション・アイコンとしての存在の集大成です。オードリー伝説が誕生した『ローマの休日』の決して忘れることの出来ない台詞が「サンキュー」ならば、この作品の最後の言葉「サンキュー」において、彼女の伝説の幕は締めくくられたのです。以後の彼女の作品は、ファンタジー的な要素のものは一切なくなります。
当初『ティファニーで朝食を』『シャレード』の音楽を担当したヘンリー・マンシーニに音楽を依頼したが、多忙のため弟子のジョン・ウィリアムズが音楽を担当し、素晴らしく魅力的なスコアを生み出しました。特に、ヴィーナス像を盗み、警備員が慌てふためく時に流れるスコアが圧巻でファンタジーに満ち溢れています。
オードリー・ヘプバーンが永遠の妖精となり、永遠のスタイル・アイコンとなったのは、本作をはじめとするパリ・モードを体現した作品群とファッションセンスによってです。特に本作におけるオードリーは、スウィンギング・ロンドンとパリ・モードをミックスした60年代半ばのファッション革命の空気を先導しているが如しの輝きに満ち溢れており、30代後半にして、尚も美しく年を重ねており、その容姿の衰えの兆候でさえも、彼女の永遠の美の体現の邪魔になるどころか、後押しをしていることを教えてくれるのです。
女性にとって本当に魅力的に見える奇跡の瞬間とは、若き日の美貌が、進化と退化の一進一退を繰り返す35歳~45歳の間なのです。この間、オンナが本当に魅力的であることを教えてくれる作品。それが『おしゃれ泥棒』なのです。オンナの魅力の振り幅の広さをオードリー・ヘプバーンが案内人になって伝えてくれる作品なのです。