『女囚さそり』シリーズVol.3|「第41雑居房」「けもの部屋」「701号怨み節」

梶芽衣子
梶芽衣子
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梶芽衣子様の『女囚さそり』。残りの三作品について。

1972年8月25日に菅原文太川地民夫主演の『まむしの兄弟 傷害恐喝十八犯』と同時上映された『女囚701号/さそり』は、予想外の大ヒット作となり、即座に二作目の制作が決定しました。しかし、梶芽衣子様は元々一作限りでこの仕事を引き受けていました。

最終的に結婚を諦め、二作目の仕事を引き受けることになりました。更に、三作目の撮影が決定した時、芽衣子様は、当時の東映社長の岡田茂の前で「二作目が終わって結婚を諦めて、これからずっと仕事を続けていきたいと思っている私にさそりはできません」と伝えるも、強引に続投が決定してしまいました。

そんな混乱の真っ只中で撮影された深作欣二監督による『仁義なき戦い 広島死闘編』(1973年)の芽衣子様の情念溢れる戦争未亡人の組長の娘役は、様々な感情がカタルシスとなって迸るような素晴らしい演技でした。

伝説のヤクザ映画『仁義なき戦い 広島死闘編』の北大路欣也。

そして梶芽衣子様。

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第ニ作目『女囚さそり 第41雑居房』

  • 銀河鉄道999のメーテル風
  • 袖にはファーのついたウールのシングルコート、ロング、パワーショルダー
  • かなり大きなベルトのバックル
  • 黒革の手袋
  • 黒の女優帽(飾りがない)

1972年12月30日に高倉健主演の『昭和残侠伝 破れ傘』と同時上映された本作の見どころは、オープニングに登場する戸浦六宏の濃すぎる芝居につきます。女囚たちにも罪を償って早く出所できるよう、一人一人に一言ずつ励ましの言葉をかけるのですが、これが白々しくて、誰の心にも響かなくて、そんな現代日本社会にも溢れかえってそうな薄っぺらな存在感がたまりません。

前作よりも更にしゃべらなくなった松島ナミは、60分すぎた時に「あたしを売ったね」「死んでるよ」に二言だけしゃべります。

ラストシーンで、表参道歩道橋に立つ。右手にオリエンタルバザーが見えるが今と街頭の雰囲気はまったく違います。映画の大半は、セルジオ・レオーネの西部劇に出てきそうなマント風のグレイの布切れを身に纏っています。

ヒロインがしゃべらないという、それまでにないことに挑戦し無我夢中でこれ一本で終わるつもりで撮ったのが、伊藤俊也監督のデビュー作となった第一作。それは自分にとっても思い出深い作品ですが、二作目、三作目に関してはアングラ芸術が流行っていた当時の影響が色濃く、そこに違和感を抱いていたのです。
『真実』梶芽衣子

撮影当時31歳の「狂気女優」白石加代子の存在感が凄い。

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第三作目『女囚さそり けもの部屋』

  • 黒のトレンチコート

この作品においては、さそりルックは一瞬しか登場しない。


かわりに、オープニングでさそりが着ているのは、オリーブ(カーキ)色のショート・トレンチシャツの上から太い黒ベルトに、70年代風の襟の白シャツにオリーブ色のパンタロンとブラックブーツです。

オープニングで、成田三樹夫の腕をぶった切り、手錠で繋がれた血まみれの腕と共に、大都会を走り抜ける芽衣子様の姿に、撮影だと気付かない一般人の人々はびっくり仰天している『東映の伝統芸=群衆隠し撮り』と共に、『怨み節』が流れます。

ちなみに『怨み節』は、四作品すべてが新たに収録されたもので、物語ごとの松島ナミの想いを、芽衣子様が〝語るように〟歌っており、それぞれがとんでもなく素晴らしいです。今聴いてもパワーのある歌詞です。

花よ綺麗と おだてられ 咲いてみせれば すぐ散らされる 馬鹿なバカな 馬鹿な女の怨み節
真赤なバラにゃ トゲがある 刺したかないが 刺さずにゃおかぬ 燃えるもえる 燃える女の怨み節
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梶芽衣子様のセンスの良さが良く伝わるトレンチコート


ストーンカラーのトレンチコート(エポレット付き)にパンタロン、下にはインディゴのシャツ。しかし、昔の新宿南口で売春に励む渡辺やよいが強烈すぎます(李礼仙のエリマキトカゲ・ルックについては言及不要)。


中盤で少しだけ登場するブラックワンピースに黒いストッキングとブラック・ヒールローファーもストレートの黒髪の芽衣子様に似合っていました。


そして終盤にブルーのレースワンピースを着て逃亡する松島ナミ。黒のロングブーツが良く似合う。この三作目と四作目の間に『さそり』を見た原作者の小池一夫が推薦し『修羅雪姫』(1973年)の主役に抜擢され、撮影が行われました。

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第四作目『女囚さそり 701号怨み節』

  • 細身でかなりモード色の強いトレンチコート。ドレープがハンパない
  • ウエスタン風ブラックハット
  • ブラックハイヒールブーツ


ミリタリー・ジャケットとジーンズで登場する第四作目は、「これで本当に最後」という梶芽衣子様に自由に好きな監督を選んでもらい、長谷部安春が日活から東映に呼ばれて監督した作品です。

シリーズのなかで私の一番好きな作品になりました。誰が見てもわかる娯楽作品でプロの映画人が撮るとこうなるという見本のような映画です。
『真実』梶芽衣子


そして、最後に首吊り台での死闘での貞子風白装束も印象的でした。

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川久保玲やヨウジ・ヤマモトに与えた影響は絶大


1972年から73年にかけてのこの作品が、コムデギャルソンの川久保玲ヨウジ・ヤマモトからどのような影響を受け、または与えていったかを検証してみることは非常に興味深いことです。

しかし、それ以上に何よりも興味深いのは、全身黒づくめがここまで似合う梶芽衣子という類まれなるファッション・アイコンの存在であり、この4部作の世界観は、今ではある種のモードの領域にまで到達しているという点です。

それは特に、新宿南口にたむろする売春婦達の存在といい、かつて失われた多くの毒々しいものが見事に純粋培養されています。

そしてラグジュアリー・ファッションの本質とは、半分程度は非常にいかがわしい要素が<ちらり>と見えてこそなのであり、それは虚栄や肉欲や毒々しさなどといったものなのだからということを再認識させてくれる作品なのです。

最後に3年後の1976年に多岐川裕美によって復活した『新・女囚さそり 701号』。根岸季衣と范文雀もとても印象的なのですが、梶芽衣子様が唯一無二な事を再認識させてくれる作品でした。

作品データ

作品名:女囚さそりシリーズ Female Prisoner 701: Scorpion(1972-1973)
「女囚701号/さそり」「女囚さそり 第41雑居房」「女囚さそり けもの部屋」「女囚さそり 701号怨み節」の4部作。
監督:伊藤俊也(最終作のみ長谷部安春)
衣装:内山三七子
出演者:梶芽衣子/渡辺やよい/夏八木勲/成田三樹夫/田村正和