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カイエデモード香水図鑑を応援する|2025年9月2日

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【オフィシーヌ ユニヴェルセル ビュリー】ニンフとさそり(アニック・メナード)

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ニンフとさそり

原名:Nymph with the Scorpion
種類:オード・パルファム
ブランド:オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー
調香師:アニック・メナード
発表年:2019年
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/21,000円

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ルーブル美術館×ビュリーがかつて生み出した『奇跡のコラボ香水』

©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

右から二番目がアニック・メナード様 ©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

アニック・メナード様 ©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

2019年にオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーは、ルーブル美術館とコラボレーションし、芸術を香りで表現することに挑戦しました。そしてそのためにボダン、IFF、ロベルテ、シムライズから8人の調香師が選抜され、毎週1日、清掃のため休館となるルーブル美術館が静かな火曜日のある日にルーブル美術館に集結したのでした。

「さぁ。皆様が調香してみたいテーマをお選びください」という掛け声の下で、前代未聞の芸術を香りで表現するプロジェクト「ルーブルコレクション」がスタートしたのでした。それぞれの調香師が、ルーブル美術館所蔵の554,731点の美術作品の中から8つの作品を選びました。

それは226年のルーブルの歴史の中で初めてとなるビューティーコラボレーションが実現した瞬間でした。ただし、ビュリーの共同創業者であるラムダン・トゥアミは「モナ・リザ」だけは、あまりにもルーブル的なので、除外して下さいと8人の調香師達に条件を出しました。

実はこのプロジェクトの真意は、1日にルーブルを訪れる3万~4万人の入館者(一年で約1000万人)のうち、70~80%は「モナ・リザ」を見るために列に並び、他のギャラリーは空いているので、あまり人気のない展示棟に新たな息吹を吹き込みたいと考えたからでした。

この限定コレクションのためにアニック・メナードが選んだ作品は、ロレンツォ・バルトリーニ作「ニンフと蠍(さそり)」でした。それは少女が浴槽から出た瞬間、さそりに刺され、痛がりながらも、その後にやってくる毒に対する怖れの表情を捉えている彫刻でした。

さすが、アニック・メナード様です。彼女は、遂に「恐怖」を香りにしようと考えたのでした。

2019年7月3日から2020年1月6日までにかけてルーブル美術館地下のポップアップストアで販売されました。ちなみにこの限定コレクションは延長販売され2023年2月末日をもって販売終了となりました。

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恐怖さえも香りにするアニック・メナード様

©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

わたしはさそり座です。さそり座の人間は、私のように自分を食べ尽くし、燃やし尽くすのです。

ヴィヴィアン・リー

琥珀で磨き上げた素肌の上をすべる、ほろ苦いアーモンドの口づけ。水銀のように、毒は大理石の少女の血管と視線を固まらせる。水中花のごとく凍り付く心臓。

この作品に描かれたニンフは、ルーブルの館内でシルエットで表現される展示方法も含め、とてもシンボリックだと感じます。

とても若い彼女が浴槽から出ると、蠍に刺されてしまいます。眉間のかすかな線と体の微妙な姿勢から、彼女が苦痛を感じていることがわかります。

この作品から、私が想像したのは滑らかで磨かれた白木の香りでした。マンダリンのアンダートーンを中心にしたアルデヒド系の香りでこれを表現し、金属的なニュアンスをコリアンダーで、彼女の若さをムスクで描写しました。サソリの毒は、青酸のような香りのビターアーモンドで描き、中毒をほのめかしました。

アニック・メナード

イタリア・フィレンツェの彫刻家ロレンツォ・バルトリーニ(1977-1850)が1835年に大理石で作り上げた全裸の少女像の名を「ニンフと蠍(さそり)」と申します。それは新古典主義からは逸脱したより自然な少女の姿を、大理石の中に封じ込めた「生きる石」でした。蠍座に守られながらも貞操を失いかけている若い女性の官能的な姿が見て取れます。

この少女像を背中越しに逆光で見たときに、アニック・メナードは「これだ!」と直感しました。そして、彼女は、まずは光り輝く大理石を、搾り立てのマンダリンの果汁に泡立つアルデハイドを注ぎ込むことにより表現しました。

素足で大理石の上を歩く感覚が広がる中、その大理石に生気を蘇らせるように甘やかなジャスミンとヘリオトロープが満ち広がってゆきます。

そして大理石の肉体には、水銀の血が宿るはずだと想像し、コリアンダーでメタリックな血の感触を生み出しています。最後に、少女の若さをムスクで表現し、ヘリオトロープとコリアンダーがアンバーとひとまとめに交わる瞬間、ビターアーモンドの毒々しさで蠍の毒を生み出してゆきます。

アルコールやエタノールを一切使用しない水性香水の香りは、淡白な香りになりがちですが、このサソリの香りは、軽やかに、儚く、悲しげな香りであなたを喰い尽くしてくれます。でありながら、少女は女性の持つ力を知り、ほのかにミステリアスでうっとりするような、魅惑的で自信に満ちた香りを放ってくれるのです。

さて、少女を一刺ししたさそりとは一体何を意味するのでしょうか?処女を奪う男性のシンボル?大人びる自分自身への怖れ?恋のキューピットの矢?いいえ、そうじゃない!このさそりは、アニック・メナード様なのです。さぁ、香りに刺されてください。この香りは、史上初めて、恐怖を香りにしたフレグランスなのです。

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香水データ

香水名:ニンフとさそり
原名:Nymph with the Scorpion
種類:オード・パルファム
ブランド:オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー
調香師:アニック・メナード
発表年:2019年
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/21,000円


トップノート:アルデハイド、マンダリンオレンジ
ミドルノート:ジャスミン、ビターアーモンド、ヘリオトロープ
ラストノート:コリアンダー、ムスク、アンバー