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【オフィシーヌ ユニヴェルセル ビュリー】ニンフとさそり(アニック・メナード)

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ニンフとさそり

原名:Nymph with the Scorpion
種類:オード・パルファム
ブランド:オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー
調香師:アニック・メナード
発表年:2019年
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/21,000円

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ルーブル美術館×ビュリーがかつて生み出した『奇跡のコラボ香水』

ルーブルに勢揃いした8人の超一流調香師達。©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

右から二番目がアニック・メナード様 ©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

2019年にオフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーは、ルーブル美術館とコラボレーションし、芸術を香りで表現することに挑戦しました。そしてそのためにジボダン、IFF、ロベルテ、シムライズから8人の調香師を選抜し、週一日、清掃のためルーブル美術館が休館となる、火曜日のある日に集結したのでした。

「さぁ。皆様が調香してみたいテーマをお選びください」という掛け声と共に、前代未聞の、芸術を香りで表現するプロジェクト「ルーブル コレクション」がスタートしたのでした。8人の調香師たちが、ルーブル美術館所蔵の554,731点の美術作品の中から8つの作品を選びました。

それは226年のルーブルの歴史の中で初めてとなるビューティーコラボレーションが実現した瞬間でした。ただし、ビュリーの共同創業者であるラムダン・トゥアミは「モナ・リザ」だけは、あまりにもルーブル的なので除外して下さいと、調香師たちに条件を出しました。

実はこのプロジェクトの真意は、1日にルーブルを訪れる3万~4万人の入館者(一年で約1000万人)のうち、70~80%は「モナ・リザ」を見るために列に並び、他のギャラリーは空いているので、あまり人気のない展示棟に新たな息吹を吹き込むことにありました。

この限定コレクションのためにアニック・メナードが選んだルーブル作品は、ロレンツォ・バルトリーニ作「ニンフと蠍(さそり)」でした。それは少女が浴槽から出た瞬間、さそりに刺され、痛がりながらも、その後にやってくる毒に対する怖れの表情を捉えている彫刻でした。

さすが、アニック・メナード様の選択です。彼女は、ついに「恐怖」を香りにしようと考えたのでした。

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ルーブルに集結した、8人の調香師たち

アニック・メナード様と「ニンフと蠍(さそり)」©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

「ルーブル コレクション」は、2019年7月3日から2020年1月6日にかけてルーブル美術館地下のポップアップストアで販売されました。ちなみにこの限定コレクションは延長販売され2023年2月末日をもって販売終了となりました。

以下その他の調香師とその作品を羅列しておきます。

  1. 「ヴァルパンソンの浴女」アングル|ダニエラ・アンドリエ
  2. 「サモトラケのニケ」作者不詳|アリエノール・マスネ
  3. 「大工の聖ヨセフ」ラ・トゥール|シドニー・ランセスール
  4. 「かんぬき」フラゴナール|デルフィーヌ・ルボー
  5. 「グランド・オダリスク」アングル|ドミティル・ミシャロン=ベルティエ
  6. 「庭園での語らい」ゲインズ・ボロー|ドロテー・ピオ
  7. 「ミロのヴィーナス」作者不詳|ジャン=クリストフ・エロー
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恐怖さえも香りにするアニック・メナード様

©OFFICINE UNIVERSELLE BULY

わたしはさそり座です。さそり座の人間は、私のように自分を食べ尽くし、燃やし尽くすのです。

ヴィヴィアン・リー

琥珀で磨き上げた素肌の上をすべる、ほろ苦いアーモンドの口づけ。水銀のように、毒は大理石の少女の血管と視線を固まらせる。水中花のごとく凍り付く心臓。

この作品に描かれたニンフは、ルーブルの館内でシルエットで表現される展示方法も含め、とてもシンボリックだと感じます。

とても若い彼女が浴槽から出ると、蠍に刺されてしまいます。眉間のかすかな線と体の微妙な姿勢から、彼女が苦痛を感じていることがわかります。

この作品から、私が想像したのは滑らかで磨かれた白木の香りでした。マンダリンのアンダートーンを中心にしたアルデヒド系の香りでこれを表現し、金属的なニュアンスをコリアンダーで、さらに彼女の若さをムスクで描写しました。最後に、サソリの毒を青酸のような香りのビターアーモンドで描き、中毒をほのめかしました。

アニック・メナード

イタリア・フィレンツェの彫刻家ロレンツォ・バルトリーニ(1977-1850)が1835年に大理石で作り上げた全裸の少女像の名を「ニンフと蠍(さそり)」と申します。それは新古典主義からは逸脱したより自然な少女の姿を、大理石の中に封じ込めた「生きる石」でした。蠍座に守られながらも貞操を失いかけている若い女性の官能的な姿が見て取れます。

この少女像を背中越しに逆光で見たときに、アニック・メナード様は「これだ!」と直感しました。そして、彼女は、まずは光り輝く大理石を、搾り立てのマンダリンの果汁に泡立つアルデハイドを注ぎ込むことにより表現しました。

素足で大理石の上を歩く感覚が広がる中、その大理石に生気を蘇らせるように甘やかなジャスミンとヘリオトロープが満ち広がってゆきます。

そして肉体と一体化していく大理石には、水銀の血が宿るはずだというメナード様の確信が、コリアンダーを舞い散らせることにより、メタリックな血の感触を生み出してゆきます。

最後に全身を若返らせる魔法のムスクが、ヘリオトロープとコリアンダーとアンバーとひとまとめに交わる瞬間、ビターアーモンドの毒々しさで蠍の毒で満たしてゆきます。

アルコールやエタノールを一切使用しない水性香水の香りは、淡白な香りになりがちですが、このさそりの香りは、軽やかに、儚く、悲しげな香りであなたを喰い尽くしてくれるのです。でありながら、少女は女性の持つ力を知り、ほのかにミステリアスでうっとりするような、魅惑的で自信に満ちた香りを放ってゆくのです。

さて、少女を一刺ししたさそりとは一体何を意味するのでしょうか?処女を奪う男性のシンボル?大人びる自分自身への怖れ?恋のキューピットの矢?いいえ、そうじゃない!このさそりは、アニック・メナード様なのです。さぁ、香りに刺されてください。この香りは、史上初めて、恐怖を香りにしたフレグランスなのです。

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香水データ

香水名:ニンフとさそり
原名:Nymph with the Scorpion
種類:オード・パルファム
ブランド:オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー
調香師:アニック・メナード
発表年:2019年
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/21,000円


トップノート:アルデハイド、マンダリンオレンジ
ミドルノート:ジャスミン、ビターアーモンド、ヘリオトロープ
ラストノート:コリアンダー、ムスク、アンバー