エリクサー デ メルヴェイユ(エリクシール ド メルヴェイユ)
原名:Elixir des Merveilles
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2006年
対象性別:女性
価格:日本未発売
天空を舞う塩バターキャラメル
この香りの創造は、甘ったるい香りを嫌うジャン=クロードにとって、ひとつの大いなる挑戦だったはずだ。
ラルフ・シュワイガー
2003年にマルタン・マルジェラの後任としてエルメスのウィメンズラインのクリエイティブ・ディレクターに、ジャン=ポール・ゴルチエ(2004年AWから2011年SSまで)が就任しました。そして、彼の就任を祝うように、翌2004年に「オー デ メルヴェイユ」が発売されました。
同年エルメスの専属調香師に就任したジャン=クロード・エレナは、翌2005年にラルフ・シュワイガーと共に「パルファム ドゥ メルヴェイユ」を調香し、温かみのあるワインのような香りを生み出しました。
そして、その第三弾として2006年に発売されたのが、キャラメル・ブール・サレ(塩バターキャラメル)からヒントを得て生み出された「エリクサー デ メルヴェイユ」でした。
一瞬にして、真っ黒な夜空を満天の星空に変える〝魔法の水〟
より本格的にエルメス・カラー=オレンジに包まれたこの香りの名の「エリクサー」とは資生堂の「エリクシール」と同じスペルであり、その意味は、〝賢者の薬、魔法の水〟です。つまりは、ファイナル・ファンタジーで1000ギルで購入できる究極の回復薬です。
「エリクサー デ メルヴェイユ」とは、〝神秘的な賢者の香水〟という意味なのです。
それは古代の人々が夜になると、空に向かい祈りを捧げていたように、厳かな儀式のように香りを身に纏う事で、真っ暗な夜空に一瞬にして、まばゆい星をたくさん散りばめる事が出来そうな、そんな気持ちにさせてくれる夢のある香り。
星のように輝くオレンジではなく、パチョリのアーシィーさをダークチョコレートのように覆わせていく、砂糖漬けされたオレンジピールの香りからこのエリクサーははじまります。この香りの特徴はオレンジピールが最初から最後まで「賢者」のように静かに存在するところにあります。
だんだんとクリーミーかつミルキーなバニラとキャラメルが、スパイシーなバルサミックな香りと複雑に交錯するように香りを放ちます。砂糖のような甘さが減退するに従い、「オー デ メルヴェイユ」で中心的な役割を果たしていた塩味をふくんだアンバーグリスが、オレンジに透明感を与えてゆくのです。
このアンバーグリスとオレンジの周りを、チョコレートとバニラとキャラメルといったグルマンの種族たちが侵食していこうと目論むのですが、シダー、オーク、サンダルウッド、トンカビーン、ベンゾインといったウッディの結界に阻まれてしまうのです。
そして、苦いバニラビスケットのような(甘くない)神秘的な香りに包まれてゆくのです。ドライダウンに向かう中で、森林の中から生み出される女性らしさが、苦味を取り戻したオレンジ色のエルメスの芳香と組み合わさり、ほのかに汗ばんだ肌に対する抜群の相性の良さを示すように、酔わせるようなエリクサーの効力を発揮してくれるのです。
自分からよりも誰かから香るとたまらない香り
カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様が、冬の定番香水として最も愛しておられる香りの一つであり、トータルで5本目に突入しているというこの香りの魅力について解説していただきました。
グルマンとウッディのコントラストが実に心地よく、温かく甘く官能的でありながら、体温によって人肌に溶け込むように香る。そんな上気した肌を思わせるセンシュアルさと包み込むような温もりが堪らない香り。
まさに〝メンズ仕立て〟のレディースフレグランスであり、自分からよりも誰かから香るとたまりません。そして、それを自分でも体感するために、マフラーに少し着けたり、鼻から遠い膝やウエストに着けておくと、『他人とすれ違った時にふんわり漂ってきた香り』となります。
この香りこそが、まさにジャン=クロード・エレナによるエルメス版「幻のエンジェル」です。クリスマス限定でもいいので復活してほしい香りです。
ボトル・デザインは、「フラワー バイ ケンゾー」も担当したセルジュ・マンソーによるものです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「エリクサー デ メルヴェイユ」を「オレンジ・シプレ」と呼び、「私がエルメスの担当者であったならば、腹を抱えて笑い、その技巧に驚嘆しながらも作品にはダメ出ししただろう。なぜなら、誰もそんなアイロニーには気づかないからだ。とりわけ、ターゲットであるエルメス好きの若い女性たちにはわかるまい。」
「みごとに晴れわたり、まさしくイタリアといったオレンジ様のトップノートは日焼けのようで、どこかの高級リゾートへ行ってきたのかと思わせる。ところが、ハートノートと残香は整ったシプレで、「カボシャール」より「ジバンシィⅢ」に近い。」
「この香りを手首に20分もつけていたら確実に20年は老ける。その過程はどことなく痛ましい。必死にはつらつと生きていこうとする若者が、結局安楽におぼれていく姿を見ているようだ。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:エリクサー デ メルヴェイユ(エリクシール ド メルヴェイユ)
原名:Elixir des Merveilles
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2006年
対象性別:女性
価格:日本未発売
シングルノート:ペルーバルサム、バニラシュガー、アンバーグリス、サンダルウッド、トンカビーン、ベンゾイン、パチョリ、キャラメル、オーク、インセンス、砂糖漬けしたオレンジピール、シダー、シャムレジン