コートで遊べないオンナに未来はない。
本作において、ニューヨークのティファニー本店で史上初のロケーションが行われました。その時に着ていたオレンジのコクーンシルエットのウールコートは、バレンシアガの影響が色濃く反映されたユベール・ド・ジバンシィのデザインによるコートです。そして、この時にオードリーが持っているバッグが、シャネルの2.55バックです。サングラスはもちろんオリバー・ゴールドスミスのマンハッタンです。
〝今日は一日したことないことするの。変わりばんこに〟ということで、ホリーとポールは、ティファニーで買い物をすることにします。さらに、2人は、雑貨屋で、お面をかぶり、そのまま店を出て、お面を万引きします。駆けて逃げて、マンションの玄関先で、そのお面を取って、「今まで心を覆っていたものも一緒に取って」キスをする2人。
利害関係のキスで生きてきた2人(ホリーは高級娼婦であり、ポールは金持ち夫人のツバメ)が、心のキスを交わした瞬間でした。そして、それは2人が今までしたことのないことを共有した瞬間でした。
この一連のシーンのヘンリー・マンシーニの音楽がもう素晴らしいとしか言いようがありません。私は「ムーン・リバー」よりも、この音楽の60年代なムードが大好きです。
『ティファニーで朝食を』のオードリー・ファッションについては、『ティファニーで朝食を』3(オードリー・ヘプバーンとジバンシィについて)をご覧ください。
オードリーのショッキングピンク
ジバンシィの洋服は常に私に安心感と自信を与えてくれました。私はちっともおかしくない、正しい装いをしている、とわかっていたときは、仕事もスムーズにいきました。私生活でも同じで、ジバンシィの服は、知らない状況や知らない人々から私を守ってくれたのです。…ある意味では、ユベール・ド・ジバンシィが長い年月をかけて私を創ってくれたとも言えます。
オードリー・ヘプバーン
ジバンシィがデザインしたショッキング・ピンクのシルク・カクテルコートに、オードリーが有名になる前に購入していた私物であるソフィー・ギンベル(「ニュールックの後継者」と言われたアメリカのファッション・デザイナー)のクラッチを持っています。
オードリーの面白いところは、彼女は必ずといって良いほど、自分の主演作の中で、愛用している私物を登場させるところにあります。
『ティファニーで朝食を』のオードリー・ファッションについては、『ティファニーで朝食を』3(オードリー・ヘプバーンとジバンシィについて)をご覧ください。
カジュアルシックにシャネルの2.55
『ティファニーで朝食を』が、永遠のファッション・ムービーと呼ばれるのは、オードリーのヘアスタイルの素晴らしさと同じくらいに、カジュアル・シックな装いの素晴らしさにもあります。
そして、そういったスタイルにおいても活躍するバッグこそ、本当にエレガントなバッグであることをこの作品は伝えてくれるのです。
大人のバッグには、無駄な装飾も色も必要ありません。必要なのは、上質な素材とシックなデザインなのです。
『ティファニーで朝食を』のオードリー・ファッションについては、『ティファニーで朝食を』3(オードリー・ヘプバーンとジバンシィについて)をご覧ください。
主演第10作 噂の二人(1961年)当時32歳
この作品が、オードリー・ヘプバーンの最後の白黒映画でした。彼女は、この作品の前にファッション・アイコンとして歴史的な立ち位置を決定付ける映画「ティファニーで朝食を」に出演していました。あまりにも素晴らしく、センスの良い作品に出たことに対する自制の意味もこめて彼女はこの作品に出演することを決めました。
ファッション業界におけるオードリーの映画としてこの作品は、最後尾に位置します。しかし、実際のところこの作品は、リアルクローズ全盛の現代においては、重要度が増す作品となりつつあります。特に終盤で現れるピーコート。他にもウールのロングコート、カーディガン、そして、白のボタンダウンのシャツ。この作品は、オードリーが、モードに支配されていない(モードを支配していない)姿を見る唯一無二の貴重な作品と言えます。
『噂の二人』のオードリー・ファッションについては、『噂の二人』(オードリー・ヘプバーンとシャーリー・マクレーンについて)をご覧ください。