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【ディプティック】テンポ(オリヴィエ・ペシュー)

ディプティック
©Diptyque
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テンポ

原名:Tempo
種類:オード・パルファム
ブランド:ディプティック
調香師:オリヴィエ・ペシュー
発表年:2018年
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/28,270円
公式ホームページ:ディプティック

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ディプティックのフレグランス販売50周年記念作品

1961年に創業したディプティックが、オリジナルのフレグランスをはじめて販売したのは1968年のことでした。「ロー」という今でも販売されている香りです。そして、2018年に、フレグランス販売50周年を記念して2つの香りが発売されました。

そのうちのひとつ「テンポ」(もうひとつは「フルール ドゥ ポー」)は、オリヴィエ・ペシューにより調香されました。

ディプティックのはじめてのフレグランスが誕生した1968年とは、ヒッピー文化が最高の盛り上がりを見せていた年でした(翌年「イージー・ライダー」が公開され、ウッドストック・フェスティバルも開催され、ヒッピー文化は最高潮に達した)。

この時期、反逆と自由の香りとして、急激にもてはやされたのがパチョリ(パチュリ)でした。

そして、そんな60年代のエッセンスを、50年の時を経て現代的な解釈で伝えようとしているのがこの「テンポ」なのです。この香りのために三種類のインドネシア産のパチョリ(Pogostemon Cablin、P. Heyneanus、P. Hortensis)が使用されています。それらは全てジボダン社によるものです。

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ジボダン社のパチョリ

パチョリとは、ハーブの一種であり、ミントのような外観を持っています。香料の中でも振り幅が大きく、ウッド、カンファー(樟脳)、アーシィー、苔、グリーン、墨汁、煙、白カビ、発酵したリンゴ、ココアのような香りがします。

そして、ひとたび他の香料と結びつくと、その存在を感じることはほとんどないのですが、フレッシュ感を引き出し、香りに深みを与え、官能的な印象も生み出すという縁の下の力持ちの役割も果たします。

19世紀にイギリスに渡ったパチョリは、ポプリの主役でした。ジボダン社は、その原産地であるインドネシアのスラウェシ島で、2013年から直接小規模農家と契約し、高品質なパチョリ精油を安定した供給ラインで獲得する流れを作ることにしました。

ちなみに世界のパチョリ生産量は年間約1,000トンです(そのうち90%がインドネシア産)。まさにジボダン社はそれから3年の歳月をかけ、1000の農家と契約を果たし、最高級のインドネシア産パチョリの安定供給に成功したのでした。

そのシステムをかいつまんで説明すると、各地にジボダン社の現地バイヤー兼トレーナーが常駐し、タブレットの端末で、各農家に対してマンツーマンでトレーニングを行ってゆき、パチョリ栽培の品質の向上と安定供給を図っていくという実に地道な作業を行っています。

ちなみにパチョリ精油は、まず4日間乾燥させ、その後、8時間の水蒸気蒸留の工程を経て得ることが出来ます。

このプロセスをジボダンが完成させ、この香りがディプティックから発売された数ヵ月後の2018年9月28日に、スラウェシ島で地震がおき、津波被害もあり、4,340人が死亡し、667人が行方不明となりました。

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三種類のパチョリとマテ茶のスペシャル・ブレンド



調香師オリヴィエ・ペシューは、かつてインタビューで最も愛する香料は?と聞かれ「グリーンマンダリンとパチョリとアンブロキサンです」と答えていました。彼はジボダン社に入社する前に、1993年から4年間、花王で働いており、日本に在住していました。

そんな彼が生み出したこのパチョリの香りは、日本人に向けて作られたかのような非常に優しく円やかな、興味深い香り立ちがします。

フルーティーなピンクペッパーによりキラキラと煌くベルガモットと共に最初からパチョリがほのかに大地の恵みを感じさせてくれます。三種類のパチョリが使用されているのですが、ヴァイオレットリーフと恐らくアイリスがよくブレンドされており、アーシィーグリーンな香りの中に、パウダリーさが見事に溶け込んでいます。

すぐに、そこに馥郁なるマテ茶が注ぎ込まれてゆきます。フレッシュなシトラスとスモーキーでビターなマテ茶により、パチョリのクリーミーなカカオのような側面が引き出されてゆきます。

やがて、クラリセージが、パチョリの持つミントのような軽やかな側面を目覚めさせます。マテ茶とクラリセージは、パチョリのアーシィーさとハーブな側面に透明感を与える役割を果たしています。

この香りのテーマは、東南アジアと中南米、ヨーロッパのハーブがひとつの香りを生み出してゆく、〝50年の旅をしたパチョリ〟の香りとも言えます。だからこそ、かつて騒がしかったパチョリも、今では自制された円やかさと華やかさ、そして、美しさを併せ持つ魅力的なパチョリとして年輪を重ねているのです。

元々パチョリは、怪しげな出自を持つ香料でした。それは19世紀の第二帝政時代に、インドから輸入されたカシミアのショールに防虫剤として挟まれヨーロッパ上陸を果たし、パリの娼婦たちに愛される香りとなりました。

さらには貴族たちの不貞行為に及ぶアルコーブ(小部屋)の匂い消しに用いられるようにもなり、1960年代にはヒッピーたちが大麻の匂いを隠すために利用していました。そして、その後、安物の香水を象徴する香りのひとつとしてイメージは地の底まで落ちて行ったのでした。

そんなパチョリの香りの奥から甘くクリーミーなふんわりしたジャスミンの香りが渦巻いているのが、過去の50年前の甘い想い出のようでもあり、この香りの隠し味なのです。

こういう記念の香りを作るとき、その原点の第一弾フレグランス「ロー」の香料をいくつか使用するところなのですが、一切、そういったオマージュ的な香料チョイスをしていない所が、逆に新鮮で面白いです。

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香水データ

香水名:テンポ
原名:Tempo
種類:オード・パルファム
ブランド:ディプティック
調香師:オリヴィエ・ペシュー
発表年:2018年
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/28,270円
公式ホームページ:ディプティック


シングルノート:パチョリ、マテ、クラリセージ、ピンクペッパー、ヴァイオレットリーフ、ベルガモット