シャンハイ リリー
原名:Shanghai Lily
種類:オード・パルファム
ブランド:トム・フォード
調香師:アントワーヌ・メゾンデュー、シャマラ・メゾンデュー
発表年:2013年
対象性別:女性
価格:50ml/26,000円
マレーネ・ディートリッヒの香り
アジアのエキゾチックなテイストは、それが多文化の美と融合したときに、予想もつかない美を導き出してくれます。
私にとってこれはプライベート ブレンドの真髄のようなコレクションです。
トム・フォード
トム・フォードのプライベート ブレンド コレクションから2013年に発売された『アトリエ・ドリアン(Atelier d’Orient)コレクション』の4種類(「フルール ド シーヌ」「リーヴ ダンブル」「プラム ジャポネ」)のうちのひとつであり、最も人気のある香りが「シャンハイ リリー」です。
オリエンタル・フローラルの香りは、アントワーヌ・メゾンデューとシャマラ・メゾンデューにより調香されました。
この香水は、「シャンハイ リリー」という名前でありながら、リリーが一切使われていないことからも分かるように、1932年のマレーネ・ディートリッヒの主演映画『上海特急』からインスパイアされた香りと言えます。この作品でマレーネが演じる娼婦の名前こそが〝上海リリー〟なのです。
ハリウッドのセットで生み出された東洋の神秘。現実のチャイナがどうという話ではなく、異国の人がイメージするその国に対する憧憬が生み出すひとつの神話をカタチにした香りです。
アンナ・メイ・ウォンの香り
『上海特急』の中でもう一人印象深い女優が出演しています。
悲劇の女優アンナ・メイ・ウォンです。ロサンゼルスのチャイナタウンで生まれ、第二次世界大戦前後の激動の時代に、何度も人種差別に押しつぶされながら懸命に生きた東洋人女優の先駆的存在。現在、東洋の神秘を体現するスタイル・アイコンとして、再評価されている人です。
「シャンハイ リリー」の香りは、マレーネと彼女をイメージしたヨーロッパとオリエンタルが交差する香りです。
香水とは、ひとつの物語です。それが生み出されるまでのシナジーを感じる喜びです。それは香りを理解するために知性と教養が問われる〝大人の嗜み〟でもあるのです。
あてどなく彷徨うリリーの香り
「世界中の希少で豪華な品々を運ぶ歴史的なシルクロードからインスパイアされた」というこの香りは、映画の世界が白と黒の時代だった1930年代はじめのハリウッドが描く、東洋の神秘からインスパイアされた香りとも言えます。
水気の足らぬビターオレンジにブラックペッパーとピンクペッパーが注ぎ込まれ、強く絞り弾けあうようにして、情熱的なスパイシーさからこの香りははじまります。すぐにクローブがカーネーションのようなスパイス感を加え、この香りを揺り動かす役割を果たします。ベースのフランキンセンスが三つのスパイスにミステリアスな深みを与えてゆきます。
かつてトム・フォード自身が香りをクリエイトしていたイヴ・サンローランの代表作「オピウム」をあきらかに意識したオリエンタルなはじまりです。
さぁ、いよいよ白と黒の世界のフローラルが登場します。ローズとチューベローズとジャスミンがヴァイオレットとブレンドされ、背景にあるベチバーとカシミアウッドの中で、リリー(百合)が花開くのです。
この香りの魅力は、協調性のないそれぞれの香料の中で、クリーミーなリリーが、夢幻のようなオリエントの世界を、あてどなく彷徨うところにあるのです。
そして、ラオス産のベンゾイン、カストリウム、ラブダナム、ガイアックウッド、オリバナムといったシルクロードの贅の限りを尽くした香料が、巻き上がる砂塵のように香り全体を包み込み、パウダリーかつスモーキーな蜃気楼がリリーの前に生み出されてゆくのです。
本当にスケールの大きな香りです。そんな〝あてどなく彷徨うリリー〟、それは〝嘘をつき続けて生きている女性〟の香りなのです。「明日は嘘から開放されて生きたい」と願うリリー、〝臆病者のバラード〟だからこそ、肌に馴染むのではなく、心に染み込む香りなのです。
まさに私たちのために生み出された香りなのです!
香水データ
香水名:シャンハイ リリー
原名:Shanghai Lily
種類:オード・パルファム
ブランド:トム・フォード
調香師:アントワーヌ・メゾンデュー、シャマラ・メゾンデュー
発表年:2013年
対象性別:女性
価格:50ml/26,000円
トップノート:ビターオレンジ、ピンクペッパー、ブラックペッパー、クローブ
ミドルノート:ジャスミン、ローズ、チューベローズ、ヴァイオレット、リリー
ラストノート:ベティバー、カシミアウッド、ベンゾイン、カストリウム、ラブダナム、ガイアックウッド、フランキンセンス、バニラ