クールウォーター
原名:Cool Water
種類:オード・トワレ
ブランド:ダビドフ
調香師:ピエール・ブルドン
発表年:1988年
対象性別:男性
価格:40ml/5,940円、75ml/8,250円、125ml/11,770円
1988年、モダンフゼア=マリンフゼア革命勃発。

©Davidoff

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帝政ロシアのキーウ(キエフ)に1906年に生まれたジノ・ダビドフ(1906-1994)は、1911年、5歳の時、ポグロムにより、両親と共に、3か月以上の流浪の末、スイス・ジュネーブに移住しました。そして父は、かの地でタバコ店を開業しました。顧客にはロシア革命前夜のレーニンもいました。
19歳の時、ジノは、アルゼンチン、ブラジル、キューバの農園を訪れ、タバコの栽培と貿易を学びました。
1930年にキューバ・ハバナからジュネーブに戻ったジノは、父のタバコ店を引き継ぎ、ヨーロッパで唯一のキューバ産葉巻の仕入れ業者となり大成功を収めました。さらに世界で初めてのデスクトップ型ヒュミドールも発売し好評を得ました。
1967年以降、キューバで自社生産を開始し、世界中に高品質なキューバ葉巻メーカーとしてのブランドを確立します。1988年にキューバとの関係を断絶した後、1991年以降は、ドミニカ共和国のサント・ドミンゴに工場を移転し、世界の最高級の葉巻を生産しています。
そんなキューバとの絶縁を決定した1988年に、コティ社の協力の下生み出されたのが「クールウォーター」でした。〝冷たい水〟と名付けられたこの香りは、爽やかさ、セクシーさ、パワーの究極のブレンドとしてピエール・ブルドンにより調香されました。
この香りにより、それまでのメンズ・フレグランスの常識が、洗い流され、フレッシュ・クリーンなアクアティックな香りが大流行することになりました。
モダンフゼアの父、ピエール・ブルドン

ジョシュ・ホロウェイ ©Davidoff

ジョシュ・ホロウェイ ©Davidoff
「クールウォーター」は、18種類以上の天然成分と過剰な合成香料をブレンドして生み出された〝奇跡の水〟の香りです。それは当時としては過剰すぎるアンブロキサンとジヒドロミルセノール(約20%)とアリルアミルグリコール酸(メタリックなパイナップル缶詰の香り)によります。ちなみにアンブロキサンとジヒドロミルセノールのマリアージュが最初に果たされたのは1978年の「アザロ プールオム」によってでした。
つまりあくまでフゼアでありながら、この香りから、広大な海を想起させるジヒドロミルセノールとカロンをベースとしたマリンノートが主流となっていったのでした。
フゼアを未知なる領域へと導いたこの香り以降生み出されたフゼア・フレグランスをモダンフゼアと呼ぶようになりました。つまりピエール・プルドンこそが、モダンフゼアの父なのです。
全身を駆け抜ける、空と海のあいだに存在するアクアティックな香り

©Davidoff

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スプレーをひと吹きした瞬間、高層ビルから海水に向かって飛び込むような、なにかを突き抜けていくような爽快感で満たしてくれるこの香りは、ラベンダーとローズマリー、ミントのアロマティックなグリーンの閃光と、オレンジの情熱の太陽の爆発、塩っ辛いアクアティックなブルーの波しぶきが、あくまで軽やかに素肌の上でぶつかり合うようにしてはじまります。
すぐに、爽やかなジャスミンも加わり、ウォーターメロンのようなカロンと溶け合い、それらがひとまとめになり、晴れた日に、海から吹いてきた潮風のような爽やかさを広がらせてゆきます。最初から最後まで、コリアンダーがキレのあるスパイシーさを漂わせています。
やがて涼しげな松林とゼラニウムに包み込まれる中、クリーミーなサンダルウッドとムスクに、さりげなくシガーの香りが立ち上り、クリーンなアクアティック×アロマティックなソーピィーさで満たしてくれるのです。
ルカ・トゥリンがファイブ・スターを付けた香り

ポール・ウォーカー ©Davidoff
空と海のあいだに存在するアクアティックな香りの元祖でありながら、実は蜃気楼の中の新緑の輝きを思わせるモダンフゼア=マリンフゼアのはじまりであるこの香りは、1985年に同じ調香師がクリードのために生み出した「グリーン アイリッシュ ツイード」ととてもよく比較されます。さらにはシャネルの「エゴイスト プラチナム」ともよく比較される香りです。
広告キャンペーンでは、ポール・ウォーカー(1973-2013)が起用され、放映中に自動車事故で死んでしまいました。それまでは『LOST』で人気スターになったジョシュ・ホロウェイ(1969-)がイメージ・モデルをつとめていました。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「クールウォーター」を「アロマティック フゼア」と呼び、「この優れた1988年の作品でビエール・ブルドンは有名になり、シプレ以外の香水ではどれよりも、これに似たものが作られた。成功を収めた男性用香水の難点は、これをつけていればよかろうと勘違いした輩が続出することにある。」
「この香水を評価するとき、シャツをはだけて髪にジェルをつけた男を想像しないようにするのは……この香水はシブレと違って、ウィンドサーフィンやボーイング707のように、 最初から成功を収めた部類に入る。無数の類似品や、強めたり変化を加えたり複雑にしたりした香水が現れたが、これを超えるものや、おもしろみを上手く加えられたものは生まれていない。」
「クールウォーターは、野性のリンゴ、ウッディシトラス、アンバー、そしてムスクを調合した、元気で抽象的で気軽な、絶対の効果を発揮する香水。これから10年か20年は、女性がつけたほうがよかろう。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:クールウォーター
原名:Cool Water
種類:オード・トワレ
ブランド:ダビドフ
調香師:ピエール・ブルドン
発表年:1988年
対象性別:男性
価格:40ml/5,940円、75ml/8,250円、125ml/11,770円
トップノート:シー・ウォーター、ラベンダー、ミント、ローズマリー、カロン、コリアンダー
ミドルノート:サンダルウッド、ネロリ、ゼラニウム、ジャスミン
ラストノート:ムスク、オークモス、シダー、タバコ、アンバーグリス